第49話

翔を指差し周りを見渡しながら小ばかにしたように話す様が、本当のアラムなのだと悠を始め魔王とジーンは少しだけほっとした気持ちになる。

「そこの、黙れ。悠だけに話すつもりだったが‶皆絶対に分からないだろうから皆にも教えてあげて‶・・・と頼まれたのだ。俺が自ら教えてやる。光栄に思え」

言ってる事は最悪だけどな・・・しかも翔ちゃんの名前分からなかったから言葉詰まらせたな。・・・分かりやすい

「って、私一言もそんな事言ってないんだけど!」

「そんなことはどうでもいい。」

今自分で言ったくせに・・・。どうでもいいならいちいち心の中読まなきゃいいのに。と心の中で悪態を付く。

「俺が心を読みたくて読んでいると思っているのか。読みたくなどないわ」

「分かったからもうさっさと話せよ!」

しかしアラムはその心の声にわざと返答する為、これではらちが明かないとアラムに怒鳴る様に叫ぶ。

「仕方がない。お前達の理解が追い付くかどうかは知らぬが話してやろう。」

素直に話すればいいのに・・・

悠や魔王、ジーンにアラムは心の中で会話をすることが出来るが他の者達にしてみれば達は悠やジーンが険しい表情になったりアラムが悠同様に独り言を話しているようにしか見えていない。

その為翔や伶は憐れんだ様子でこちらを見つめ有稀はさほど気にしておらず新に至っては何が面白いのかこの状況をどこか楽しんでいるようだ。てか私は慣れてるけどそんな憐れんだ目でアラムを見るのやめてあげてくれ。・・・後から私が八つ当たりされて被害に遭うから

「仮に、あいつに名を付けるなら‶phantom‶と呼ぶ。似ている部分が多いからな。」

とうとうphantomらしき人物まで出てきちゃったよ・・・。てかアラムも魔王と同じくらい生きてるからphantomにあったことがあるのか!ならphantomに似てるって言うのも信憑性がありそうだけど・・・とアラムの次の言葉を待ちつつ頭の中で情報を整理する。

「あいつ、‶Phantom‶はこの任務が終わり次第次の作戦へと取り掛かる。」

「次の作戦・・ね。そもそもこれのどこが任務な訳?成功したとは言えないと思うんだけど」

「成功はしていない。だが悠は‶覚醒‶した。元々覚醒させるための任務だ。時期に‶覚醒‶すると分かっていたようだ。成功する確率は低いが成功していたとしても関係なく次の作戦へと取り掛かるつもりでいる。」

ジーンやアラムを術で操り人間ながらも悠と同じ力を手にし、phantommに似ていると言わせた者は相当頭がキレるようだ。

何故なら、失敗しようが成功しようが次への作戦には支障が無いと分かっていながらもわざとこの状況になるように仕立てたからだ。

あわよくば私を覚醒させるために私含めて翔ちゃん達をあんな状況にさせたってこと?・・・てか覚醒ってなんだよ覚醒ってそんな特殊な力持ってないんだけど。もしかして力の解放とあの力を使うように出来たことか?

「‶覚醒‶が何かは知らん。・・・次に遂行する作戦は大掛かりな任務と力が掛かるからか膨大な時間を費やしていた。本腰を入れ始めて五年だと言っていたが・・・」

とアラムは作戦の内容を言うのを躊躇う。何故ためらったのか。それはアラムが‶虫唾が走る‶と心の中で思わせるには十分すぎる内容だった。

「Phantomは全ての‶界‶を魔界、人間界、精霊界、天界、そして‶神界‶を繋げるつもりでいる。」

「そんなことしたら世界の理が崩れるじゃねーか!!」

アラムの言葉に皆言葉を失い絶句する者もいる中、翔がいち早くその言葉に反応する。無理もない。界同士を繋げるなど到底考えつくようなものではないからだ。

「世界の理が崩れれば・・・世界が壊れる事になる」

こちらのその呟きが何故か皆の耳に妙に大きく聞こえていた。

この世界は、全ての界を留め、界同士が直接繋がりを持たぬように保たれている。それが‶世界の理‶だ。

‶世界の理‶は、この星。つまりは世界を神が創造した際に作られ認識することも触れることも出来ないが近くまで侵入することが出来る。そう、悠達が魔界へ行くために入った時空の狭間だ。時空の狭間は界と界を隔てる壁の役割を担っておりそれこそが‶世界の理‶に最も近いものだと言える。


神が創りし神だけが変えることが出来、神が作り上げた為‶世界の理‶が出来たと言っても過言でもない。


その‶理‶が崩れるような事態になれば星は、この世界は崩壊すると言われている。

‶世界の理‶は=‶界‶とも言える。何故なら、その理が作り出されたのは‶界‶が存在しているからだ。


悪魔と呼ばれる種が治める魔界

人間と呼ばれる種が治める人間界

精霊と呼ばれる元素を司る種が治める精霊界

神に最も近しいとされる天使と呼ばれる種が治める天界

と、四つの‶界‶が時空の狭間同士の間に存在し各界がどの時空に存在しているかを分からなくする為に‶世界の理‶があるとされている。


そして四つの界の頂点にし中心にあるとされているのが神界ーしんかいーと言われている。


神界は決して交わることなく近いようでとても遠い場所にあるとされており、時空の狭間とは別の場所に存在し、四つの界が繋がる時現れると言われているが神を信じている者など多くなく実際にあるのかさえ分かっていない。


悠達が現在いる魔界は‶ゲート‶と呼ばれる悪魔が使う特殊な扉を介して人間界と一時的に繋がっているにすぎない。

男子校での魔王との会話に使われた扉やジーンやルシーが魔界と人間界を行き来する際に使われていた扉がゲートだ。

精霊と天使はゲートの代わりに聖杯所持者と契約する事で聖杯所持者を媒介にしゲートに似たものを作り出している。

また、聖杯所持者が使うことのできる方陣もゲートの代わりとなるが悪魔には有効とは言えないが精霊と天使には有効だ。

さらに人間は悪魔や精霊、天使と同じ様にゲートを出現させることが出来ない。

精霊や天使のゲートは特殊な為出現が出来ないが悪魔が使う特殊なゲートであれば悪魔の力を持っているものは出現させることが出来る。もしくは、時空の狭間をこじ開け目的の‶界‶への移動となるがそれにはどちらもかなりの力が必要となる。


悠は世界の理の事を思い出しながらアラムが伝えたいことを整理している。皆同様に整理をしているのか無言が続いている。

私は元々こじ開けることも出来るし、悪魔の力があるから呼び出せるんだけど、一番いいのは他の悪魔がゲート開けてる時に後ろからそっとついて行くのが楽なんだよね!

ゲートは悪魔であれば出現させれる訳ではない。

中級の位を持つ悪魔以上にしかゲートを出現させることが可能であり、またゲートを出現させることの出来る悪魔にはその悪魔専用のゲートを作り出すことが出来る為上級悪魔はそのゲートしか使わないのだ。

何故ならゲートを出現させる度に膨大な力が必要となるからだ。あらかじめ専用のゲートがあれば膨大な力を使うことなく行き来が可能な為専用のゲートを作り出しているのだ。

精霊や天使は似たようなものを作り出し行き来が出来るがそれは精霊と天使だけが使え人間が行く事は出来ない。魔界とは違い精霊界と天界は特殊な場所な為人間の立ち入りが制限されているのが主な理由だ。

人間が精霊界へ行くためには精霊に招待されなければならないが招待されれば確約されたのも同然となる。天界も同じく招待されなければならないのだが精霊界とは大きく異なる。

そもそも天界は天使以外の出入り着固く禁じているのだ。悪魔や精霊は定期的に天界にて話し合いが行われている為その度に特別な招待状をもった使者が現れるようになっている。

人間が天界へ行く方法はその特別な招待状を持った使者が現れるのを待つ他ない。もしくは天使と契約しその天使から受け取る方法もある。

まぁ、その招待状は貰えることなんてないんだけどね…。

精霊も天使も方陣で召喚するのは難しいって言われてるし、召喚できても位が低いのが殆どだからまず招待状あげれる権限が無いから。

私も精霊界も天界も行ったことないし。位が高い天使や精霊を召喚しても結局招待されなかったからな…

あー・・・それに一応悪魔も方陣で召喚できるんだけど、昔に何かあったみたいで悪魔を召喚しないのが暗黙の了解になってるし。

「・・・」

でも一回だけ天使が魔界に来たことがあったんだよな…その時は隠れて見てたけど特別な招待状の他にももう一つ何か貰ってたから、どのみち精霊界には行けるかもしれないけど天界には行けないんだろうな…というか、天界ってちょっとめんどくさいから行きたいとはあんまり思えないんだよね。と苦笑いする。

天界は界が半分に分かれているのだ。

どちらも天界と言い、聖杯所持者が言う天界とは、純白の羽がある想像通りの天使が住まう場所をさす。もう一つの‶天界‶は聖杯所持者だけではなく人間界でさえごく一握りの者にしか知られていないのだ。

もう一つの‶天界‶は‶堕天使と呼ばれる堕天族が住まう場所である。

本来は魔族と同じ種族だったのだが悪魔でもあり天使でもある堕天使は神より‶界‶を与えられたのだがその場所が天界であったが故に‶界‶の中に‶界‶がある今の様になったと言われている

天使は神に最も近い存在と言われており、稀にその神に悪を抱いてしまうと堕天使になると言われており堕天と省略されることも多く天使からは‶堕ちる‶と言われている。

その‶堕ちた‶天使、堕天使が住まう界を天使達は堕界ーだかいーと呼んでおりいつしかその名が通称で呼ばれるようになった。

堕界は天界と全て同じ造りや仕組みだが天界に敵視されている堕天使は天界に行くことは固く禁じられているが天界で会議がある時のみ、特別に監視が付くが入ることが許されている。

天使の姿は真白で純白な翼をもつ。その羽は全ての者を虜にさせると言われている。一方堕天使は見た目は天使と変わらないが、純白の羽は片方のみにしかなくもう片方は銀鼠色ーぎんねずーと白鼠色ーしろねずみーの中間の色になっている。やがてその色が翼全体に広がる。

最後に‶神界‶だが、神界は神が住まう場所とされ様々な神々が暮らしているとされている。だがその存在はとてもあやふやだ。

存在しているのかしていないのかそれさえも分かっておらず神もまた神話も謎に包まれている。古い文献には四つの‶界‶を繋げることで神界への道が開かれる。と言い伝えがあるのみだ。

世界の理を知るには余りにも膨大な知識が必要となる為、教科書には簡易の説明がされている。男子校ではこのような説明がなされている。

まぁ、簡単に説明すると神が世界を創る時にそれぞれ時空の狭間に挟まれた形で‶界‶を作ったのが‶世界の理‶の始まりって事。まぁ、時空の狭間が‶世界の理‶って考えでいいいんだよ。私もそこまで深く考えたことないし。

「なんでまたそんなことしようと思ったのか・・・全く分からないよね」

悠が世界の理に付いて整理が終わり吐き出すように言葉を紡ぐ。

時空の狭間との間にある‶界‶を全て繋げるということは、今まで保たれていた世界の均衡が一瞬で消えさるということだ。

しかしその‶界‶を繋げるには強大な想像をはるかに超えた力が必要になる。

人間、悪魔、天使、精霊、堕天使の各界に住まう種族の力が必要不可欠だ。

特に、力の強い悪魔や天使、精霊そして一握りの人間が持つ力聖杯を持つ者、聖杯所持者は時空の狭間に入り込み穴を開け繋げることげることが出来る為間違いなく聖杯所持者が標的となるだろう。

「同感だ。・・・操られていたとはいえ俺にもジーンにも他の操られている者達にさえ‶phantom‶の思惑など分からぬだろう」

アラムは‶得体のしれない奴だ‶と最後に付け加え悠から視線を逸らした。

「多分翔ちゃん達あんまりわかってないだろうから簡単に説明すると、聖杯所持者の中でも特に力の強い人間も標的なるってこと。つまり私や翔ちゃん達の事ね。魔王もジーンもルシーもアラムも四従士も天使も全種族が標的にされてるってことだよ。世界の理の事が分かってれば私が言ってる意味、分かると思うけど?」

伶と新は世界の理の話しが出た後顔つきが変わった為、標的が自分達だけではなく全ての種族に及ぶ事が分かったのだろう。

怜は珍しく表情が顔に現れており新も同じ様に真剣な表情になっている。

有稀は大体分かっていたのか話を聞いた直後血の気が引いて行っているが翔だけがよく分かっていないのか深く考え込んでいた。

だから簡単に分かりやすく説明したんだけど・・・ようやく分かったみたい。

翔ちゃんってこう言うちょっとややこしい話苦手だから今までで一番眉間に皺寄ってるよ・・・

もし全ての界が繋がってしまえば人間と悪魔の戦いは増し。堕天使と天使は戦争を始めるだろう。さらに堕天使が悪魔の種族へと戻る可能性も出て来る。それだけではなく。精霊は元素を司っている為すべての界にある元素が精霊の力となる。

どの道、最悪な未来しかないって事だよ!!もう本当になんてことしようとしてる訳!?

「心の声が煩いぞ悠。・・・今のこの状況を変える可能性を持つのは悠だ。悪魔と人間のことを理解し精霊の王と龍と契約をしている。天界にも多少なりとも理解があり一番‶labyrinth‶に近い存在だと言えるだろうが、phantomは自ら動かない。動くのは俺と同じ悪魔だ。ジーン、貴様も入っているようだが」

・・・そのlabyrinthにもう自分超えてる発言されてるとは言えないわ。言える雰囲気でもないし。てか過大評価しすぎじゃね?アラムそんな風に思ってたのは意外…あ、睨まれた。

真剣な表情で語るアラムをよそに悠は相変わらずだが、空気は重いままだ。そして問いかけられたジーンんが静かに口を開く。

「・・・でも、もう僕はやらないよ」

「そんなことは分かっている。・・・俺を操れていないのが知られたら今度はあいつが来る。その前に俺は退散する。裏の俺からの伝言だ。傷つけて、ごめん。僕・・・だそうだ。何故この俺が伝える必要が有るのだ」

アラムはブツブツと呟きながらゆっくりと上空へ浮き始める。

え、まさかこの空気で帰る訳?このもやもやの作り出した元凶のアラムが居なくなる訳?

「俺も狙われる身になる。さらにこれ以上戦う必要がない。せいぜいそのままの気持ちで居る事だな!また会おう。・・・次に会う時は・・・そもそも会いたくはないがな。」

おい!やっぱり性格破綻してるぞこいつ!!てか、次会う時はの続きが気になるんだけど!!会いたいのか会いたくないのかどっちなんだよ!

・・・でもアラム、向こうに裏切ったことを知られてるから行く当てなんてないし隠れる所だってないんじゃ・・・心配しても無駄か!と、遥か上空で止まりこちらを見ているアラムを見上げる。

アラムは何を思ったのか背中から髪と同じ黒鳶色ーくろとびーに猩猩緋色ーしょうじょうひーが所々に入った思わず魅入ってしまう様な大きな翼を広げるとそのまま飛び去って行った。

「・・・悪魔って本当に翼生えてるのか」

アラムが飛び去り暫く上を見上げたまま呆然とした翔がそう一言、言葉を零した。

今更!

「嘘だと思ってたの?・・・教科書読み返してきた方がいいと思うよ」

「仕方ねーだろ!悪魔の翼を見てるやつの方が少ねーんだよ!」

その会話を聞いていたジーンが何とも言えない表情を浮かべ翔の肩に手を置く。

「中級悪魔以上になると翼が生えているんだよ。だけど翼を広げなくても僕たちは飛べるから羽実際に翼を見たことが無いのは仕方が無いんだ。・・・それに悪魔にとって翼は致命的ではないけど急所にもなるんだよ。敵意が無い事を知らせる為以外に翼を広げる事はないからまず見る事は出来ないけど、アラムが翼を広げるなんて意外だった・・・そう思わないかい?魔王」

「そうだな。・・・だがこんな事にいちいち驚かれていては先が思いやられる。・・・悠は反応さえしなかったというのにな」

ちょっと今何気に私の事ディスったんだけど・・・あー、でもそうか。私は悪魔の近くにいたし魔王とも仲良かったから翼なんてよく見てたから普通だと思ってたけど案外私って色々知ってるって事?

心底呆れているのか翔を見ながら溜息を付く魔王を見てジーンも苦笑いし、有稀や新。伶が翔に話しかけ場の空気が和らいだ中、低い声とともにその和らぎは終わる。

「ここにいる要はもうない。・・・帰るぞ。ジーンお前も来い。」

魔王の声と共に各自術を発動し始める。悠一人が何とも言えないもやもややとする気持ちを抱えながらその場所を後にした。

その時、悠と同じ気持ちを抱えている者が居る事。

既に色々な事態がつい足元まで迫っていることに気が付くのは、もっと先の事になる。

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