第48話
「今発動している術は四従士の力を使った術で、labyrinthが残した術に載っていたのを見たことがある程度の知識だけど、難易度は最上級。まぁ、この術悪魔の動きを一時的に止めるのと、悪魔の瘴気を低下させる効果があるんだけど光に触れるとそのまま消失するからアラムは動けないんだよ」
labyrinthが残した魔法、現在で言う術は、聖杯の基礎となったと言われており今も尚labyrinthの残した術を基礎とし使われている。
基礎と言ってもlabyrinthが生み出した術は全て余りにも威力が大きく力の消耗が激しいためそのまま使われることは無く今現在使われているのは治癒と転移のみだと言われている。
そして先ほど使った術は‶超上級‶に分類される。理由は一つだ。四従士を召喚し、主と認めさせて契約することが前提の術であるからだ。
現在の聖杯の力の基礎となっているlabyrinthの魔法、術には下級、中級、上級、超上級と四つに分類されている。これもlabyrinthが自ら分類し、そのまま現在も使われている。
下級は主に基礎的な具現化と非具現化の使い分けやコントロール、転移だ。
中級は詠唱が必要となり武器に術を纏い戦う応用が多い。
上級になるとほとんど使える者は居ないのだが悠が使ってきた術は半分程がこの上級に当てはまる。魔界で北の森の探知の際に翔が使っていた術や治癒もここに分類される。
超上級に関しては分かっていないことが多いのだが、悠は残り半分ほどの術が超上級に当てはまっている。禁忌と呼ばれている術の殆どが超上級に当てはまる。
勿論それは男子校に通う誰もが習うものであり皆引きずった表情で悠を見ている。その中でもやはり翔は有稀達とは違う反応を見せる。
「はぁぁ?どんな術発動させてんだよ!お前死にそうになってただろーが!」
「翔ちゃんも死にそうになってたよね!?てか皆死にそうになってたから!」
一番瀕死だった翔ちゃんがそれ言う!?
翔の言葉に瞬時に反論すれば有稀と新は笑い伶はうっすら笑みを浮かべている。
凄い笑われてるよ翔ちゃん…
「あー・・・つまり!四従士と契約できないとこの術は使えないってこと。」
四従士と契約するのが前提で作られた術とかなんでそんなもの作ったのか全く分からないんだよな…上級以上の術なんて出来て当たり前みたいな感じで作られてる術ばっかだったわ。話した感じだと自由だって事だけはよく分かったな・・・と、自身が死にかけている間に内側で起きた事を思い出し苦笑する。
「本当にでたらめだな・・・labyrinthってのは。」
labyrinthだけじゃなくて魔王もジーンも割とでたらめなんだけどな!?・・・そのでたらめなlabyrinthに最恐とか言われたらもう一番でたらめなのわたしなんじゃ・・・考えるの止めよう!
悠の言葉に対し呆れを通り越し理解できないと言った様子で翔は眉間に皺を寄せながらlabyrinthに対しでたらめだと言う。それは術ではなく本人自体の事を指しているのだろう。
・・・多分これソファーに腰かけながら見聞きされてるんだろうな!と、部屋を思い出し乾いた笑いが出る。
「あー・・・話は戻るけどこの術は発動している空間ごと切り取った感じで変わるんだよ。だから外から見ればここの空間が異常な訳。まぁ、四従士の力使ってるから力も空間も異常になるのは当たり前な気もするけど。で、光が混ざりあってその内冬の空の色になるんだけど、今まさにその色になりつつあるんだよね。しかも季節によって色が変わるらしいよ。」
なんでそんなオプション付けたのか謎だけど、まぁlabyrinthだから…と何故か納得出来てしまう。
四色の色はお互いを浸食し合う様に混ざり合い溶けるように色を変えていく。その様は言い表す事の出来ない程幻想的かつ敵にとっては恐怖以外のなにものでもない。
「四従士の力が混ざり合って別の空間を生み出してその空間は外から見たら異常だから外から一歩でも光に触れれば原子レベルで肉体を分解して何も残らなくなる訳。内側は安全だから動いても何しても問題ないんだよ」
・・・原子レベル分解されればそこには何も残らない。分解される時に燃えているように見えるらしいけどそれは目の錯覚らしいし。
まぁ、ある程度強い四属性の精霊と契約すれば小規模だけど同じ事は出来ると思う。精霊にも術者にもかなり負担はかかるけど。
「そんな訳で、アラムはこっちに近づいてこれない訳。舌打ちしたのはこの術に気が付いたから。気が付いて居なけば今頃分解されてた訳だし?」
軽くそう言う悠に思うところがあったのか、-一体何に対して思うことがあったのかは不明だー翔達は深く考え込んでいる。が、
あのさ、魔王。そろそろ視線で穴が開きそうなんだが!?
悠は翔達や術の説明よりも、回復した魔王が瞬きせずこちらに視線を注ぎ続けられているのが気が気ではなかった。
そろそろ瞬きくらいしてもいいんじゃないかな!?なんでこんなに見つめられてるんだ。その睨み付けるような目はもうそれだけで人も悪魔も殺せそうなんだけど…と視線を泳がせていると光は完全に雲一つない冬の空の色へと変わっていた。
・・・もうそろそろ術が解けるか。
アラムの事が最優先だ、と今だ浴び続けている視線を無視し警戒態勢に入る。
「もう皆、傷は殆ど治ってるはず。完全に色が変わったから時期に術が解ける。解けたらすぐにアラムが攻撃してくると思うけど、戦えるよな?」
悠の言葉に皆周りを見渡し、各々深く頷く。勿論その中には魔王とジーンも含まれている。
「この技を悠が使う日が来るとはな…」
静かに呟いた魔王の声がやけに耳に残り後ろを振り返る。・・・今は気にしない様にしよう。全部後で聞ける事だし、うん。
そのまま魔王とジーンの元へ近づけば怪訝な表情を浮かべる魔王と満面の笑みを浮かべるジーンと真逆の反応をする。魔王に至ってはあからさまにこっちに来るなって顔してるんだけど・・・来たら不都合でもあるのか!
「あー・・・四従士と、契約したからね。・・・翔ちゃん達に説明してたの聞いてたでしょ?それに、魔王もジーンもこの術知ってるみたいだし。まぁ、魔王もジーンも私達よりはるかに長い時間を生きてる訳だし知ってても可笑しくないと思うけどね」
魔王もジーンも悠の言葉に反応することは無かった。何も語らないということはすなわち、同意の意だ。完全に私の言ってること当たってるな…でも今心読めない様にされてるけど間違いないな
それ以上ツ級することはせず上を見上げる。
・・・冬の空の色は融けるように、灰色の空に戻っていく。
アラムも同じ様に空をじっと見つめていた。完全に術が解け、魔界らしい瘴気が漂い空の色も灰色に戻った瞬間アラムは悠の目の前にいた。
咄嗟に聖杯を召喚し新たな剣で攻撃を仕掛けようとしたまさにその時、アラムは何事もなく平然とした様子でまるで長年会っていない友に話しかけるようにはなしかけてきたのだ。
まさか普通に話しかけてくるとは思わなかった!
「・・・久しぶり」
「あー、久し振りだけど・・・あんた一体何してる訳?無闇に人間や悪魔を襲わないとか言ってなかったっけ?」
先程までの敵意を感じなかった悠は具現化を解き、アラムと同様にこちらも冷静に話しを始める。それを見た翔達はますます状況の理解が追い付かなくなっているのか首を傾げたり混乱している。魔王もジーンでさえも驚いている様だが一人冷静な悠を見て落ち着きを取り戻すあたり経験の差が出ているのだろう。
冷静に見えてるところ悪いんだけどなんで普通に話しかけてきてるんだよこいつ!皆と同じくらい混乱してるよ!!繕えてる私凄いな!?
と一人心の中で一番混乱しているであろう悠を無視し、アラムは只自身が伝えたい言葉だけを紡ぐ。
「・・・俺も、同じ。・・・ジーンと、同じ」
その言葉に皆動揺した。無理もないだろう。先程まで戦っていたアラムとは明らかに殺意を感じられず口調も何処かたどたどしい。
「同じって…まさかの!?」
ジーンはあの状況で話が長くなるのを避ける為重要な部分だけを纏めた為話せなかったのだが、脅されている間術を掛けられていたジーンには‶悠を想う心‶の方が大半を占めていた為か術に掛かっていたものの術の効果が浅かったのだ。
術の効果も浅く掛かり方も甘かったからか自らの意思で命令を背き続け術の効力は徐々に無くなって行き学園で会った時には既に術が解けていた。
同じくアラムは術はかなり強く掛かっていたのだが元々服従させられることに抵抗があったためジーンの元へ向かう際術はすでに解けかけており、四従士の光で悪魔にとって必要な瘴気を低下させられたことで完全に術が解けたのだろう。
なんとなく操られてるだろうとは思ってたけど本当に操られてたのかよ!てか今自我が戻るってタイミング!
「アラム・・・術が解けかけてたならなんで、戦う前に僕に言ってくれなかったの。そしたら僕だって、本気で戦うことなんてしなかった・・・」
ジーンはアラムに近づき、そっと右肩に手を置く。その表情はとても悲しみに溢れている。ジーンとアラムは性格は似ていないが仲は悪い訳ではなくむしろ良い方だったと言えるだろう。だからだろうか、よけいにジーンは戦ってしまったことに悲しんでいるのだろう。
「・・・かいわぜんぶ・・・聞かれてる。俺・・・殺される」
アラムは言葉を詰まらせながらも静かに話すが・・・悠と魔王、そしてアラムの一番近くにいるジーンは異常さに気が付いていた。
・・・アラムが恐怖で震えてる。こんなアラム見たことない。
ジーンと同じく魔王もアラムの近くへ行き左肩に手を添えた。アラムを知っている者ならば、誰もが通常の状態ではない事が分かる程話し方や立ち姿に至るまで全てに違和感があるのだ。
自信家で何時も誰かを見下し常に前だけを見据え、例え敵わない相手であってもその態度を崩す事のないアラムが恐怖で震えているのだ。・・・それは、操っている者が計り知れないほど強い力を持つ事を示している。
「俺・・・・は・・・あいつをゆるさない」
先程までは恐怖で震えていた者が怒りに変わり震えはじめる、ここまでアラムを恐怖させ怒りを覚えさせここまで言わせる程の術者は一体、‶あいつ‶とは一体何者なのだろうか。
・・・それも気になるけど、それ以上にさっきから気になっていることがあるんだよな
「・・・あのさ、アラムいつからこんなキャラになった訳?路線変更でもしたとかじゃないよな?そんな大人しくてびくびくしてるの見ると違和感通り越して正直不気味なんだけど。」
「は?・・・こいつこんな性格じゃねーのか?」
その言葉に翔は眉間の皺をさらに寄せアラムを上から下まで眺めこちらに問いかける。
「・・・どういうことだ」
「全然わからないねぇ!」
同じく伶と有稀も翔と同じ様にアラムを見つめる。
「性格変えたんだよきっと~」
それは違うだろ!人の話聞いてたのかこいつは!と、悠の突っ込みが心の中で入る。
新はいつも通りというのだろうか。的外れな意見を口にしていると言うよりかはあまり興味が無いのだろう。
「僕も魔王も悠もアラムとは知り合いだけど、いつものアラムとは正反対なんだ。悠の言う通り戦っている時から可笑しいと思ってたんだよ。」
ジーンはそう言い横に居る魔王を見て意見を求める。翔達は現状がさらにややこしくなったと、ついに理解が出来なくなっていた。あー・・・元のアラム知らないから分かる訳ないか。
「終始戦いで無降した発言をしていたが、今日はわざとやっていると思っていた。・・・流石の俺でもこの状況は予想外だ。」
低い声で唸る様に頭を抱える魔王を見られるのは、今日で最後かもしれないとは言っていられない程状況は混乱していた。
大丈夫。ジーンも私も魔王と同じだから!!
「それは・・・・俺。アラムの、もう一つの・・・アラム」
「それはつまり~?」
アラムが再び話し出すが要点を得ない為新がさらに話を聞き出そうとすると大きなため息と共に翔の声が辺りに響いた。声大きいな!
「・・・二重人格って事だろ。説明下手かよ!めんどくせー…」
その言葉にアラムの表情が少し硬くなる。
あ、今アラム傷ついた・・・アラムもだけど翔ちゃんもめんどくさいな!
「・・・作りだされた・・・あいつに」
何度も出てくる‶あいつ‶と言う言葉に皆首を傾げる。しかしそれ以上に話が進まないことに腹を立てている人物がいた。
そうだよ私だよ!!あいつって誰だよあいつって!もっと特徴とかないのか!
「・・・にんげんなのは、たしか・・・闇がある・・・けはいはphantomににていた」
人間で闇抱えてて気配がphantomに似てる?・・・もう結局分からないんだけど!
「確かに・・・言われてみればphantomの気配に似ていたよ。それに、力は悠に近かった気がするよ」
アラムの言葉に付け加えるように話すジーン。ここでphantomが出てくる訳?・・・labyrinthが力の一部になってると言いこれ相当な事なんじゃ?
「・・・聖杯所持者の可能性があるということか」
「悠と同じ力ってことはだ、悠と似たようなもしくは同じ様に悪魔の力を得ている可能性もあるって事じゃねーのか?」
悠の心の声とは裏腹に、怜が冷静に判断し翔も補足説明する形で頭を抱える。
「・・・もう、少しで俺は・・・回収される」
冷静に見えているだけなのかもしれないが淡々と言葉を紡ぎこちらを見る。・・・まるで助けてって言われてるみたいなんだけど!!なんでどいつもこいつも私を見てくるんだ!
〝だから・・悠には、言って・・・おく〟
言葉を交わしていたアラムの心の声が突如頭中に響いた。驚きアラムを見るが表情は変わらない。魔王とジーンを見るが首を横に振り、こちらにだけ聞えるようにしていることが分かりつい言葉が零れる。
「いきなりはやめてほしいんだけどな・・・」
悪魔の心の声も人間の心の声も聞こえるけど日によって聞こえなかったりするんだよ!最近は普通に聞こえるようになってるけど・・・突然話しかけられるのは思ってるよりも心臓に悪いんだって!
その声に反応したのは翔だけだったが、‶何言ってるんだこいつは‶と言う訝しげな目でこちらをチラリと見る。傍から見れば何の前触れもなく突然ひとり言話し出した可笑しい奴にしか見えないもんな!
と心の中で散々文句を言い終え、小さく溜息を付き仕方なく心の中で問いかける。
‶で?魔王にもジーンにも聞かせない様にして一体何話したい訳?まぁ、無理やりにでも聞こうとしてると思うけど‶
‶・・・俺じゃなくて、もう一人の・・・俺、にはなして・・・もらう・・・〟
本当にめんどくさいな!それわざわざ心の中で言うことじゃないと思うよ!
「悠。なんて顔しているんだ。可愛い顔が台無しだよ」
余りのアラムの自由さに酷く疲れた顔をしていたのだろう。そう言いながらもジーンも眉間に皺を寄せ良い顔が台無しになっている。
「そんなにひどい顔してた?・・・そう言うジーンも大して変わらないと思うけど」
「流石に会話の内容が酷くてね…悠と同じ気持ちになってしまったよ」
やはりジーンも会話には入ってこないが魔王もアラムと悠の会話を聞いていた。
一対一で会話をしていても力が強い悪魔には割り込まれ心の会話を聞かれてしまう場合がある。・・・まぁ、それ私達が知ってる限り盗聴って言うんだけど。悪魔には関係ないからな…とつい遠い眼をしてしまうが直ぐに心の中でアラムに問いかける。
‶てかアラム。黙ってないでなんとか言ったら?。そもそも普通に皆に話せばいい内容だと思うんだけど‶
「・・・・・しょうがない。俺が自ら出て来たのだ。有難く思え。」
「なんだこいつうぜーな!・・・は!?こいつ話し方変わってるじゃねーかよ!」
突如纏う雰囲気が変わり、先程のアラムとは正反対の口調と少し見下した態度で話出したことに驚き初めに口にしたのは翔だった。・・・今皆の心の声を翔ちゃんが代弁したよ。
「あー・・・だから最初に説明したでしょ。全く性格が違うって。翔ちゃん野言う通り本当にウザいんだよ。それに元々の性格がこれだから。とにかく翔ちゃんナイス!」
翔は不思議そうにまるであったことのない生物を見るような目でアラムを見ながら悠の言葉に軽く返事をする。何故悠が褒めたのか、当の本人は分かっていない様だが。
翔から視線を外し周りを見渡すと、怜のとても渋い表情が真っ先に目に入ったがそのまま何事もなかったかのように悠はアラムへ視線を戻した。・・・あんな顔初めて見たわ。そっとしておくのが一番だな。有稀も新もなんか微妙な表情してたし。
気付いてないふりしとこう…。どうせみんな同じような表情浮かべてるだろうしと、小さく苦笑いをした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます