第47話

アラムの放った黒を帯びた稲妻が翔に直撃する。剣でなんとか弾くも体に電流が流れ全身が痺れるがそれでも、翔はアラムに向かい剣を振るう。自暴自棄になっているのだ。

なんでだよ!悠の気配が消えたなんて俺は信じねー!

結界に微かに揺らぎを感じた直後から翔は悠の力を感じられなくなっていた。

だが翔は気が付いていないだけなのだ。自身の力が弱まり感知する事さえ出来なくなっていることに。

そしてもう一つ彼を自暴自棄にさせる要因は、今目の前に広がっている光景そのものだ。次々と力尽き意識を失い倒れていく仲間たち。

ついには魔王とジーンさえも攻撃することが出来なくなり気が付けば辛うじて戦える者は一人になっていた。

そう、翔だけがアラムと戦える最後の一人になっていたのだ。

だが、劣勢を強いられていることは既に分かっている事なのだ。

ジーンはアラムの魔王への攻撃を庇い地に膝をついたまま意識が殆ど無い状態だ。魔王は唐突に地面へと倒れ気を失った。アラムの力を防ぎきれず、力を完全に削ることが出来ないのだ。それは、すなわち翔にはアラムを止めることが出来ないと言われていることと同意でもある。

気力の身で一人戦い倒れている仲間たちを守りながら自暴自棄になっている翔にも、もう意識を保っているのが不思議な状態まで陥っているのだ。

「無駄なあがきだな。滑稽だ」

不思議な目の色で見下しているアラムには余裕があり軽く術を連発する。翔はどうにか攻撃を躱すが最後の術を躱すことが出来ず、とうとう地面に這いつくばるようにして倒れ込んだ。

「まだ、だ・・・」

まだ・・・動け動け動け!!体が、動かない。俺は死ぬのか

今まで死を感じたことのなかった翔が初めて死を感じた瞬間だった。だが、最後まで動かない身体を動かそうと力を入れ決して武器を握る力は緩みはしない。

アラムはそれを哀れんだ表情で見つめながら翔へと近づく。今まで武器を出す事のなかったアラムが武器を出した。

刀身はやはり黒く一筋、青を含んだ白銅色ーはくどういろーが波紋の様に刀身を半分に割る様に入り、西洋版の槍グレイブにハルバードと呼ばれる槍と斧を合体させたようにも見えるその刀身は長く、鋭い。

そして刀身部分には杜鵑草ーほととぎすーをのモチーフが大きく彫られており柄は瞳と同じ猩猩緋ーしょうじょうひーとイージアンブル色、さらに大花犀角ーおおばなさいかくーをモチーフにした細工が全面に施されている。

翔はただ茫然と武器とアラムを見ることしか出来なかった。そして、アラムが振り上げた槍が彼を突き刺し切り裂いたはずだった。

それは、一瞬の出来事だ。目の前で揺れる長い黒髪、見たことのない剣を握り締め魔王が作り上げた制服に似た服を着た彼女、悠がそこにはいた。アラムの槍は弾かれ後ろに自身の後ろに突き刺さっている。


「・・・悠」


走り出した悠だったがここへ来た時よりも木々が育っているのか道を阻み中々前に進むことが出来ないでいた。

てかそもそも翔ちゃん達がどこにいるかあんまり分からないだよね!なんとなく音がした方に向かってるだけだだから!勘だよ勘!

ぼやけた気配に森の静けさと自身の呼吸音と足音だけが森に響いているかの様で不安が襲う。

北の森に関しては本当に表面上しか知らないけど、確かにここはあまり長居する所じゃないな。うん。

悠は走る速度を上げる術を結界を飛び出し直ぐに発動させ走っているが、以前と比べると二倍ほど早くその差は歴然だ。・・・これ他の術とかも全部二倍になってる訳ないよな?まぁ、今は一刻も早く翔ちゃん達がいる場所へ向かわないといけないから早く進める方がいいんだけど。

そう思いながら邪魔な草木や木々などを躱しつつ斬りながら前へ前へと進んで行く。

焦ってもしょうがないのは分かってるんだけど・・・アラムはジーンと同じ上位でヴァーレの称号を持っている。もし何もない状態での戦闘だったら勝てる見込みは十分あったけどその前に一回戦っちゃってるからね…特に、今の状態の魔王でたとえジーンや翔ちゃん達が居てもアラムに勝てない。力の差があり過ぎるんだよ!

せめてアラム以外…駄目だ。今の上級悪魔は全員ヴァーレの称号持ってるし皆可笑しい割には強いんだった。マシな奴誰もいないんだったよ!!

頭を抱えそうになるもののぐっとこらえさらに術を重ね発動させる

「重ねろ。漂風-ひょうふうー」

走る速度を上げているがさらに術を重ねることでその異威力はさらに2倍となり景色が流れるように見えるほど早くなる。まぁ、そう言う術だからな。

悠は悪魔の力を自分の力としlabyrinthが居る事で完全に支配出来た事により今までよりもさらに強くより自身の力をコントロールする事が出来るようになったのだ。

それだけではなく、術自体の威力を調節することが出来るようになり気配を完全に消し近づくことが出来るようになったのだ。

今までは無意識で行っていた事が意識し行えることにより力だけでなく身体の無駄が無くなり洗練された動きが可能となったのだ。・・・labyrinthの言った通り最恐に近づきつつあるのだがそれは今は置いておこう。

術の威力を調節しつつ気配を消し勘と微かな気配を頼りに慎重にだがより速く行くと精神世界でlabyrinthに見せられた場所の近くまで来ることが出来た。

・・・木々は鎖りなぎ倒され地面は抉られ見る影もない。

流石に、これは酷いな。私がやったことなんですけどね!さらに酷いことになってるけど!!

辛うじて身を隠せる茂みを見つけ術を解き気配は消したままそっと顔を出し様子を見ようとした時衝撃が衝撃が音と共に地面を伝う。地震かと思う程衝撃は凄まじく微かにバチバチと電流がこちらの身体にまで帯電している。

この術は…アラムの術か。そう思いつつ茂みから今度こそ、と様子を伺うと倒れながらも這いつくばり必死に抵抗しようとする一人の…

「・・・翔ちゃんだ」

すぐさま探知をすればもう動ける者は居らず、翔が足掻き続けているのをごみ屑を見るような目でアラムが近づき武器を取り出す。・・・アラムの攻撃は術で追い込んで最後に武器で苦しみを与えながら殺す無残な戦い方をする。今まさにそれを目のあたりにしているのだ。

「対極なる力を解放し新たな形をcardへ刻み込め。…我に応えろ。」

具現化した武器は形を変える事は滅多に無い。元々形態変化をすることが出来る者もいるがまず武器が形を変えることは無いのだ。だが、例外はある。聖杯の力が安定し一定以上の能力を持つ者は稀に具現化した武器の形状が変わる場合があるのだ。・・・私は別だけど。

具現化した武器が変わると一時的にcardが拒否反応を起こし術や斬撃が使えなくなるのだ。その為にはcardに新たな力を受け入れさせる必要が有る。それが今行ったcardに認識させ受け入れさせるための儀式。儀式と言ってもただ唱えるだけなので儀式と呼ぶには余りにも簡易的だ。

唱え終れば共鳴する様にダイヤの形をした空間が光ると直後剣も同様に淡く白い光に包まれ光り出す。

そしてダイヤの形をしていた空間が形を変えcardの形の中にダイヤの様な形が入り込みピタリとはめ込まれた。・・・もうこれも後回しで!


「大いなる力は眠り揺蕩う。蔽めてーさだめてー隠ーおんーは地、水、火、風の王たる器を剣へと写せ。龍と名を持たせ、慈と名を刻み、嚟と名を顕し、再と名を示す。」


悠はそのまま術の発動を急ぐ。精霊王達の属性のモチーフがそれぞれの色へと変わり淡く白光に包まれた剣に吸い込まれ、黄金色からパウダーブルー。さらにオレンジ色が入った朱色、透明に白と緑を混ぜた色へと順に変わり剣は四つの色が混ざり合った見たことのない神秘的な色へと変わる。それを確認するとさらに術を唱えながら茂みから飛び出し目的の場所へと気配を消し走る。


「全還る無の終わり。告げるは悪無き、有りなど無縁なり。眠り解放し揺蕩い揺らぎ力となりて表われろ!」


アラムが翔に向かい剣を上げそのまま振り下ろすのを静かに受け止める。そしてそのまま剣を弾き、構え唱える


「終焉、王たる威厳ープレゼンス・ロワ・エレメンツ!」


弾かれた武器はアラムの後ろへ突き刺さる。後ろを振り向けば間抜けな顔でこちらを見ている翔と目が合う。こっちに来てから同じような顔しか見てない気がするんだけど!たまには違う顔してもいいと思う!

武器を弾かれたアラムはこちらの攻撃に気付いたのか武器を仕舞い舌打ちをすると後ろへ勢いよく飛んだ。刹那、辺りは四色の光に覆われた。

この術は四従士の各力を契約者の具現化した武器に一時的に移す事で発動できる剣と術の融合技である。この間術者は精霊王が持つ大いなる力を使え悪魔の動きを封じ大いなる力、威厳を発動させると同時に悪魔の瘴気を低下させることが出来る。負担は計り知れないのだが、今の悠にとって大した負担にはならないのだ。


「・・・悠」


後ろで名前を呼ぶ声が聞こえ具現化を解き振り返る。勿論笑顔でな!

「翔ちゃん、だたいま!・・・ってこの状況でそんなこと言ってる場合でもないんだけどさ」

「お前な・・・」

案の定呆れた声色の翔だがその表情は穏やかで微笑んでいた。・・・なんで笑ってるんだろう。なんか翔ちゃん微笑んでると違和感というか最早不気味だよ!

いつも通りの悠の心の声がそのまま口から出ていることに安堵したのか翔は深い溜息を付いた。

無理もないだろう。体には無数の傷と火傷があり大きく抉れ出血がひどく地面が赤く染まり、服も焦げ見る影もない。・・・アラム電撃連発してたしな。ほんとうにあいつの戦い方酷いな!

「アラムの得意な術は雷なんだよ。だから持っている剣も、微弱な電気が流れてるんだよ。アラムの属性は闇、雷、雨、風、地。これ本人情報なんだけどね!」

無い事もないようにアラムの弱点や得意な術などを話す悠に翔は先ほどとは違い驚き口を開けたまま固まっている。

アラムは雷の術を多く使う。その為武器が自然と雷の耐性を持ち微弱な電気、静電気のようなパチパチと音を立てているがそれに気づける人間は殆どいない。また、中級以上の悪魔はcardに刻まれた文字を読むことが出来他に属性を複数持っている。階級が上がれば上がる程持つ属性は増える。


ジーンやルシー、魔王も同じく複数の属性を持ち元々の属性とは別に四つ程属性を持っているのだ。


・・・一度だけアラムの持っている属性全ての攻撃を間近で見たことあるけど、あれは駄目だった。てかアラムは特に戦い方が酷いから…あれは無いよ、うん。

ってそんなことより。とにかく今はアラムが怯んでいる内にやれる範囲でやらないといけないんだった

バラバラに倒れている有稀、伶、新、そしてジーンと魔王を自身の近くまで同時転移させると怪我の具合を見ていく。

・・・やっぱり翔ちゃんより酷くはないけど皆服が破れて焦げてるし火傷もしてる。

それに、服に大量の土がついている。今回雷と地属性を主に使ったみたいだな…属性同士の相性は最高だけどこっちにしてみれば最悪だからな。

labyrinthに見せてもらってたの時から大分劣勢になったんだろうな…フルボッコってやつ?

「とりあえず・・・癒せ。」

掌を翳す訳でもなくただそう唱えるだけで今までにない白く眩い光が翔達を包み込む。

しかしジーンと魔王に治癒はかかっていない。悠は治癒するさい癒す者を瞬時に判別しジーンと魔王を除外したのだ。

それは、治癒の中でもかなりの技術と力のコントロール、なにより長い詠唱が必要になるがたった一言でやってのけてしまっているのだ。labyrinthが悠に好意的な理由の一つが、自身が超えられなかった力の壁を手伝いはしたもののそれを当然の様に成すことが出来る事だ。

それ故、labyrinthは悠に期待しているのだ。

翔達を包み込んでいた光は瞬きを何度か繰り返す間にスッと消えていった。

「お前その力・・・何があったんだ?」

今までも予想を超える力の強さを持っていた悠だがさらにその上を行き今まで感じたことのない強大で巨大な力に翔は驚き目を丸くしこちらを見据える。

「あー・・・まぁ、色々あったんだよ。色々!・・・っと次は魔王とジーンだな」

だが今は時間が無いと言わんばかりに軽く翔の話しを流し翔と有稀。新と伶とは少しだけ離れた場所に横たわっている魔王とジーンに近づく。聖杯は悪魔が最も嫌い恐れる力な為瀕死の状態の彼等を治癒を使う際同じ場所に固め集める訳には行かなかったのだ。

まぁ、それ知らずに一回治癒かけてやらかしたことあるからな…あの後知らない悪魔達にも死ぬほど怒られたのは苦い思い出だよ、うん。

悠は聖杯の力とは別に悪魔の力を有しそれをコントロールする統べを学び力に変える事を魔王に教わっていた。だが不安定な力は使うべきではないと今まで使わずにいたのだ。だが今は未だ不安要素が多いがその力を使う事を躊躇う理由などない。何故なら力の中心にはlabyrinthが居りまた、悪魔の力を使うことが出来るようになっているからだ。

悪魔には瘴気、つまり闇をってね。・・・今なら多分できる。殆ど知られることが無い‶闇魔法‶と呼ばれ‶悪魔の誓杯‶と呼ばれる力を。深く、息を吸い深く息を吐き、魔王とジーンの怪我の具合を瞬時に把握し、唱える。


「・・・生まれし者よ。闇、糧とし器を留める。保つ容ーかたちー。負え。」


悪魔特有の言語に加え治癒の際の‶癒せ‶とは逆の‶負え‶の言葉を紡げば悠の掌から黒いぼんやりとした光が現れ次第に強くなるとその光は吸い寄せられるように魔王とジーンを包み込んだ。その光は先ほどの治癒と同様に黒い光ながらとても眩しく感じられるほどの強い。先ほどより時間はかかったものの、黒い光が吸収されるようにして消えた。念のため魔王とジーンの傷の具合確かめる。

はぁぁ・・・どうにか回復できたみたいだな。聖杯と使い方は似てるけどなんか力の出どころが違うような変な感覚だな。と自身の掌を見つめた後立ち上がり後ろを振り返る。

アラムの様子と術の発動を見る為だが、来れる訳ないよな!

動く気配すらないアラムの目の前には未だ四色の光がこちらを守る盾の様に光続けている。この術は動きを封じる事にはあまり長けていないのだが、悪魔が持つ、あるいは周りの瘴気を低下させるには最も効果的なのだ。勿論、その光に触れれば触れた場所から浄化され二度と体が再生することが無くそのまま消失する。

分かってて近づいてくる訳ないってこと。アラムならやりかねないとは思ってたけど今回は流石にやらないみたいだな!あいつ自分の怪我に全く興味ないからそのままどこまでも追って来るんだよな…

先に治癒が終わり未だ理解が出来ていない翔と目を覚まし同じく状況を理解できずこちらを見て驚いている有稀、新、怜に眠っていた間の事は言えないが術に関しての説明をする。

・・・どうせ説明しろって言ってくる奴がいるからな!さっきから滅茶苦茶こっち凝視してる翔ちゃんとかな!

流石にlabyrinthが居ますとか敵殴り飛ばしたの私なんだよね、とか言える訳もないからな

「翔ちゃん。有稀に怜。新も。・・・敵が動けない間に今発動している術について説明するから」

そう言えば待っていたと言わんばかりにわらわらと周りに集まってくる。

「説明待ってたよぉ!」

やっぱり待ってたのかよ!

「・・・あの術は、見たことがない」

私もこんな目を輝かせてる伶は見たことないな!

有稀は待っていたと目を輝かせ、伶も興味津々に光を見渡している。

「凄く綺麗だけどね~」

新は・・・変わらないな、うん。

「さっさと説明しろよな。さっきの術、今発動しているこの術なんなんだよ!」

一番死にそうになってた翔ちゃんが一番元気だし今からそれ話すんだって言ってたの聞いてなかったのかよ!!

と次々に質問を投げかけ悠はその度に心の中で突っ込みを入れるがその質問の内容はどれも術に関する事だ。

新は飄々としながらもその光を眺め翔に至っては術の発動を見ていたからなのか早くしろと悠を急かす。

・・・さっきまで緊迫した空気で死にそうになってた奴らだとは思えないな

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