第45話
「蹴るのもやめなさい!あなた馬鹿なの!?」
それを見たlabyrinthの表情は焦りと怒りと‶あり得ない‶と言った呆れと驚きの表情を全て混ぜた様な言葉に言い現せない程だった。
結局必死なlabyrinthに止められちゃったけど・・・馬鹿って言われたことはもう忘れよう、うん。でもおかげで大分見やすくなって翔ちゃん達の姿も見えるようになったから私は満足なんだけど…と、そっと疲れ果ててソファーにもたれているlabyrinthを横目に見る。
『あなた凄くパワフルね・・・本当に、もうこれ以上は止めなさい。いいわね?』
深い、深い溜息を付き疲労した様子でlabyrinthは隣のソファーに座り、周りを見渡しているこちらに話しかけながら最後の言葉のみ強く声を張る。念を押しているのだ。
「普通に殴っただけだけし殴るの駄目なら蹴るのならいいのかって思って・・・あー、流石にあれだけ止められればやらないから!その疑いの目止めて!!」
そう、labyrinthは悠を止める為つい先ほどまで今まで見た中で一番感情豊かというよりかは、ただただ必死だっただけだろうが、それは見た事も無い程懇願する様に止めていたのだ。流石にその様子とひっっしさから悠は攻撃する手を下ろした。やめざるを終えなかったと言うべきだろうが・・・
なんか心が痛い!余りにも必死過ぎて申し訳なくなったんだよね・・・だって教科書に載ってるあのlabyrinthだよ?まぁ、そうじゃなくても流石に止めるけどさ!
『悪魔を内側から、しかも素手で殴る人間がどこに居るっていうのよ・・・私も殴ったことあるけれど流石に内側からはないわ。あなたといるとなんだか疲れるわ』
殴ったことあるのかよ!labyrinthと同じことしてるのか・・・血は争えないっていうやつか?って最後!
呆れ疲れた表情で悠を見た後labyrinthは周りを指差し
『ほら見てみなさい。あなたが悪魔達を倒したせいで敵も味方も何が起こっているのか分からず混乱してしまっているでしょう。・・・内側から干渉できる人物は今までいなかったけれど、外側に大きな混乱を招くことになるのよ。』
「目の前にいるとつい反射的に殴りたい衝動に駆られるというか・・・」
降り立った悪魔が知らぬ間に次々と吹き飛ばされ塵になっていくのを目のあたりにしたアラムは棒立ちのまま固まり動かなくなる。
ジーンと魔王はお互い疑問に満ちた表情ながらも今がチャンスと言わんばかりに次々とアラムへ攻撃を仕掛けているがまるでアラムを守る様に上から降ってくる下級悪魔達が多いのか苦戦している様子だ。無理もない。魔王もジーンも疲労はかなり蓄積されている。
有稀、新、怜はそこまで気にしていない、ではなくいる余裕がないと言ったほうがいいだろうが違和感には気が付いている様子で各々微妙な表情を浮かべながら首を傾げている。
翔に至っては初めは驚き混乱していたようだが、途中から何故かニヤリと少し薄気味悪く笑いひたすら下級悪魔達に斬りこみ戦っている。
これは・・・滅茶苦茶混乱してるわ。うん。やっちゃったものは仕方ない!けど・・・翔ちゃんはなんで笑顔のまま悪魔達切り刻んでるんだろう・・・
とうとう可笑しくなっちゃったのか?とlabyrinthの言葉に反省しつつも翔の表情に疑問を抱いている。が、labyrinthの話しが止まることは無い。
『あなたね・・・それすごく危ないやつよ。現実に起こっている者達には感じることもできないのよ。まして干渉するなんて今後もしまたここに来る時があったとしても、ああいうことはしないでほしい・・・ねぇ。貴方、何か身体に違和感を感じたりしていない?』
labyrinthは話しの途中で少し驚いた表情になるとまじまじとこちらを見つめ問いかける。
・・・目から光線だしそう。まぁ、出ても出なくても今穴あきそうなんだけど!
「一体何の話ししてる訳?」
『体、光ってるわよ』
labyrinthに言われすぐさま慌てて自身の身体を見下ろし確認すると、確かに金色の光がこちらの体全体を包み込むようにして光っている。labyrinthは悠が心で思ったことに対してなのかあるいは気づいていないことへの呆れなのか、短く溜息をつく。
滅茶苦茶溜息ついてるんだけど・・・ってそれどころじゃない!
どうして光ってるんだ私?思ったよりも眩しいけど慣れればそこまででもないな・・・ってもしかしてこれ死ぬやつじゃ!?そんな落ちある!?
『全く気がついていなかったのね…。それから、死ぬ前兆ではないから安心しなさい。冷静さが随分欠けているわよ。』
「言われて気が付いた・・・って死なない以外に何がある訳!?滅茶苦茶光ってるんだよ!?冷静になれって言う方が難しいから!labyrinthは逆に冷静過ぎると思う!」
先程から、あまり感情を表に出さない事を言っているのだろうがここでずっと居るより何倍も表情が豊かになっているがlabyrinth自身が気が付いていないのだ。
『そうね。とても眩しいもの。・・・・貴方の体が光っていると言う事は、一応身体がこの悪魔の力に上手く順応出来たということよ。・・・‶悠‶、外に帰りたい?』
身体と言ってはいるが魂の状態で精神世界にいるのだ。体が朽ちる前にこの黒い力が順応したことで意識が上に浮上し目を覚ませと知らせているのだ。順応していなければ魂は消えてしまう。
labyrinthは、悠の記憶にある限りずっと名前で呼んだことは無かった。しかし今初めて‶悠‶と名前を呼んだ。それにどのような意味が込められているのか悠自身は皆目見当はつかないだろう。
labyrinthが私の名前呼んだんだけど!?なんか凄い気がする!!
見当どころか、名前を呼ばれた事にとても驚き異常に興奮していた。しかし、この状況でもlabyrinthの話しはしっかり聞いていたのかその問いにすこし不思議な様子で答える。
「ここはすごく居心地がいいからずっと居たくなる。けど外には出たいかな・・・。翔ちゃん待ってると思うし。ああ見えても寂しがり屋なところあるからさ・・・」
なぜかわからないけどここはすごく居心地がいい。ずっとここにいたいと思えるくらいには、居心地が良い。てか良すぎる。
精神世界だからだろうか。悠は現実と比べ少し理性と言う枷が外れている様に見受けられるが、大してlabyrinthは気に留めている様子はない。
少し間を置きこちらの様子を伺いながらlabyrinthは静かに話し出す。
『・・・さっきも言ったはずよ。身体を放置すればそのまま朽ちていくわ。それに、ここは力の深層部よ。精神世界と同じだけれど少し違う場所なのよ。自身の力だもの居心地が良いのは当たり前よ。むしろ悪い方が問題があるわ。けれど、魂が本来いるべき場所は此処ではなくてもっと上の、光が当たる暖かい場所になくてはならないのよ。どのみち、ここにい座る事が出来るのは長くても一週間よ。それ以上は魂が持たないわ。』
labyrinthがここへ悠を長居させない理由はまさにそれなのだ。精神世界でも今いる場所は力の深層部であり精神世界の真下に存在する場所である。例えるのなら、聖杯が普段居るべき場所である精神世界でありcardが来るには余りにも難しい力の深層部ということだ。
悠自身の力で満たされたこの空間はとても居心地が良いが、その分力に魂が飲み込まれやすく自我を上手く保てなくなる。悠の場合はまだ初期段階だがやがてさらに酷くなることはlabyrinthは目に見えて分かっていた。
ようするに、ここにいる事で魂に影響が出て最終的にどの道死ぬって事jじゃね・・・?
『その通りよ。けれど外の世界へ戻れば、悪魔の力を完全に解放してしまったせいでいつ内側にある二つの力の均一が壊れるか分からないのよ。暴走してまたここに来て戻るのを繰り返すか、もしくは死ぬか。だからあなたは今ここで選ぶしかないの。残るか、帰るか。戻っても留まっても先にあるのは同じだけけれど』
最後の言葉いらないでしょ!!
labyrinthは焦っていた。魂が光り輝いている間しか外へ戻ることが出来ない。あえて伝えないのにはそれなりの理由があるがそれはlabyrinthのみぞ知る事だ。
悠は左腕を組み右手の甲に顎を乗せ考えているようだが、瞳が既に物語っている。
凄い追い打ちをかけられた気分なんだけど。あー、選ぶって言われてもな・・・選ぶ選ばないとかそんなの初めから決まってる。何でそんなことわざわざ聞いてくるんだろう?
疑問に感じながらも、悠は真っ直ぐ凛とした表情でlabyrinthを見つめる。
「外に行く、じゃなくて帰るに決まってるでしょ。ここにいたって何もできないまま死んでいく。それに、このままだと外にいる翔ちゃん達も死ぬ。それは、絶対に嫌だからさ」
そう言い強い眼差しでじっと悠は‶私‶の顔を見つめて、けして目線を逸らそうとはしない。
‶私とは違って・・・曇りのない目をしているわ。違うわね、私にもこんな時があっただけ…。‶
過去を思い出そうとするが、途中でそれを止める。
‶自分が助けられるその自信と根拠は一体どこから来ているのかしらね。・・・少しだけ羨ましいわ。そあなたはそのまま変わらないでいてね。‶
そんな願いは、内に秘めたままlabyrinthは何事も無いように話しを進める。
『そう。あなたならそう言うと思っていたわ。・・・既に準備は出来てるわ。善は急げ、よ。』
悠から顔を逸らした私は一体どんな表情をしているのかしらね・・・。
labyrinthは再びソファーから立ち上がり、悠にも立ち上がるように促す。
‶今まで、数えきれないほど内側から見てきた中で、私の血を一番強く受け継いでいるせいか私とよく似て私よりも強い悠。・・・私の希望。終わらせるための、希望。‶
「それもそうだね。たまに遊びに来るわ!来れるんでしょ?」
『ここ遊びに来るような場所じゃないわよ・・・それにもしここに来る時はきっと今みたいな状況だと思うわよ。・・・来れるけれど。ここへもし普通に来られるようになったならそれはあなたが強くなった証拠でもあるわ。・・・・・後で、悠には驚いてもらいましょう。』
labyrinthは悠と会話をしながら近づき、最後の言葉だけ小さく呟いた。
確かに・・・ってやっぱり普通に来れるのかよ!要するに強くなればいいって事?・・・それ先に言って欲しかったんだけど・・・てか最後なんて言った?小さくてよく聞こえなかったな・・・
「ま、いっか。じゃあ、labyrinth早めにお願い。」
『分かったわ。・・・手を重ねなさい』
「あ、うん・・・」
言われるがまま差し出されたlabyrinthの両手にこちらのの手が重なると、labyrinthは唱え始めた。
『・・・混沌にして、純粋なる器の魂よ。我全てを知る柱なり。超越した存在は眠ることは無く目覚め動きやがて覚醒するだろう。今、言の葉を代償とし在るべき場所へ還らん。超えろ。-魂器ノ柱還、代償ーこんきのじせん、だいしょうー」
その言葉と共に、何かに引っ張られるような浮くような不思議な感覚がしたかと思うと上へ上へと体が昇っていることに気が付き下を見るとlabyrinthがかなり小さくなって見えている。
最後まで、labyrinthはこちらが見えなくなるその瞬間まで見守る様にこちらを見ていた。
さっきのlabyrinthの術の言葉の意味・・・あれどういう意味なんだろうと考えていると意識が混濁し始める。
あ・・・これまた意識が朦朧とするやつだ。すでになってる・・けど・・
はやく・・・かえらないと・・・わたしがいるべきばしょはここじゃないから
じっとそこについ先ほどまで居たはずの者の痕跡を探すようにぽかりと空いたソファーを見つめるlabyrinth。パチンと指を鳴らすと再び部屋が構築されソファーは一つだけになる。
掌を見つめ、ぎゅっと握りしめるとソファーに腰かけドームと同じ小さな白い空間から四角形のスクリーンの様な物が現れ宙に浮き、映し出されたのは外の映像。
『私にはもう、貴方しか、悠しかいないのよ・・・最後の必然に似た奇跡なの』
黒の世界にある小さな空間でそうはっきりと言葉にするとlabyrinthはテーブルに用意されたティーカップを手に取りいつの間にか入っていた紅茶を一口飲むと外の映像へと集中する。
一体、どんな事をしてくれるのかしらね、悠。楽しみで仕方ないわ。
その表情はとても美しくも畏怖を感じる笑顔だった。
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