第44話
堕ちていく。黒に飲み込まれてそのまま同じになるように。
その間聞こえていたのはジーン切迫した声と、翔の私を呼ぶ声と・・・皆の戸惑いの声。
あれ、なんでわたしこんなところにいるんだっけ
あぁ、そういえば・・・さいきんたいけんしたきがするけど
わたしはいったいだれだっけ
『起きなさい』
な、に?・・・こえがあたまのなかでひびいてうるさい
『いつもと状況が違うからかしらね。でも、この状況でも自我を保っていられるなんて流石私の・・・』
まるで水の中にいたことを思い出したかのような感覚に水の上に飛び上がり空気を肺に取り込もうとするような苦しさに目が覚める。
何度か瞬きをし、真っ暗な闇の中目の前を見れば悠とどことなく雰囲気が似ている人物が・・・って何回か聞いたことあるこの声はもしかしなくてもlabyrinth?
『そうよ、おはよう。あなた目が覚めるのが遅いわよ。てっきりそのまま死んでしまったかと思ったわ。』
そう凛とした少し高めの声と共に視界にはっきりと捕らえた人物は、黒く腰よりも長い髪に黒い瞳。
悠よりやや髪も瞳も色素が薄く感じられる。服は全体が檳榔子黒ーびんろうじぐろー、一色となり四角型のセーラー部分と袖部分には勿忘草をモチーフにした白色の刺繍が線の様に施されている。
上部分はボタンが左右に二つずつ計六つついておりブレザーのワンピースになっている。
さらにネクタイやリボンではなくリボンタイが首元にある。リボンタイの中心には彗星蘭をモチーフに灰色のカンポデルシエロの宝石がちりばめられ光を当てると様々な色に変化するラブラドライトの宝石が埋め込まれたビジュー付きのシックな薄い青色を含んだ月白色ーげっぱくーだ。
下部分は膝丈ほどの長さに無地のプリーツが入っている。腰の位置から広がる様に生地が分かれ、真ん中部分には白百合色の生地が下に重なっている。
靴下は勿忘草をモチーフにした総レースで白銀、靴はメリー・ジェーンと呼ばれるストラップで固定する形のもので厚底ながら少し低く光沢のある黒色の可愛いながらもシックな物となっている。
まって。なんか思ってたのと違うんだけど!ちゃんと制服みたいなの着てるし・・・後、すごい辛辣!
「死んでないよ!まだ息してる・・・はず。多分」
あの状況で生きてる自信はないな…とlabyrinth上から下までを見た後、返答し自身の返答に項垂れる。
『あなたが寝てる間に外の世界では色々あったのだけれど・・・‶見せたこと‶はちゃんと覚えているかしら?』
labyrinthの問いかけに、一瞬の間があった者の悠は深く頷いた。
気を失って黒に飲み込まれ自我が消えかけている間、悠はlabyrinthに現実に起こっている事を見せられていた。抗う統べすら忘れていたためまるで夢の様な感覚でそれを見ていたが、悠は確かに覚えていると言うよりか思い出したと言ったほうがいいだろう。
あの人たちは本当の母と父ではなかったけれど初めは私をちゃんと育てようとしてくれたことも、ジーンと出会ったことも。
そして、私を守る為に母と父を息の根が止まる寸前までいたぶって、私が止めを刺したことも私の記憶を書き換えて、私を守るためにずっと見ていたことも。
本当の記憶は、もう思い出した。だけど、記憶操作違う記憶にまで影響してたみたいでまだ違和感があるな・・・なんか変な感じ。
「自我が殆ど残ってなかったけどあれ見せたのlabyrinth以外考えられないからな・・・それに今いるここ、精神世界ってやつ?前に来たことある気がするわ・・・」
と黒の世界を見渡し〝これ私の精神世界とか笑えない‶と呟き苦笑いする。
『ええ。そうよ。・・・ここまで深い場所まで来たのは初めての事よ。それと、記憶の混濁は直ぐに治るものだから気にする必要はないわ。』
黒が支配する中labyrinthの周辺はとても明るい。言うなれば、周りの黒い空間が夜でlabyrinthが朝日みたいなものだろうか。
この違和感直ぐに治まるのはいいんだけど・・・なんか、凄い生活感あるんだけどここ。普通に部屋だよ部屋。窓があればもう完璧だけど!でもこれlabyrinthが作り出してるってことだよな・・・普通にすごいわ。そう思いながら辺りを見渡し部屋をぐるりと見渡す。
悠から見て奥に白色のオープンクローゼットがあり、クローゼット横に小さなクリーム色のベッドがある。
中央には悠の部屋にある椅子と同じ色の一人掛けのソファーが二つあり、横に長く上部分がガラスになっているシンプルなセンターテーブルが置かれている。
そして、なによりもその場所だけ壁で覆われているが不思議と辺りが透けて見え悠が立っているすぐ後ろには埋め込まれた小さな本棚がある。
なんかどっかで見たことある配置なんだよな…と呑気に部屋を見渡していると
『貴方の力は他の人に比べるまでもなく大きいわ。その中の一部が私であり私自身なの。それに、私は貴方と同じことをして強大な力を手に入れたわ。その代償は、計り知れないものだったけれど』
labyrinthはソファーに座ったまま横を向いている為あまり表情は読み取る事は出来ないが、とても悲しく後悔の表情のまま遠くを。ただただ、遠くを見つめている。
やってはいけないこと・・・cardに刻まれた文字のこと
『あなたは私と同じ道を歩き始めている。・・・もう力を使うのは止めることね。これ以上使えば貴方が滅ぶわ。聖杯のことではなく、内に秘めたこの黒い力の事よ。』
「あ、それは無理。」
回りにある黒い空間全てが代償を払い得た悪魔の力なのだと言うlabyrinthの言葉は重くもなく決して軽くもなく淡々としているが、それとは裏腹にこちらがそう即答すると訝し気な困った表情でこちらを向く。・・・なんかとんでもないことしでかした直後みたいな顔してるんだけど
『・・・死んでしまうかもしれないのよ?』
「でも嫌。それにまだ生きてるし。」
『本当に頑固ね!・・・死んでしまったらそこで終わりなのよ!力が暴走すればそこで終わるの!分っているはずでしょう!?』
こちらの返答に腹が立ったのか、それとも余りにも軽い口調に状況が理解できていないと判断したのか突然立ち上がり怒りに満ちた剣幕でこちらに攻め寄る。
私全くlabyrinthと似てないんだけど…それっぽい事四従士と龍に言われたけど似てないな、うん。あ、でも怒る場面というか感情は似てる?・・・なんか嫌だな
「でも暴走しても死ななかったけど‥‥」
『一度死ななかったとしても暴走を繰り返せば死んでしまうのよ!』
その言葉は悲痛な叫びに聞こえる。labyrinth自身が実際に体験したのだろう。泣きそうな、必死な表情から直ぐそう悟る。両手を固く握りしめ数秒、無言のまま先ほどまでいた場所まで戻るとポスッとソファーが音を立て深い溜息が聞こえる。
「・・・実際そうだったとしても私はlabyrinthじゃない。それにあの文字は覚悟を決めて言葉にした。ジーンとの時に言葉にした文字は私のじゃなかったから。labyrinthも同じ経験をしたなら、分かるはずだと思うけど。・・・私は暴走したとしても戻って来られると思う。実際labyrinthより力強いみたいだし?」
ゆっくりとlabyrinthに近づき諭すような、はたまた自信があるような口調で微笑を浮かべながらこちらの考えを伝える。
これは想像でしかないけど、labyrinthが私の力として中にいるのは常に私の中にある悪魔の力を制御する為なんじゃないかって。
もしまだ私が使えていない眠っている力を使えるようになれば私の力の一部としているlabyrinthの力を制御できれば、labyrinthは、ここから自由になれるんだと思う。多分。
少し俯いていたlabyrinthが突然顔を上げ目を見開き驚愕の表情でこちらじっと見つめている。しばらく見つめあっていると体の力を抜き深く長い溜息を付き呆れながらも微笑を浮かべぐっと背伸びをした。
『あなたには何を言っても無駄みたいね。本当に・・・その並外れた頭の回転の速さと意地っ張りな所は誰に似たのかしら。・・・確かにあなたは私より力が強いわ。心の方も、ね。』
先程とは違う穏やかな表情でこちらを見つめるlabyrinthだが、悠の表情は険しい。
labyrinthはそう言うけど私は強くない。弱い。だからもっと強く、強くならないといけない。
守られるのなんて、絶対に嫌だ。だからこそ、もっともっと強くならないといけないんだ。
『それ以上強くなって一体何をしたいのかは分からないし、あえて聞かないでおくわ。けれど・・・そうね。強くなる速度はゆっくりでいいのよ。急ぐほど遠くなっていくことの方が多いもの。それに、これ以上強くなってしまったらそれこそ〝最強〝になってしまうわ。あなたの場合〝最恐〝かしらね?』
真剣な表情で語るlabyrinthだったが最後の言葉のでこちらの表情が若干怒りへ変わると面白可笑しいのかクスクスと口に手を当て笑いだす。
ちょっと、じゃなくてlabyrinth・・・かなり失礼だな!おい!つか今の絶対わざとだろ!?
『あなたにだけには言われたくないわ。』
「・・・あーまぁいいや。それにしてもさ、私ここにいてもいい訳?流石に身体そのまま放置してる訳にもいかないからとっとと目を覚ましたいんだけど」
拗ねたような口調のlabyrinthにこれ以上話を広げるのを止めた悠は話を変え、自分自身の状況について問いかける。
『今体は抜け殻みたいなものになっているの。魂はそうね、眠っている状態なの。・・・けれどこのままだと肉体の方が持たないわ。貴方今辛うじて息をしている状態だもの。ただ戻るにはもう少しだけ時間が掛かりそうなのよ。ここから外の様子が見れるのだけど、見たいわよね?』
いや、今さらっと言ったけど私死にかけてるじゃん!虫の息なんだけど!?しかもまだ戻れないとか聞いてない!まぁ、今聞いたんだけどさ!!
てか外の様子が見れるなら最初から見れるようにして欲しかったよ!
相変わらずの心の声とは裏腹に、悠が言葉にしたのはlabyrinthの問いかけに関する答えだった。
「そんなの見たいに決まってる」
余りにも心の中と話している言葉の違いにlabyrinthはまたクスリと笑うと右手をすっと挙げた。
labyrinthが作り上げた部屋が丸ごと消え、残ったのはソファー二つのみ。その変わりに現れたのは、大きな白いドーム型の空間。しかし黒い空間は透けて見えている。とても不思議な空間だ。
多分これ私がほとんを自我を失っている時にやったやつの応用だと思う。分からないけど!・・・流石は伝説と言われているだけはあるけど、褒めると言うかこうなんか凄いって思いたいような思いたくないような・・・本人こんなんだし?
『失礼なことを言っていないで、よく見ていなさい。・・・映し出されるわよ。』
「分かってるって」
てかなんでlabyrinthが私の力の一部になってるんだ?どこからどう見ても血縁者ってことは分かったけど流石に可笑しすぎる気もする・・・ま、いっか。
考え込んで居た為なげやりな返答になってしまったが、考える事が疲れたのかあるいはただ面倒になっただけなのかもう一つのソファーに腰を掛けた時だった。
「・・・ん?」
そこは魔界だった。空は薄暗く悠の暴走により大地が削れ木々がなぎ倒されている中、戦っていた。
何故かその場に居るはずのないジーンと同じ上級の階級にしてヴァーレの称号を持つ悪魔アラムが居り、ジーン主体となり魔王と翔達がアラムと上から降り注ぐように落ちてくる下級悪魔と戦闘している場面がドーム型の空間全体に映し出された。
『今起こっている事をそのまま見れるようにしてあるの。だから私も良くこうして外を見ているわ。勿論あなたの事は〝色々‶と知っているの。』
またなんか変な事聞こえたけど無視しておこう・・・と悠はソファーから立ち上がり辺りを一周見渡す。
なんでこんなことになって・・・そう言えばジーンが裏切った僕を殺しに来るとか言ってたっけ。あんまり覚えてないんだけど、もしかしなくてもその殺しに来たのがアラムってこと?意味わからないんだけど・・・
と、髪の毛を指に絡ませくるくると遊んでいるとふとアラムと視線が交わるが、直ぐに視線はジーンへと向いた。悠の身体が一瞬強張りlabyrinthの方へ瞬時に身体ごと向く。
ちょっと待て。今アラム一瞬こっち見たんだけど。もしかして見えてる?そんな訳ないよな・・・ないよな!?
『安心しなさい。向こうからは何も見えていないわ。あなたから私を介して外の世界を見えるようにしているだけよ。具現化と非具現化の応用で見えているだけよ。』
どんな応用だよ・・・!多分できるのlabyrinthだけだから!
と思いつつも悠は椅子から離れ辺りを歩き始め、ふと見た場所に下級悪魔達が群がって悠の周りに近づいて来ていた。実際には違うのだが、そう感じてしまうほどその場に居る様な錯覚を覚えてしまうのだ。あ、なんか近づいてきた。と悠は軽く考え拳を見た。
『けれど気を付けて。あなたは力が強いか・・・らってあなた一体何をしているの!?』
話しを続けていたlabyrinthは悠の方へ視線を映し驚愕した表情と声色で思わず立ち上がった。
「何って・・・近くになんかいたから殴ってみたんだけど、なんか倒れた」
labyrinthの話しを軽く流しながら聞いていた悠は何を思ったのか、ふとこちら側から攻撃ができるのではないかとその思いのまま行動したのだ。その拳は、敵である下級悪魔達に届き一斉に吹っ飛んだのだ。
余りにもうじゃうじゃいるからなんとなく出来るかなって軽い感じでやったら本当に殴れちゃったんだけど!!?干渉できないんじゃなかった訳!?
『人の話は最後まで聞きなさい・・・。貴方は力が強いから内側でやったことが外側にそのまま影響を受けてしまうの。・・・とりあえず殴るのはやめなさい。』
そう言いながら近づいてくるlabyrinthは少し焦りの表情を浮かべている。それを横目でちらりと見ると再び周りに視線を戻す。・・・こいつらが邪魔で翔ちゃん達が全く見えない!!
「邪魔!」
labyrinthの話しを聞いていたにもかかわらず悠は周りにいた悪魔達を次々と聖杯を使わず蹴り飛ばした。
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