第41話
そんな生活を繰り返し、悠と出会って二年が経った。
今の所、悠に近づく悪魔は全て僕が追い払っているけど・・・もう時間の問題かもしれない
悠の父親は学園ではやはり上のクラスにいつもいるほどの実力を持っていた。
だからか、悠への聖杯の扱い方や基本の知識は分かりやすく悠も色々な事を吸収する力に長けていたのか既にコントロールを身につけていた。
初めから、抱いていた違和感があった。悠に対しての過剰なまでの干渉。・・・その違和感の正体は二人は悠の本当の両親ではなかったと悠本人から聞いたことによって解決する。
詳しく悠の両親から話を聞いた話によると、悠はまだ赤子の頃施設の前に置かれていたと言う。
子供が欲しかったが出来にくい二人は悠を見て直ぐに引き取った。引き取らなければならないと思ったそうだがその一つに聖杯所持者であることが分かったからだと言っていたけどあれが嘘だったのか本当だったのかはもう分からないんだ。
そんな悠の父親は、一番初めに力の制御を教えた。おかげで幼いながら力の制御は完璧で、聖杯召喚も悪魔を斬るという概念も他の歳の聖杯所持者に比べで圧倒出来だった。・・・だけど最近問題が増えた。
一週間前、丁度悠と出会った季節の11月下旬に怪我をして擦りむいた。
怪我の程度は軽症で済んだが怪我をした場所から血が滲み足を伝い地面へ落ちた。外での出来事だったよ。周りに悪魔は一切いなかったはずがその血に悪魔たちが一斉に群がってきたんだよ。一瞬の出来事だった。
地面に落ちた血を悪魔は貪るように血を啜り、その直後苦しみ出し跡形もなく、消滅した。ジーンは我に返りどうにか悪魔を追い払ったが、先程の光景が頭に焼き付いて離れなかった。
もしかすると、悠の血にはなにか悪魔の力を増幅させる力があるのか?それに悠は悪魔を集める体質だ。年々酷くなってきている・・・これじゃあまるで同じじゃないか
「どうしたの?」
更に約一年近く経ち悠は五歳になっていた。後一ヶ月、一月で誕生日を迎えようとしたいた。
「なんでもないよ」
悠の体質の話しはあの二人に話すことなく自分の中だけに留め悠にも言わないように口止めをした。思い出していたからか少しボーッとしていたジーンを不思議そうに覗き込む悠に笑顔で対応する。
「そうなの?・・・ジーン・・・あのねあのねっ!」
「どうしたの?悠」
「みてるの・・・ずっと・・・ずっと悪魔がこっちをみてる!」
幼馴染としか交流を持たず家にい居る次官が長いせいか悠は年の割には幼く身長もあまり伸びていない。悠は酷く怯えながらジーンの背中に隠れるように服を掴み震えていた。
・・・そう。悠は五歳の誕生日を迎えてから悪魔を呼び寄せる力が強くなった。それだけじゃない。もう少しで六歳を迎える悠の力は、正直以上だった。
何か、何か悪い事が起こる予感がするんだ。とても・・・悠の身に危険が迫っているような気がして仕方が無い
「・・・ジーン!きてるよ!!」
悠の言葉通り、黒いモノ、人間が生み出した悪魔が一斉に悠目掛けて向かってくる。今は家の中にジーンと悠だけだ。さらに悠の両親は二人とも仕事に出ており退治できる父親も居ない状況だ。悠の父親が数日置きに点検をしている結界があるとは言え、直ぐに突破されて窓ガラスを破壊してくるだろう。
「悠・・・」
怯える悠を背に、ジーンは苦行の表情を浮かべる。もう悠を守るのが限界に近づいていたのだ。元々不安定な幽体で人間界へ来たジーンは悠の家の中にある瘴気と度々外に行く際に瘴気を糧としていたが上級悪魔でありヴァーレの称号を持つ悪魔にとって維持をする為だけに必要な力しか得られていなかったのだ。問題はまだある。
悠の力はあまりにも強大で、少なからず僕にも影響が出ている。家にいた悪魔も殆どその力に当てられ知らぬ間に消えていることに悠自身が気付いていないんだ。それだけじゃない。・・・悠の両親にかけた術の効力が微量だけど弱くなってきている。そこまでして悠の傍にいる理由はないと思うだろうけど
僕は悠をあの笑顔を守りたい。悠がが傷つくことを許すわけには行かないんだ
絶対に戦わせたくなかった。僕のエゴだった。だけど悠に武器を持たせ戦わせることが嫌だったん・・・結果僕は悠に聖杯を召喚させてしまう。家で行っていた聖杯召喚は完全ではなかったのを知っていた。悠の身体が絶えれない可能性があったからだ。
「くっ!」
即座に武器を出し追い払うが迷いが剣先を狂わせた。悠と出会ったこと時よりもはるかに衰えた力は下級悪魔よりも下である人間から作り出された悪魔にさえ敵わず窓ガラスを割りその風圧と共に飛ばされ机に背中を強打し息がつまる。
「オチタモノ」
そう悪魔が僕に向かって話しかけてくる。言語を話すということは上級悪魔と主従関係を結んだ純粋な下級悪魔か!
このままでは悠がやられてしまう。その一心で立ち上がろうとすると目の前に悠がジーンを守るようにし立ちはだかる。
「・・・ごめんね。ジーン」
「悠…」
悠が下級悪魔とジーンの間に入ってきたことにより一番その中でも強いであろう下級悪魔が警戒をし、後に続く悪魔達も警戒を強めた。ターゲットがジーンから悠へと館zwんに移行した証でもある。さらに・・・悠の雰囲気が、いつもと違った。
「私、ほんとうは分かってたよ。こうなるってこと、分かってたの」
「まさか・・・やめないか悠!」
静かに笑う悠は、いつもの悠はではなくどこか大人びている。聖杯を召喚するつもりだと直ぐに悟り叫んだが、悠は僕の方を向かなかった。止めたくても体を打ち付けた時に打ち所が悪かったのか力が弱くなっているのもあり回復に時間が掛かり立ち上がることが出来なかったんだ。
「ごめんねジーン・・・・聖杯召喚」
悠は静かにそう唱えた。初めて悠が聖杯召喚をした瞬間だった。後ろからでは良く分からなかったが身体が光り手を前に出し引き抜く動作をした後構えたのを見て悠の聖杯の具現化した武器が剣だと分かった。わずかに見えたその武器は細く何処か懐かしさを感じさせるレイピアの様な形だ。・・・僕の武器と、どことなく似ていた。ーそれにもう一人とも
「・・・一瞬で終わらせる」
悠はそう言い下級悪魔に斬りかかることなくたった一振りしただけの斬撃の風圧でいとも簡単に下級悪魔を消し去ってしまった。迫りくる他の悪魔達にも悠は無言のまま武器に術を纏わせる事も無くたった一太刀で同じ様に消し去ってしまった。・・・正直圧倒的な力だったよ。
な、んだ・・・この力は・・・これが悠の力なのか?これが幼い少女に秘められた力だと言うのか。こんな強大な力が・・・?
「悠・・・」
痛む体を動かし僕に後ろを向いている悠に手を伸ばしたが、いつもの様に笑顔でジーンの方へと振り返り手を取ることは無かった。
「ジーン・・・もういいよ?私を守らなくてもいいんだよ。だって私はこんな化け物なんだから・・・」
‶そんなこと思っていない。悠は悠なんだ!‶
・・・その時の僕にはこの言葉が言えなかったんだ。あの時に言わなければならない言葉だったんだ。だけど悠の瞳の奥が心が・・・泣いていたから。ためらってしまったよ。もしそその言葉を言っていたら悠の人生は変わっていたかもしれないのに。
情けないことにね。と茶化すように翔達に言うジーンの表情はとても辛そうだ。
だが、表情や話の一つ一つを気にしていられるほどの時間が無いことをうすうす翔だけではない。有稀や新、怜は気が付いていたのだ。話を聞きながら周囲を観察している魔王に急げと言わんばかりに言葉が早くなるジーン。
気が付かない程、翔達は弱くはない。お互いにお互いの表情を見ながら話を聞く。中々無い事だろうがジーンは止めることなく話しを続けていく。
悠の服にはべったりと悪魔特有の黒い・・・ただ黒い液体がついていた
きっとそこから僕たちは変化していったんだ。否、本当は初めから既に変化していたのかもしれない。
それに僕が気が付いたのが5歳の誕生日を迎えてからだっただけだったんだろう。
割れた窓ガラスは全てジーンの力で直され、綺麗な状態に戻ったが悪魔の血だけは消えることなく残っていた為、仕事から帰宅した二人は大層驚いていた。しかし父親も悪魔が侵入したことに気が付いていた為
「良く悠を守ってくれたねジーンくん」
と、そう言い頭を撫ぜた。・・・複雑だったよ。僕が倒せたわけではなかったからね。と悔しそうな表情を浮かべる。
そうしてその事件は僕が解決したことになり、悠の両親はさらに過保護になった。それ以外は何事もなかったかのようにいつもの日々が戻って来たかのように思えた。
だけど、ある日手をつないだり少しでも触れるだけで居たがる悠を不思議に思い、隙を見て悠の背中部分の服を捲ると背中全体に痣を見つけて僕は悠に問いただした。悠は何も言わずただ笑っていたよ
悠の母親は日に日に強くなる力を恐れ、悠に暴力を振るっていたのだ。だが、それを悠はただ受け入れ続けていた。そのことがさらに恐怖心を煽り、体中が痣だらけになっていた。
母親はきっと、初めから悠の力が怖かったんだろうね。今なら分かる気がするよ。なにより父親も日に日に力を増していくのを感じていたんだろうね。
悠を見ると怯えるようなしぐさを取りわざとらしく用事や言い訳をし、やがて近づく事さえなくなっていった。勿論悠はどんどん可笑しくなっていったが何故か笑顔だけは絶やすことは無かったのだ。
僕が・・悠を拒絶したからだ。
僕はなんてことをしてしまったんだ!
ジーンは自分を責め悠との接し方が分からなくなり触れあうことも話す事も必要最低限となり、本当の意味で独りになってしまったのだ。
日課になっていた公園での遊びや僕と居る時もどこか上の空で、怪我をすればその血に群がってくる悪魔たちを退治する。そうしてまた会話は少なくなり両親にも怯えられた悠は部屋から出ないようになった
「悠・・・」
そんな状態になったとしてもジーンは悠の隣にいることを選んだ。
離れることなんてできなかったよ。今、僕が悠から離れたら悠は本当に独りになってしまう。孤独の辛さだけは僕は悪魔の中では一番味わってきているからね。原因である僕が隣に居る事でさらにひどい状況になる可能性もあったけど、それでも僕は。悠が大好きなんだよ。家族として、大切な存在なんだ。
「ジーンは、いっしょにいてくれるんだね。どうしてこんな私でもいっしょにいてくれるの…?」
「当たり前だよ!悠は大事な友達なんだから」
「・・・ほんとう?ほんとうにそうおもってる?」
「当たり前だよ」
「・・・ありがとう!ジーン」
久し振りに笑った悠の笑顔はなんだかぎこちない気がした。だけど僕の気持ちは伝わっているのは分かっていた。悠の心の声がずっと聞こえていたから
だけど僕は分かっていても尚また、またなにか悪いことが起きる
そんな気がしてならなかったんだ
部屋に籠ったままの悠が突然外へ頻繁に出かけるようになり帰宅も19時を過ぎるようになった。その内悠に元気が戻る様になったものの相変わらず家の空気は重いままだった。しかし悠が6歳の誕生日を迎える三日前。初めて出会ったあの時と同じ笑顔で部屋に入りジーンに話しかけたのだ。
「しょうちゃんがね!いちじきた・・・?でかえってきたの!」
突然普通に話してくるから驚いたけど僕は嬉しかったよ。・・・僕以外で笑顔になっているのには少しだけ嫉妬してしまったけどね。
どうやら話を聞くと例の幼馴染の‶しょう‶は元々男子校の特別学級に通っていたらしいんだ。徐々にその回数を増やして学園に慣れるようにして、今年学園に入学な事もあり手続きが終わり一週間前に一時帰宅したそうだ。・・・あそこに入れば中々会えなくなるからね。
悠はずっとニコニコして嬉しそう感情豊かに話をしている。・・・最近‶しょう‶の家に毎日の様に出入りしていたから一体何をしに行っているのかとは思っていたけど、流石‶しょうちゃん‶と言った所かな。
「よかったね、悠」
「うん!はやくしょうちゃんに会いたい!・・・ジーンもあおう?」
いつも通り頭を撫でると嬉しそうな表情で頷き、不安げにジーンの瞳を見つめながら‶しょう‶と合わせたいと言ってきたのだ。何度か見かけてはいたけど確か‶しょう‶も聖杯を使えると言っていた。見た所かなりの力があったからあったらすぐに分かってしまう。・・・僕が悪魔だって。殺されてしまうかもしれないね。それに‶しょう‶は後ろ姿しか見ていないけどあれは多分女の子だ。どうして男子校に入学できたのか僕には分からないけど…
そう色々考えていた事が悠も聞いていたんだろう。優しく僕の頭を撫でて
「だいじょーぶ!しょうちゃんはジーンをけしたりしないよ!」
悠は僕にそう話しかけてきたよ。正直悠に頭を撫でられる日が来るとは思わなくて驚いたよ。悠は、すごく優しい子だ。
「分かった。・・・分かったよ悠。」
もう降参だと両手を上げれば悠はよほど嬉しかったのだろう。その場で何度か跳ねると
「わーい!あのね!あとすこしでね!くるの!」
と、この家に来ることを知った。チャイムが鳴るまで散々‶しょうちゃん‶について色々な表情で語っていた。・・・あまり聞かない方がよかった話もあったけどね。
悠の話を聞いた僕は、‶しょうちゃん‶は正義感があるがめんどくさがり屋。だけどいざとなったら助けられる勇気を持っているさびしがり屋な女の子と言う図が出来上がっていた。
そしてピンポーンとチャイムが鳴り‶しょう‶が家までやって来たのだと分かった。
「しょうちゃん!」
階段を跳ねるように駆け下り玄関まで走る悠は過ごしてきた中で一番早かったと思うほど俊敏な動きをしていた。悠が笑顔で出迎えた先にいたのは、何とも言えない表情をした‶男の子‶だった。
悠の話しを聞いていてもしかして女の子じゃない?とは思っていたけど・・・やっぱり女の子じゃなくて‶男の子‶だったのか・・・。
悠が余りにもはしゃいでいるのを見て若干引いているがどこからどう見ても男の子だった。
「なんだよおまえ!!」
悠の言う通りう正義感に溢れていた。確かに、確かに正義感は強かった。けどこれは僕のことをかなり警戒して・・・敵だと認識されてる気がするよ。それにわがままで口調がかなり乱暴だけど…悠?
ジーンの声が聞こえているはずだが、‶しょう‶に会えたことがよほど嬉しいのか心の声を聞いている余裕は何処にもないようだ。仕方なく笑顔で挨拶をする。
「初めまして。何度か見かけたことはあるけど話すのは初めてだね。僕はジーン。両親が事故で他界して約3年前からお世話になってるんだ。よろしく」
そう言い右手を出すが‶しょう‶は握手はしなかった。が、少しそっぽを向いて
「・・・しょうがないからなかよくしてやる!」
と照れた様子で言っていた。・・・この子素直じゃないな
「しょうちゃん!そんなはなしかたダメ!」
「いいじゃねーか!」
「しょうちゃんのばか!だからいつまでもつんでれっていわれちゃうんだよ!」
「おれはつんでれじゃないぞ!あとばかじゃねー!」
‶しょう‶の態度に悠が注意をし、何故か二人は言い合いになっていた。ジーンは封印される前、悠と‶しょう‶と同じ年齢の子供たちを見かけたことがあるが、二人の会話は決して同じ歳の子がする会話ではなくもっと年齢が上の子供たちの会話に聞こえた。
つんでれ・・・ってあのツンデレのことだよね?確か聞いたことがある。けどその言葉何処で覚えてきたのかな悠?
暫く言い合いを見守っていたが止まることが無かった為仲裁し、その際に‶しょう‶の名前と悠の名字を初めて知った。神乃宮悠と呉牙翔。
「それにしてもまさか翔がツンデレって言われてるとは思わなかったよ」
と心底可笑しそうに当時の様子を思い出しているのかクスクスと笑ったかと思えば
「その様子を見ていて、二人はとても不思議な子だと思ったよ。それにあの頃の翔はとてもかわいかったよ」
と、幼い頃にやや面影のある彼、翔にジーンは面白そうに話しかける。
「誰が可愛いだ!てか俺は女じゃねーよ!名前で分かるだろーが!」
案の定荒ぶる彼、翔を横目に反応を楽しんでいるジーン。勿論彼、翔を諫めるのはあの三人だ。
「落ち着いてよぉ~翔ちゃん♪」
「そうだよ翔ちゃん~」
「・・・翔、ちゃん・・・?」
有稀と新はジーンと同じように少しからかう様に言うが伶は怪訝な表情で‶翔ちゃん‶と呼びどこか腑に落ちない様子で彼、翔を今まで見たことのない一番引いている表情で見ている。
「翔ちゃん翔ちゃんうるせーよ!つか、そんな目で見るんじゃねーよ怜」
そんな光景に、目を細め懐かしさ浸る悪魔が一人。
「まさか同じ様な光景が見れるなんて、夢みたいだよ。」
張り付いた笑顔とは違うとても穏やかな表情で彼、翔と意識を失ったままの悠を交互に見つめた。
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