第38話
「で、キミたちはわざわざそんな話をして死にに来たんだ?」
悠長に思っているとジーンが巨大な方陣を地面に浮かべ無表情のままこちら側を見据える。
四従士たちが会話をし、それについて行けず困惑している魔王や翔達の状況から既に方陣を作り上げていたのだろう。
突然方陣が現れたことに対処出来ず四従士の動きが止まる。・・・間に合わない!
「・・・龍!」
そう一言叫べばどこからか元の大きさに戻った龍が現れ炎の光線を浴びせ方陣を破壊する。
『これで良いだろう。それから我を忘れて先に行くな。』
「ごめん」
肩にいるとばっかり思ってた…通りで左肩が軽いはずだよ
そのまま小さくなり肩に乗ると溜息を付く。素直に謝れば頷きジーンを見据える。その瞳は何処か愁いを帯びている。
「悠には参るな・・・まさか龍とも契約していたなんてね」
既に他の悪魔からの情報で知っているはずだがわざとらしく首を振り悠を手招きする。
「褒めてくれてありがとう。ジーン」
一歩、また一歩と前に進み1mも満たない場所で止まりこちらもわざとらしくにこやかに微笑んだ。
「悠。来ている事にはなんとなく気が付いていたよ。来るとは思っていたけど随分遅い到着だね」
「色々あったんだよ」
常にジーンは微笑悠は少し低めの声とあまり動くことのない表情のやり取りが続いている。
「ああ。あの男と一夜を共にしたことかい?さぞいい思いをしたんだろうね」
あの男と、悠の後ろにいる翔に一瞬視線を送りとても良い少し殺気だった笑顔でこちらを見る。その言葉に後にいる魔王を見ればバツが悪そうな表情で視線を逸らした。・・・魔王余計な事を
「紛らわしい言い方しないで欲しいんだけど。何かあるなんて・・・気持ち悪い」
「お前な!」
悠の返答に翔の叫び声が聞こえてくるがお互いに無視をしたまま話は進む。
「悠が僕の剣を受け止めた時は驚いたよ。強くなったみたいだね」
「知ってる。」
「・・・こうして長く話すのはあの時以来だ。」
「学校でも一度話してる。」
「そう言えばそうだったね。悠。キミは僕を殺そうとしているだろう?」
「そういうジーンこそ私を殺したいって目をしてるよ。・・・迷いがあるみいにも見えるけど。」
「その口の悪さはどうしたの、悠。」
心の底から心配する表情の声色に昔のジーンの表情が被る。
「色々・・・色々あったんだよ。」
「僕も色々あったよ。だけどキミは色々駄目な方向に成長したみたいだね?」
「近くに魔王がいればこうもなるだろ。それに、そんなに駄目な成長でもない。」
「確かに・・・綺麗になったことは認めるよ。」
「お世辞はいらないかな。でも・・・ジーンは昔よりもさらに格好良くなったな」
妙な緊迫感と緊張感の中まるでそんなものが無いかのように哀しさと懐かしさと後悔と。そして二度と分かり合えないことを確認するかのようにただ淡々と会話、ではなく話す。
「悠。こっちに来る気はないんんだね・・・今だったらまだ間に合うよ」
「気遣いはいらないしそもそも〝そっち‶に行く気はないから」
完全な拒否。まさかこちらが拒むとは思っていなかったようで驚愕の表情で瞬きもすることなく凝視する。・・・年々強くなる悪魔の心の声を聞く力。最近は悪魔よりも人間やさっきも風再達の心の声が聞こえてきた。
「そうか・・・キミは死を選ぶんだね?」
‶キミはこっち側に入るべきだ。悪魔と話せる君は・・・人間として生きていけるのかい?‶
声が直接頭中に流れ込む。・・・もしかしたら無意識のうちに聞かないようにしていたのかもしれない。もしくはコントロールできるようになっただけなのかも。
今更分かった所でどうすることもできないけどね
「冗談もいい加減止めれば?死ぬのはジーン、お前だ。」
止めて。・・・私はそっちには行けない。だからジーンをここで止める
「あはは、悠らしい答えだね」
‶僕を止める?・・・君はあの力を持っているのに?僕がしたことだけど‶
「それはどうも」
‶そんなことどうでもいい。・・・でもジーンだって少なからず影響を受けるはずだけど‶
話しをしながら、心の声で会話する悠とジーン。それに気が付いているのは悪魔である魔王と精霊王である四従士達だけだろう。
そして最後悠が子心の中で思ったことで、悠は気が付いてしまった。
・・・ああ、そうか
「・・・聖杯召喚」
胸元が光り輝きcardの形をした空間が一瞬でダイヤの様な形へと変わり服の上に現れる。それに手を近づけ空間に現れた柄を握りしめると素早く抜き出す。レイピアに似た細身の刀身に複雑な装飾が付いた柄が一瞬光り、弾ける。
ジーンが持つ武器は魔王が持つ武器と酷似している。
刃の部分はやや黒く鎬ーしのぎー部分は漆黒だ。身幅はかなり狭くレイピアよりも少し広くなっている。
切っ先部分の反りは大きく大脇差程の刀身はやや反りがあり上身ーかみーから茎の境目である棟区ーむねまち。峰と呼ばれている場所ーまで大きな乱れの波紋があり長後に近づくほど細かく柔らかい波紋となる。
鍔は円形になっており上と左右に丸に四つ角中に大花犀角ーおおばなさいかくーとなっており、ヒルトー柄部分ーにはクローバーに浮線綾のモチーフが全体に刻まれているが一体化し透かしの入った複雑な曲線を描いた形の名称であるスウェプト・ヒルトになっており、見た目とは裏腹に突きの攻撃よりも凄まじい切れ味を誇る。
それが戦いの合図のように構えることなく同時に武器を振りかざした。
紙一重で同時に攻撃を交わし再び斬りかかる。瞬時に悠は術を発動させ同じ様にジーンも術を発動させる。斬りこむ速度が速くなり、やがてに肉眼で追えない程の速さになり空中戦も取り入れられそれについて行けるものなど、誰もいない。
「この俺が肉眼で追えなか・・・。あいつらを見くびっていた。それとも、俺が弱くなっただけか」
魔王の言葉がやけに重くのしかかるのはやはりこの世界を統括する魔王だからだろう。
周りの木々はなぎ倒され大地は削られ穴が開いている状態でも戦い続ける悠に翔達は唖然と見えない姿を見つめる。
そして大きな金属同士がぶつかり合う音がし、ジーンが武器を消し悠もまた聖杯召喚は行ったまま武器をダイヤの形をした空間へと戻す。
「決着を、つけようか」
幾度となく時間が過ぎようが、全力を出し切る事は出来ずお互いが防戦一方の状態のままなのを戦う間に悟ったのだ。そう言葉を口に出したのは悠ではなくジーンだった。
「・・・そうだね」
静かにその言葉に同意する。・・・きっとジーンはまたあれをするんだろう。私とジーンがこうなった始まり。
どうして
どこで
なんで
何処から・・・私たちはこうなってしまったんだろうか。否、本当はジーンも私も分かってる。これがあの時の戦いの代償なのだろうか。大丈夫。大丈夫。
どうせ、私はあの時死ぬはずだったのだから。
「僕は・・・」
私は・・・
ジーンが静かに言うが後の言葉が聞き取ることが出来ない。だが、聞き取る必要はないのだ。
思っていることは、同じなのだから
「「もう一度あの頃に戻りたいだけ」」
何も知らなかったあの無知な幻の幸せだったあの時に
「おいやめろ!死ぬ気か!?」
経つことが出来なくなり途中膝をついていた魔王が聞いたことのない声で叫びその表情は焦りと恐怖で満ちている。
「不変を望む悲しぶれて不滅有るぞかし。神ありありと、身命ーしんめいーなり。」
ジーンがそれを言葉にした。
絶対に侵してはいけない領域を生きている者達はそれを‶禁忌‶と呼ぶ。
禁忌は複数存在し、labyrinthが生み出した術のいくつかがそれに当てはまる。また、書物などにも禁忌が記されているがどの書物にも記されていない禁忌が存在する。
それは暗黙の了解にもなっている‶聖杯の武器は誰にも奪われてはならない‶。その理由は具現化した武器は自分自身の核の写し身だ。敵に渡った場合何らかの影響を受け操られてしまうからだ、と記載されている。
実際確かにそうなのだが、正確に言えば‶聖杯召喚時、もしくは聖杯召喚中に決して悪魔に気を許してはならない‶だ。
なぜか。
それは、cardにはある文字が刻まれ悪魔か若しくは悪魔の血がそれに触れることで文字を知られ奪われれば奪った側の配下となり側は奪った側の言いなりになってしまうが意識を奪う事は出来ない。また、悪魔自らが配下から解放することもできるが全て悪魔に都合の良いことばかりとも言えるだろう。
学園では、それを暗黙の了解へと変え少しの真実を混ぜた嘘を教えている。
一方悪魔はcardは存在せず生まれた瞬間よりその言葉を知っており周りに知らしめることで自分自身の価値を生み出していく。
悪魔は、その文字を使い自身の力を強化することが出来、配下を作ることが出来る。しかしその力は強大でコントロールが出来なくなれば消えてしまう。こうして強さを手に入れた悪魔達は上級悪魔となる。さらに段階が上がれば、より強くなるのだ。
だが人間は違う。聖杯所持者に限るが、苦痛に耐え悪魔の力をcardに取り込むことで悪魔の力を得ることが出来る場合がある。
成功すれば悪魔となり失敗すれば悪魔にもなることが出来ず人間にも戻ることは出来ない。悪魔にもなれず人間にもなれず人間の姿を保つことが出来なくなるのだ。化け物となる。
だが、化け物にも悪魔にもましてや人間に戻ることのできない存在がいる。
しかし、一度枷が外れてしまえば化け物となり、手に追えず暴れまわり人間も悪魔も精霊も天使も何もかも生きる者全てを攻撃し始める。
・・・どうしてこんな詳しく知っているんだろうか。どうでもいいや。
先ほどとはまるで違った禍々しいどす黒い渦のオーラがジーンの周りに放出され深い漆黒の闇に染まる。その闇はジーンに吸い込まれる。
「悠。君は‶また‶こうなりたいのかい?」
再度禍々しい黒いオーラに包まれながら悠に問いかけるが既に覚悟は決まっている様で真っ直ぐジーンを見つめ返す。
・・・もう覚悟は決めている。あの時と同じ様に戦うだけ。
あの日から悠は悪魔と同じ様に文字が読めるようになっている。それは無意識から始まった。やがて自身の枷が外れていることに気が付きやがて文字を認識できるようになり、文字を読むことが出来るようになったのだ。その文字は自らの運命を現すとされている。
‶矛盾や。禁断の希望は泡ーうたかたーなりけり。あなや神、なし‶
身体の奥底に無理やり異物化入り込むような感覚と共に足に力が入らなくなるが踏ん張りどうにか立っている事が出来ている状況でドクンッ!と一回心臓が跳ねるように鳴った。
苦しさに胸を押さえると先ほどのジーンとは桁外れの力に辺り一面が濡羽色と相墨茶色が混ざり合あった不気味な色となり周囲の木々を大地を腐らせ沈ませる。それと同時に無数の渦が出来始めとっさに離れたジーンもろとも悠の周囲からとてつもない力で押されていく。それは翔達も同じだ。
「悠!!」
ジーンが強くこちらの名前を叫ぶ。その表情は、こうなってしまったことを後悔している歪んだ表情だ。何でそんな顔してるんだよ・・・
「やめるんだ!悠!!」
渦に向かい近づこうとするが前に進むことが出来ず後ろへと押されていく。だがそれでもジーンは前へと進もうとする。・・・無駄な事だと分かっているはずなのに
「なにが起こってんだ!?」
「この力・・・強すぎるよぉ」
翔と有稀の声と共に微かに姿が見えるが直ぐに不気味な色にかき消され姿が見えなくなる。
「あいつは・・・もう悠ではない」
渦のみの為声はどうにか拾うことが出来るが魔王のその声は諦めた様な声色だ。
「魔王・・・お前何言ってんだよ!ジーンお前もこいつの何を知ってんだよ!!」
魔王につかみ掛かりジーンに殴りかかるのを新と伶に止められてる翔は激高しているようだ。
しょうちゃ・・・ん
不気味な色の渦が全て悠のダイヤの形をした空間へと吸い込まれていきその空間はスッと消えてしまった。具現化が解け聖杯召喚が強制的に解除させられたことを意味する。
「翔ちゃん・・・こそ、わたしの何を知ってるんだよ・・・」
渦が無くなり木々も大地も腐り異臭を放つ中悠の近くまで近づいてきた翔に放った言葉は、あまり野茂残酷だろう。
「ゆ、う?」
想いもしなかった言葉に翔はかろうじて名を口にすることしか出来ないでいる。大分回復したであろう有稀、新、怜は固唾の飲んで見守ることしか出来ず、ジーンと魔王は言葉にしようとしない。いつの間にか四従士も姿を消し小さくなった龍だけが悠の周りを飛んでいる。
「私を、ころせ」
俯きながら、吐き捨てるように言葉にする。こんなことしか言えないなんて、な・・・
「な、に言ってんだよ・・・!」
理解できない思いが強く言葉に乗り、驚愕と哀しみがまじりあった表情で悠に攻め立てるがあまりの瘴気に触れることが出来ない。
「ジーン。お前は私を憎んでいるんだろう?他の奴らもだ・・・本当は私を憎んでいる。嫉んでいる。」
「そ・・・それは・・・」
気まずそうに有稀が視線をさ迷わせ伶はピクリと眉を顰め新の表情は硬い。一方ジーンは皇帝も否定もすることなく沈黙を貫いている。
「腹が立ったはずだ。・・・いなくなれと、思ったはず・・・」
「だから一体何なんだよ!?」
「だったらお前らは私を殺せる。・・・きっと殺すしかなくなる状況に陥るよ」
翔がますます意味がわらないと声を荒げるが既に目が霞み力に飲み込まれつつある悠は限界となり膝から崩れ落ちる。
「おい!?大丈夫かよ!?」
瘴気が濃いが翔はためらう事なく悠を支えようとするが魔王が肩を掴み止めに入る。
「近寄るな!・・・もうそろそろ私は私ではなくなる・・・予想はしていたんだがな・・予想より早い」
魔王が止めに入ると同時に近づけぬように言葉でけん制する。
これが、代償か。・・・これ以上近付けば翔ちゃんだけじゃなくて魔王もジーンも全員餌食になるから遠ざけないと。
「・・・俺は殺さない」
「・・いいや、必ず私を殺すよ」
果たして悠の真意を分かっているのだろうか。はっきりと悠の言葉を否定するが返ってきた言葉は翔が望んでいた言葉ではないだろう。そのまま低い声に笑みを浮かべる姿は何とも言い難い。
ここにいる全員が、私のことを恨めばいい。そうすれば、私を殺せるはずだ。
ずっと・・・ずっと私はそれを望んでいたから
「ゴボッッ!!ゴホッッゲホッッ!!」
「悠!」
大量の血を吐き目からは黒い液体が流れ、ありとあらゆる場所から血と黒い液体が流れ落ち滴り落ちる。滴り落ちたそれは大地に染みわたりその場所を黒く染める。
こうなるのは、何度目ろう。
あの日私は奇跡的に死ななかった・・・人間でも悪魔でもない者になり果ててしまった。
てかそんな切なそうな、顔・・・されても、困るんだけどな・・・
全てを飲み込まれる感覚に引きずられるが何とか意識を保つ。
「・・・・必ず殺して」
見たことのない満面の笑みが合図となり不気味な色をした力は悠の中に入りきれなくなり身体全体を回転し出す。そして沼か湖か。タプンと満たされた音がし一気に力がこちらの中に流れ込む。
最初から、最初からジーンと出会うことがあればこうするつもりだった。少し予定が遅れただけでこうなることも予想していた。・・・予想できていたはずなのに
少しだけ・・・寂しい
「おい!!?」
翔の声に一瞬意識が浮上する。そこには、泣きそうな表情で悠を抱きしめている翔が居た。
どうして。
その言葉は、声にはならなかった
あの時死んでいたらよかったのだろうか、生き残らなければよかったのだろうか。
違う。
・・・きっとこれはあの日、補えきれなかった罪の代償なのか。悪魔にも人間にもなれなかったからなのか。
それとも。ジーンと戦うことへの、代償なのだろうか。
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