I who am true

第36話

どうしてこうなったかなんて、そんなこと今更分かってる。代償は必ずついて回る。私の代償は一体何なのだろう。

死?・・・それとも、もっと別の何かなんだろうか


「お前、最初からこうしろよ!」

翔は大声で悠に叫ぶ。・・・良く聞こえないな!!

「なにー?最初からとかよく聞こえないんだけど!」

「聞こえてんじゃねーか!」

そんなに怒ることないと思うんだけどな・・・と振り返り翔を見る。

「まぁ、翔ちゃん野言う通りばっちり聞こえてるんだけど」

「おい!」

「で、何?」

「最初から・・・こうやって飛べばよかったんじゃないかって言ってんだよ!」

冷静な悠の対応に対し怒りを貯め込んだ翔は叫ぶ。

そう。今悠と翔は上空をす凄まじい速さで北の最果てにある森へ移動中なのだ。なぜここまで翔が声を荒げているのか。それは少し前に遡る。


翔が穴に飛び込むと結界は直ぐに塞がってしまった。が、窓もバルコニーもなくなり部屋が半壊し、その威力は数回下まで及んでいた。着地できるバルコニーが無いのだ。つまり、外。

また、城は内部と外部では大きさも高さも異なる。外部はより大きく高く、内部はやや広く作られている。その為、バルコニーから見る景色はタワーほどの高さになるということだ。

要するに何が言いたいかと言うと私と翔ちゃん外出た瞬間急降下したってことなんだよね!!デジャブかな!?

「マジかよぉぉぉ!!」

「叫んでないでどうにかするんだよ翔ちゃん!」

「出来る訳ねーだろ!!」

段々落下していく速度が速くなる。このまま何もしなければ悠と翔は地面に叩き付けられて即死してしまうだろう。また、先ほど力を使った影響か思うように力が出せないこちらより翔の方が問題だ。先ほど一時的に膨大な力を別の器に注ぎ込んだ為消費が激しく回復が追い付いていない。

色々問題があり過ぎるだろ!・・・仕方ない。やるしかないか

「眠りし力解き放て。ー第一解放」

急降下しているはずだが辺りは静寂に包まれている中、凛とした声が静かに響く。

奥底から力が溢れ出てくる様な今まで押さえつけていた力が飛び出すような感覚が悠を襲う。強大な力を制御することでより一層長時間高度な術を維持することが出来、それは周囲の人間にも及ぶ。

「力を宿し、空駆ける自由を我が身に、過の身に。天駆ーてんかー!」

急降下していた悠と翔の背中に光が渦の様に纏わりつきその光の中へと浸透しながら広がり続け、弾けた。

その瞬間空中でピタリと体が止まり急降下し始める。自分の意思で降下や上昇などを試し少し驚いているしていると翔も自らの意思で飛行が出来ることに気が付き納得している様子だった。

これ昔自分の意思で止まったり加速したりできなかったんだよな…発動は出来ても上手くできなかったやつ!

「悠!お前第一解放してなかったかのかよ!?」

既に術の力を使いこなしているのか音もなくこちらに使付いてくるが、声で台無しだよ翔ちゃん・・・!

まぁ、驚くのは当然だよね。早ければ初等部に入った頃には既に済ませてるはずだから。・・・しなかったというか出来なかったんだけどね

「忘れたってことなんだけどね!・・・それよりも早く向かおう。」

「お前らしい理由だな・・・あぁ。行こうぜ」

・・・こうして私たちは過の森に向かった訳なんだけどてか、もう既に向かってる最中だけど。

空を風を切りながらスピードを上げ森へと急ぐ。


やっぱりさっきの第一解放のせいで体重いな・・・やっぱり通常の解放よりも負担がかかるって出会った悪魔達に言われてきたけど本当の事だったんだな。

後ろを振り返るれば真剣な表情でこちらに付いてくる翔の姿が目に入る。

本来、全ての命ある者は普段力を無意識に制御している。火事場の底力と呼ばれる力も普段制御している力を使った時に発揮されるものだが、普段からその力を使い続ければ強すぎる力に自分自身の体が付いて行かなくなる為無意識のうちに制御している。

それは聖杯の力にも言えることだ。

普段聖杯を具現化と非具現化として使っている武器や術は無意識に力を制御した状態で使い、制御した力を補うために武器に術を纏わせ強化させ戦っている。

私の場合はそれすらも制御してた訳なんだけど…

その制御を開放し、普段自分が使える力を底上げ、増幅させることを‶解放‶と呼んでいる。

解放は四段階まで存在し、四段階全てを解放するには並外れた努力と才能が必要になる。

全てを解放した人間は今の時代では男子校の理事長のみだと言われている。


第一段階から第四段階までの解放の中で特に重要だとされているのが第一解放だ。


第一解放は例外はあるが基本7歳から10歳までの間に行う様にと、どの書物にも記されている。第一解放の際のみに起こる現象があり、その現象とは力に格差が付いてしまう事だ。

力が強くなる者もいれば逆に弱くなってしまう者もいる。第一解放だけではなく全ての解放に言えることだが解放する際、直感でその時が分かるようになっている。

第二解放は基本12歳~14歳まで者達が多いことから基本年齢として推奨されている。

第一解放特有の力の格差などは起こらずただひたすらより自らの力を解放する段階へと突入していく。

また、稀だが第一解放と第二解放が同時に起こることがあり、体が重くなったりと風に似たような症状が出ることがあるが本人が気づかないことはまず無い。

術を使った時等に初めて発覚する例がほとんどだが自ら気づく場合もある。


私の場合は、元々力が強かったのもって解放自体を知らなかったからってのが一番だと思うけど、なんとなく嫌な予感がするんだよな…

同時解放とかしてたりして。・・・まさかな!


第三解放については、第四解放と同じだが出来る者が限られる。

唱える文言、年齢の関係が無くなり持って生まれた素質と後付けされる能力の向上により変わる。

その為寝ている間に等時と場所を選ばないのが問題点でもあるが、第三解放を行っている者達も十分努力の天才なのだ。

第四解放は、もはや運としか言えないだろう。

第三解放同様いつどこで解放が起こるかそもそも解放が自体があるのかも分からない。そしてなにより第四解放には壮絶な痛みが伴う。そこまでして力を求める者も早々おらず来るとも分からぬ解放を待つ者は今の世の中にはまず存在しないだろう。

歴史上の人物ではlabyrinth、phantomが第四解放まで到達したとされているが、定かではない。

私は特に気にしないけど痛いのは勘弁してほしいな・・・もう第二解放だけでいい!

先ほどの第一解放のこと思い出しいもずる式に出てくる解放の知識を頭の中で整理するが、途中からそれさえも疲れはじめ考える事を放棄する。と

「てかよ、最初から第一解放してれば出れたんじゃないのか?」

と、聖杯の力を扱う為の学園に通う者とは思えない突拍子もない言葉が右横から聞こえてくる。深い溜息を付き翔を見つめるの表情は呆れているだろう。と言うか呆れてるんだけど!!

「解放はその時にならないと出来ないの翔ちゃんなら知ってるでしょ・・・それに、あの結界は魔王が張った結界だから穴開いたくらいじゃ壊れないから。修復されるって話もしたと思うんだけど?」

「言われてみればそうだな・・・!」

いや何納得してるんだよ!!

知っていて当然の知識のはずだが、とぼけているのか場の雰囲気を和ませようとしているのかはたまた本当に忘れていたのか定かではないが思いだしたかのように無邪気に笑う翔を見て微かに頭痛がした。

翔ちゃん本当に馬鹿だ。正真正銘の馬鹿だ!

戦場に向かっている空気感ではなく日常の空気感が漂い、混乱する。本当に私と翔ちゃん森に向かってるのか?むしろさっきのことも夢だったんじゃね?

そう思うが、やはりこれは現実だ。目に映る物が徐々に近くなる気配がそれを物語っている。

ここに翔ちゃんがいて良かったかもしれない。きっと私にとっては・・・

「お前、ジーンがいる場所分かってんのか?」

翔の声にはっと現実に戻される。

「この先の、森」

今は、目の前の事だけに集中しよう。

「そうじゃねーことくらい分かってんだろーが!森のどこにいるのか分かってんのかって話だよ!」

翔はそう言いまっすぐ進む先を指示す方向にはただ広大な森とやせた大地が広がっている。・・・森に向かい始めて10分は経っているが、景色が変わることが無い為不安に思ったのだろう。

そもそも魔界なんてどこもこんな感じだしな・・・

「・・・とりあえず、その森に行くのに結構時間がかかるんだよ。今回は空から行くからそんなに時間かからないと思うけど」

言葉を濁し話を逸らしたことに気付いた翔だが別の事が気になる様で眉間に皺をよせたまま深く考え込んでいる。・・・そう言えば翔ちゃん昔はあんまり考えずに突っ走ってたけど学園で会ってからの翔ちゃんはある程度考えてから動くようになったよな。

ようやく考える能力が備わったのか!あ、手に入れた方がしっくりくるかも

「俺はもう何も突っ込まねーからな。・・・俺達が向かってる北にある森はどんな所なんだ?北って事は他にも森があるんじゃねーのか?」

思いがけない鋭い指摘に驚きの表情で翔を見つめる。・・・どの道説明しようと思っていた事だけどまさか先に翔ちゃんに聞かれるとは思わなかった。

成長したことが喜ばしいはずなのだが、大人になってしまったことに少し落胆した。どこからその感情が生まれたのかは、こちらも分からない。小さく息を吐き横を向く。

「翔ちゃん野言う通り、魔界にある森は向かっている森を含めて全部で三つある。南西と南東。それから北ね。南西と南東の森は上級悪魔が隠れ家にしていたり住み着いて居たりするけど、唯一北にある森は悪魔がいない。それに魔王自ら張った結界を定期的に張り直してるくらいに厳重に管理されてる場所な訳。それくらい危険な場所なんだよ。」

「その三つの森は名前付いてんじゃねーのか?なんで名前言わないんだよ」

こちらの説明に納得がいかなかったのか敢えて省いたことを指摘され仕方なく説明を始める。

魔界の話しはあまり人間に話すなって魔王にくぎ刺されたんだけど・・・十分巻き込まれてるし翔ちゃんはそう言う話は絶対に親しい中でも話さないのは分かってるから。

魔王に言われたら脅せばいっか。うん。

「魔界の森は基本的に通称名で呼ばれる訳。今向かってる森は北の最果てにある森だから通称〝北の森‶もしくは‶過の森‶って呼ばれてるけど、通称名でさえ忌み名とされているから。南西と南東の森はともかく、北の森が話題に上がることはまずないよ。」

空を飛び風を受けているはずの音がどこか遠くに聞こえ、悠と翔の呼吸音が妙に体に響く。

「・・・南西にある森を‶オフサルマパティ・ヒューレー‶。南東にある森を‶セルセラ・ヒューレー‶。北の森を、‶ナーダ・ヒューレ‶。」

「なんだそのよく分からねー言葉は。」

「魔界が出来た頃に使われていた言葉で‶限‶の言語の元になった言語だって魔王が言ってた。私もそこまで詳しい訳じゃないけど・・・」

「限になる元の言葉を使ってんのか。俺達が分かる訳ねーな!・・・その三つの意味はなんて言うんだ?」

聞き馴染みのない言葉にどう反応すればよいのか困っていた翔だったがこちらの説明を聞き潔いほどに開き直る。そして、やはり意味が知りたいのか目を輝かせながら視線のみで訴える。

・・・好奇心って怖い。

「南西は‶蜃気楼の森‶南東は、‶鎖の森‶。・・・最後の北は、‶無の森‶。翔ちゃんに分かりやすく説明すると、南西の‶オフサルマパティ‶が蜃気楼の意味で‶ヒューレー‶が森の意味。蜃気楼って光の屈折によって起こるのは知ってると思うけど、南西の森を元々住処にしていた悪魔が蜃気楼を起こした。結果蜃気楼は出来上がったけど自らも蜃気楼となりその力は木々や大地に溶け込み降り注いだ雨も雷も風もそこで起こるありとあらゆるものが蜃気楼の力を宿した。だから、そこに入った者もいつの間にか蜃気楼になっている。・・・実際魔王もなりかけたからね。だから南西の森は蜃気楼の森って呼ばれてる訳。通称名もそのまま‶蜃気楼の森‶とか‶蜃気楼‶って呼ばれてるよ」

先ほどまでの目の輝きは何処へ行ったのだろうか。翔は苦い表情をし黙りこむとこちらから視線をそらした。・・・好奇心って本当に怖いよな

「南東の‶セルセラ‶は、鎖って意味。‶ヒューレー‶はさっきも説明したけど森って意味。鎖の異名を持つ悪魔が南東の森を隠れ家として使っていた。その悪魔は自らの手で殺した悪魔や人間を鎖に変え防御として体に巻き付けていたらしいけど、その悪魔は自らの鎖に絞められ命を鎖に吸われた。その鎖は意思を持つようになり木々や大地に寄生した。後は蜃気楼と同じだよ。」

「呪いみたいだな」

翔の的確な言葉に深く頷き真っ直ぐ前を見据え愁いを帯びた表情を浮かべ

「・・・あながち間違っていないと思う」

零れ落とすように悠は言葉を紡いだ。

もし呪いを、私も持っていると翔ちゃんが知ったらどうなるんだろう

「そして、北の‶ナーダ‶は‶無‶。ヒューレ‶はもう説明しないから」

「森って意味なんだろ!!」

「正解。・・・で、‶無の森‶に関しては分かってることが何もないんだよ。何度か悪魔が住み着いた話を魔王から聞いたけどその後行方が分からなくなってるらしい。・・・全てを無に変えるとか、入っても何も起こらないとか色々言われてる。知ってるとしたら魔王くらいしかいないと思うけど、何も分からないからこそ危険なんだよ。」

「なんでジーンって悪魔はそんな危ない場所にいるんだよ。」

「さあ?・・・危険だからこそ誰も近づいてこないからとかじゃない?」

ジーンが封印されてた場所だからって事も関係あると思うけど・・・

「っともう少しで着くよ」

「もう少しってお前な・・・景色変わらないんだろ。分かる訳ねーだろ」

悠がスピードを落とし下降すると訝しげに見つめながら同じ様にこちらの横に来ると周りを見渡した後呆れた表情を浮かべる。

景色は木々が少なくなり大地が見えるものの殆ど変化は見られない。

「ったく・・・軌跡を辿れ。浮かび上がる場所を追い示せ。ー水面辿跡。-みなもてんしゃく-」

しょうがない溜息を付き人差し指と中指を立て構え唇に沿え術を唱え終るとゆっくりとアーチを描くように下ろし目を閉じた。

この術は周辺の隠されたものや追尾をする際に使われる。水面の様に力が広がることで相手に察知されにくくまた察知能力は術の中でもかなりの力がある。

この術には三つの術があり、弱いものから順に天ノ辿追ーあまのてんついー、空理軌示ーくうりきしー、水面辿跡ーみなもてんしゃくーと三つの段階がある。皆同じ察知能力に長けた術だが最も難しく難易度が高いとされているのが水面辿跡だ。それを当然の様に行う翔は、やはり力が強く優秀なのだ。

暫くすると翔はゆっくりと目を開け構えを解く。

・・・翔ちゃんやっぱり昔から優秀なんだよね。この術時間が掛かるし力も無駄に消費するからあんまり使われないんだけどどうやらもう分かったみたいだ。

「この先、つかもう森真下にあるじゃねーか。・・・が、結界はどうするんだ。こんな結界見たことねーぞ」

魔王が自らかけた結界故、見たことが無いのも頷ける。

「それは大丈夫!」

だが険しい表情を浮かべる翔の隣で満面の笑みを浮かべると翔の腕を掴みその場でぐるぐると回転しながらスピードを上げていく。翔ちゃんが横でなんか言ってるけど無視!

其のまま急上昇し一気に急下降するとガラス玉が弾けた様な音と共に宝石が割れた様な割れた音がした。人一人がやっと通れる程穴から見える景色はあたりに広がっている景色とは全く違い違い薄暗い森林が生い茂っている。

「やるなら先に言えよ!ま、俺が調べたからちゃんと森があっただろ?」

「もう修復が始まってる。やっぱり城の結界とは比べ物にならないな…とっとと行くよ」

「俺の話スルーかよ!」

自慢げに語りこちらの言葉に突っ込む翔を再び無視しスピードを緩めることなく割れた結界内へと進む。その場で止まり後ろを振り返ると森の中へと入る事は出来たが城の結界よりも強度があり修復能力も桁違いの為か既に結界は修復されていた。

ゆっくりと着地出来そうな場所を探し移動をする。少し開けた場所があり地面に降り立つが辺りは暗く

何も見ることが出来ない。

「照らせ」

そう囁くように術を唱えると周りが明るくなり眩い光が頭上から注がれた。仕方なく光を出して進んで行くが何故か会話が途切れ気まずい雰囲気が流れる。なんで急に黙った!?と思っている翔が立ち止まる。

「なんか、聞こえねーか?」

「え?・・・これは」

翔に言われ耳を澄ませると前方から微かに剣同士が何度もぶつかり合う音が聞こえた。


「悠行くぞ!!」

「言われなくても!」


悠の言葉を皮切りに翔が駆けだす。翔の後を追い闇が深まる森林に覆い茂る草木をかき分け音のする方へ走り出した。

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