第34話
つい先ほど、魔王に斬りかかりに行った際、攻撃をよけきれず心臓を一突きされている為そのことを数えた回数だ。
その前に、二回ほど魔王を殺している。
「は!?そういえばあいつ心臓刺されても何も起きてねーって表情して普通に動き出したよな!?てか魔王を殺せるってお前やっぱり凄すぎだろ・・・」
先ほどの苛立ちが嘘の様に翔はいつもの調子を取り戻し興味が魔王へと向いている。
もしかしなくてもこれ魔王の事知らない感じか!・・・なんか機嫌も治ったし丁度いいや!
「魔王はまぁ、数えきれない程って言うか心臓再生する様になってるから二回…じゃない。三回ぐらい殺しても別に大丈夫なんだよ」
「・・・さすが魔王だな」
感心する所そこなんだ!
「そう?・・・あ。」
「どうした?」
特に気にもしていなかったが、これが普通の反応なんだろうと納得していると何かに気付いた悠が声を出す。それに対し翔が問いかけると胸ポケットを指差した
「確か理事長から受け取った通信機持ってきたんだよね?」
「ああ、胸ポケットに入れ・・・ん?」
翔も何かに気が付いたのか胸ポケットから通信機を取り出す。
「「・・・光ってる」」
電源が入っている間は仄かに光るはずの通信機が激しく光っていたのだ。悠も翔もそれに気が付き
「とりあえず点けてみれば?」
「そうだな」
未だ激しく光り続ける通信機を翳すと〈通信開始〉の文字と共に画面が浮きでる。翔も隣に腰を下ろし二人顔を見合わせ恐る恐るボタンを押すと点滅し始め画面一杯に顔色の悪い理事長が映し出された
≪ようやく繋がったよ!通信繋がらなくて驚いたんだよ!≫
聞きなれた声とは少し低めの声に驚きつつもホッとした表情を浮かべる理事長を不思議そうに見つめる
「なんで通信を?」
悠の問いかけに何故通信で呼びかけていたのかを思い出し話を続ける。
≪知らせておいた方がいいと思ったんだよ。ついでに、今のそっちの状況教えてね≫
「・・はい」
若干疲れ気味の情けない声で返事をする翔。さっきまでの元気はどこ行った!
「状況は、大体想像通りみたいだね。こっちの状況はさっき伝えたからよね」
先にこちらの情報を伝え、勿論部屋から出れなくなった事まで事細かに翔が説明をした後、現在の学園はこちらが張った結界と元々ある結界を強化し張り直したのが功を奏し内部に入り込んだ悪魔達を全て殲滅し学園内部は安全とのことだ。
男子校周辺の被害もほとんどなく今の所外も安全が確認されている。
しかし、張り直した結界は所々集まりすぎた悪魔たちによって穴が開きその度こちらが張った結界で弾き飛ばされているがいつまでその結界がもつか分からない。と複雑な心境で語っていた。
そりゃそうだろう。・・・扉は開いたままなんだから。
結界を使う場合、基本術者が近くにいることで強度と安定を得ることが出来る。力が強ければその場から離れることがあっても一定時間効力はあるものの、術者が近くにいる時の場合と比べるとどこまで持つかはその術者の力量にかかってくることになる。
私の計算だと、もって一ヶ月。それ以上は形を保つこともできずに消滅するだろうから理事長もそれを分かってるってことか。この感じだと時間のずれの事も知ってそうだな…
「結界が破られる前にジーンって悪魔を止めねーとな」
「そうだ、ね」
言葉に詰まりながらもなんとか返事を返す。
まだ分かってないんだろうな・・・ジーンを殺す気でいるって事。理事長は、どうなんだろう…
≪キミ達が生きてる事が分かって良かったよ!時空の狭間はとても危険だからね・・・昔僕も死にそうになったことがあるんだよ≫
やっぱり理事長も狭間に行ったことがあるんだ。魔界に詳しいのはきっとそれが関係してそうだな
話す速度が速くなり、話を急かす理事長に男子校側も対応に追われているのだろう。
≪そろそろ僕は戻らないといけない。そっちのことを僕がどうにかしてあげられないから任せるよ悠ちゃん!翔は・・・同じ部屋だからって過ち犯すのはダメだからね♪≫
早口でまくしたて最後に二コリと笑顔を浮かべると通話終了の文字が画面に表示された。
「はぁ!?あ、おい!」
混乱する翔は画面に向かい何故か言い訳をしている。一方冷めた目で画面を見つめ理事長・・・と心の中で呆れながらも冷静に混乱している翔の掌に収められた透明な玉に手を翳し画面の表示を消す。
「お、俺は過ったことなんてしねーぞ!」
「分かったから、とにかく落ち着けって・・」
それ私の前でいうことじゃないよな。
翔は焦りながらも顔色が赤くなったかと思えば青くなったりと、理事長の言葉に翻弄されているのかパニックに陥っている。
「はぁ・・・」
なんか、めんどくさ・・・
悠は翔を見ながらこれからの事を考えながら頭を抱えたのだった
「・・・翔ちゃん。普通ここで寝る?」
スヤスヤと気持ちよさそうに眠る翔に苛立ちを覚えつつ頬をつねるが反応はない。完全に熟睡してしまっている。
翔はパニックに陥り暫く意味の分からない言い訳ばかりしていたが突然ピタリと言葉が止まり何を思ったのかクローゼットを漁り出しバスブローブを手に取るとそのままお風呂場へと消えていった。
本当に予想外な行動しかしないんだから・・・
ものの10分ほどでお風呂場から出て来たかと思えばそのままベッドに横になり
‶俺はなにもやらねーからな!‶と捨て台詞を吐いて直ぐに眠りについてしまったのだ。あれから30分ほど経っただろうか。
寝やがった。って思ったけどどうでもいいからそろそろ動きたい。トイレ行きたいし・・・お風呂も入りたいんだけど!
だけど動けないんだよな!
翔の手は悠の上着を強く握り締めたまま掴んで離さない。試行錯誤したが、結局離すことは無くそのままの状態だ。つかなんで掴んでるんだよ。
途方に暮れる悠だがふと、考えがよぎった。
・・・上着脱げばどうにかなるんじゃね?なんで今まで思いつかなかったんだ!!
早速ブレザーを脱ぐ、がベストまで強く握られていたため仕方無くベストも脱ぐ。翔の握る力が強くなるが大して問題はないだろう。・・・翔ちゃんそれ握ってるの私が脱いだ上着だから。私じゃないから。
「案外どうにかなるもんだな・・・」
上着だけを翔ちのベッドに放置すると静かにお風呂場の扉を開けた。
扉に文章が浮き上がり、どうしようもなくとにかく部屋の捜索をした際クローゼットと全く同じ造りの扉があることに気付いた。
その扉は一番左奥にあり、中には簡易のキッチンと冷蔵庫が完備されていた、冷蔵庫の中は既に出来上がった料理が入っており元々この部屋に閉じ込める気だったのだと改めて思い知った。
また、入口を入ってすぐ右側にある扉を開けるとまた二つ扉が現れ右奥がトイレ左中央寄りの扉がお風呂だということも散策の際に知った。
脱衣所の中には小さな棚が二つあり、棚にはそれぞれ悠と翔の名前が刻まれている。
自らの名前が書かれた棚は二段あり、一段目を開けると下着類が二段目はタオル類が入っており一段目は直ぐに閉め、もう一度確認の為に開けるが中身はかわらない。
・・・なんでいつもの部屋に置いていったはずの下着類がここに?しかもこれ絶対に洗ったばっかりだ。知らないふりしておこう。うん。
考える事がよっぽど嫌になったのかはたまたそれ自体がめんどくさくなったのか、悠は考える事を放置し脱衣所横にある扉を開ける。シャワールームとバスタブが別になっておりバスタブにお湯を張る間シャワールームで体を洗う。勿論、シャンプーなども魔界に来る際に使っていたものだ。
本当に魔王は・・・と思っていると頭の中で声が響いた。・・・labyrinthだ
『貴方と一緒にいる子とても面白いわね』
「確かに面白いと思うけど・・・」
『素直になった方が身の為よ。・・・早く寝たほうがいいわ』
普通に会話をする様に声を出すがシャワーの音でかき消される。labyrinthの声ははっきりと頭の中で響いているがそう言った後声が聞こえなくなった。シャワールームを出るとバスタブにお湯が張ってあることを確認し静かに沈む。
何がしたかったんだろうlabyrinth…ぼーっとそんな事を考えながら暫くお湯に浸かっていると一瞬意識が飛び慌てて立ち上がりくらりと眩暈を覚えたが直ぐに治りお風呂場を後にした。
脱いだ制服に再び着替え髪の毛を拭きながら部屋に戻れば、呑気に寝ている翔が目に入る。
真ん中陣取ってるし・・・それに私の制服はそのまま握り締めてる訳ね。つかバスローブはだけてるんだけど
小さく溜息を付き、ベッドに近づく。翔を蹴飛ばし奥へと転がす。軽くはだけたバスローブを仕方なく直しながら翔をの顔を覗き込む。
「・・・起きる気配は、無しか」
結構強く転がしたんだけどな…眠り深すぎるだろ
理事長の心配するようなことは何も起こらないだろうな…むしろ私が見たくない物を見そうだ
「・・・寝よ」
いくら顔を覗き込んだところで強く転がしても起きなかった翔が起きる訳もないと早々に諦め静かにベッドに上がる。スプリングの音が鳴るが大して大きな音ではない為気に留めることなく並べられた枕の一つを置き横向きに寝転んだ。翔と悠の間には直ぐには近づけない程の空間が広がっている。
ま、ここまで転がってこないだろ。寝相も悪くないみたいだし
「ぐえ!?」
高を括ったのが間違えだったのだろうか・突然首に衝撃が走り、後ろから絞められた事が分かるくらい強い力でそのまま方向を無理やり変えられ抱き付かれた。首に痛みが走る。これ寝違えた時と同じ痛みなやつ!!
「しょうちゃ・・・近っ!」
首から背中、腰に掛けて手が回っている為動くことが出来ない。1センチもない翔との距離に驚いて声を上げるが当の本人は満足げに再び静かに寝息を立てる。マジか。
私は抱き枕じゃない!てか首!首地味に首が絞まってる!
引きはがそうとしても全く離れる気配はなく寧ろ逆効果の様で力がより一層強くなる。
「はぁ・・・」
深い深いため息を付き諦めたように目を閉じる。
もう無理だこれ。もうどうにでもなれ・・・
泣き声が聞こえる。目を開ければ目の前にはジーンと幼い頃の・・・私
『大丈夫?』
ジーンと初めに出会った頃のジーンの声、表情。覚えている。
ジーンと幼い頃の悠は手を繋ぎ暗闇の中へ消えていく。その様子を見つめながら思うのはこれからの事だ。
殺さなければいけない。そうまでしても止めなければ。私の役目でもあるのだから。本当は嫌だ・
だけど。悪魔と人間は、分かり合えることは出来ないのだから・・・
分かり合えるはずなど、ない。そう…
たとえ相手の心が分かるとしても、信じる絆が生まれたとしても
最終的には、その絆は全て無くなるのだから
「い・・・・おい!」
微かに聞こえる誰かの声に、意識が上に上がっていくような感覚を覚える。
だれか・・・よんで・・・
「・・・・なんで翔ちゃんの顔が目の前に」
「起きたな!起きたよな!?だったら今すぐ離せ!死ぬ!首が絞まってる!」
寝ぼけまなこで思考が上手く働かないが言われた通り少し離れ・・・翔ちゃんが一緒にくっついてきた。どういうこと?
段々と覚醒し始め、気づいた。
翔に抱き付いてると言うか首絞めてるな。・・・あまりにも呑気な翔ちゃんに眠りながらムカついたのか
「あー・・・ごめん」
「お前は俺を殺す気か!抱き着きやがって!」
「はぁ?・・・そもそも翔ちゃんがあんなことでいちいちパニックになったのが悪いんじゃ?挙句自分で抱き付いてきたくせにその態度と言葉はないと思うんだけど」
「しまった。・・・お前寝起き悪かったんだったな」
翔の首から手を離したが寝起きで不機嫌な為翔の言動に苛立ち言葉をまくし立てる。それを見て‶やってしまった‶と言う後悔の表情を浮かべる翔は静かに言葉に出す。
翔ちゃんは小さい声で言ったかもしれないけど完全に聞こえてるからなそれ!
「何がしまったって?え?」
「なんでもねーよ!俺は着替えてくるからお前も早く着替えろよ!」
まずいと思ったのだろう。翔はそう言い残し逃げるようにお風呂場へと消えて行った。
・・・眠い。
残された悠はベッドから起き上がりまだ覚醒しきれていないのかゆらゆらと揺れている。
なんだか変な夢を見ったような気がする・・・それにすごく嫌な夢だった気もする
「イライラする・・・」
このイライラの原因はきっと・・・
「・・・翔ちゃん五月蠅そうだし着替えないと。制服の皺が凄い…」
そう思いながら先ほどの翔のやり取りを思い出し自らの状況に薄く笑いぐっと背伸びをする。時計は9時近くを指している。
てか顔とか洗いたいんだけど、翔ちゃん先にお風呂場にこもられても困る・・・
眠い目を擦りながらベッドを下りてクローゼットを開けた。
本当にまともな服ないな・・・とクローぜっどの中を漁る。どれもこれもドレスしかなくうんざりしていると一番まともそうな服を見つけ手に取るとその場で着替え始めた。
「おい。さすがに着替え終わっただろ」
翔の声が聞こえたのは既に着替え終わり、聖杯の術で髪の毛をセットし何故かキッチンに合った歯ブラシのセットを使い全ての準備が終わって呑気にキッチンで入れた紅茶を飲んでいた。30分以上は等に立ち時計は既に9時半過ぎを指している。
キッチンで歯を磨くのには抵抗はあったけど仕方なくそこで磨いたよね。まぁ、その後ちゃんと綺麗に掃除までしたから問題ないと思う。多分!
「大分前に終わってるよ」
と軽く返せばその言葉を聞くなり扉を荒々しく開けこちらへ迫りくる勢いでやって来た。
「お前!」
滅茶苦茶怒ってるな・・・そこまで怒らなくてもいいのに。とカーテンを開けガラス張りの窓の向こう側にあるテラスをボーッと眺めガラス張りの窓の近くにあった一人掛けのソファーの一つに座りながら紅茶を啜る。
テラスあったのちょっと前に知ったばっかりだよ!もう何なんだろうこの部屋隠し通路とか有りそう。てか、魔王ってこだわり過ぎなんだよな・・・
内装もそうだけど机と椅子だった見るからに高そうだし。キッチンの中にもシンプルな机は置いてあったけどこれどこで手に入れて来たのか分からないのが怖いんだけど…
ガラス張りの窓の傍に黒色と木目が特徴的な大きめのラウンドテーブルと呼ばれる円卓の机が置かれ、曲線を描く猫脚には名は分からないが草木全体的に彫られている。
その机の両側にはセティと呼ばれる本来二人用に作られることが多い椅子を一人用に作り替えたソファーとが置いてある。
木材の色を生かした椅子全体に透かしと彫りが入り、背もたれ部分はより一層力が入っており布部分と蔦の透かし彫りが前面に入っており美しさが見て取れる。肘置きはアームが入り置きやすく両側にはソファ特有の柔らかな布で覆われている。
座る部分にも同じ生地が使われており、脚は机と同じ猫脚になっている。生地はワインレッド。シンプルな刺繍が所々に散りばめられている。
コーヒー好きの魔王が紅茶を用意するなんて可笑しいな。ま、この白桃烏龍美味しいからいいんだけど。
呑気な悠んい対し険しい表情を浮かべ今にも声を荒げそうな程激怒していた翔だがこちらの姿を見るなり表情が困惑へと一変する。
「なに?」
凄い困った顔してるな…
「その恰好・・・どうしたんだ?」
何事もないように返事をすると只々困惑した表情で上から下まで見つめる。怒りの感情は何処かへ行ってしまったようだ。
まぁ、そうだよね・・・こんな格好してる訳だし。と悠自身も着ている服を確認し苦笑する。
「この格好…ね。昨日魔王が作ったんだと思う。」
「作ったってあいつが!?・・・そもそもどうやってこの部屋に持ち込こんだんだよ」
「このクローゼットは魔王の力で作られてるからクローゼットと別の場所くらい簡単に繋げられるよ。私達人間にはできないけど。」
「・・・マジかよ」
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