第33話

任務で悪魔と戦い殺すことは合ったとしても、人型の悪魔と戦ったことは無いのだろう。形が小さくとも、人間から生み出されたのであっても結局それは生きているのだ。

戦っているということは、討伐しているも同じことだ。つまり、殺しているのと変わらない。それに特に翔は気づいていなかったのだ。

有稀も翔に近い考えだろうが新と伶の表情の強張り方は、知ってはいいたが改めて言われた時になる表情は複雑だろう。

ジーンと戦うって事自体頭になかったんだろうな…新と伶はある程度覚悟はしてたみたいだけど。

私は、自分自身を守るのに必死だった。ただ、強くなりたいだけの為に戦った。戦って戦って・・・どれだけの悪魔と戦ったのか分からない。どれだけ殺したのか、覚えていない

翔ちゃん達がやってる任務は浄化に近いのかもしれない。殺す感覚が無いのも無理はないと思う。あの小さな悪魔には罪悪感は感じないだろうから。この言葉に慣れてないのも仕方ない。


むしろ慣れてたらそれはそれで嫌だな!


殺す意味を知ってるからどうにもならない感情になるのは分かるけど…案外どうにかしそうだしな!

「そうなったら、全力で殺す気で頑張れ」

「殺す気って・・・怖い事言うなよ!」

「そうだよぉ悠ちゃん!」

「良い言葉ではないよね~」

「・・・」

悠の言葉に翔達はそれぞれ嫌悪の表情で言葉を投げかける。伶だけは何も言葉を発することなくやはり何を考えているのか分からない人物だ

「いつもの任務だとは違うよ。・・・これは本当の殺し合い。無理だったら戦わずに逃げてもいいよ。私一人で相手をするだけだから。だけど、実際翔ちゃん達だって殺してるよね。悪魔という名の人間を。人間から生み出された悪魔を。」

その言葉にそれぞれ苦い表情を浮かべる。

出来る事なら殺すなんてことしたくないのはこっちも同じ。だけどもし戦わなければならないのなら私は戦う。

「ま、あくまでも最後の手段だから!殺したくはないしね!」

その言葉に翔は小さく息を吐き、有稀は胸に手を当てふぅと小さな声とともに息を吐いた。新はさほど気にしていいのか表情のみ変化しただけだ、伶に至ってはやや目じりが下がった程度の変化しか分からないが、各々ホッとした表情を浮かべている。

そう。あくまでも最後の手段・・・で合って欲しい。

「それにしても・・・魔王」

「・・・なんだその顔は」

後ろで手を組みくるりと回り魔王の顔を覗き込む。いつもあまり笑わない悠が何かを企んでいる笑顔で覗き込んでいる為訝し気にこちらを見る。

「・・・部屋勿論貸してくれるよね?」

「はぁ…なんで俺が。悠の部屋なら別だがな」

「私の部屋だけじゃなくて翔ちゃん達の部屋も必要でしょ。それに、魔王私に負けたよね?何でも言うこと聞くって言ってたなかった?」

その間に聖杯召喚をし武器をチラつかせながら魔王に迫る。恐喝しているようにしか見えないが、-むしろ恐喝以外の何に見えるのだろうかー切っ先は急所である心臓に向いている。

「・・・分かった。貸せばいいんだろう!」

やはり押しに弱く何よりも悠に逆らえないであろう魔王は許可を出す。・・・今の話し大分昔の話しなんだけどね

「やったー」

と棒読みに後ろでその光景を見ていた翔は頭を抱え有稀と新と伶は顔を見合わせそれぞれ笑顔から苦笑いまで様々な表情をしているが悠は気づいてはいない。

「それと、その他諸々全部協力してくれるよね?」

「分かった。分かったから早くそれを仕舞え。何でも脅せばいいと思っているだろう!」

魔王は二度悠に心臓を刺され‶殺されている。‶やっぱりこれは怖いんだ。だよね!

魔王が反発するのは目に見えて分かってたから直ぐに聖杯召喚したよね。魔王の心臓あたりをずっとチクチク地味に刺してたのが良かったのか。効果抜群だな。

「じゃ、よろしく」

「あ・・・あぁ」

「あ、それから今後の事だけど・・・」

其のまま今後ジーンを説得又は倒す件等で二時間ほど話しを終える。

魔王が座っていた場所は王座と呼ばれており普段は赤いカーテンがひかれ来客側からは直に表情が見えないようになっているのだが今回はカーテンは無く纏められていた。悠が来るときは必ずこの状態なのだ。

魔王がいる大広間は謁見の間と呼ばれており、通常来客などがある場合に対応する部屋だ。他にもう一つ頻繁に使われる部屋がある。

普段カーテンで仕切られている謁見の間の王座側をそのまま移した様な部屋になっており主に会議が行われる。その場所にもカーテンは会ったのだが、とある理由から撤去された。・・・想像はつくだろう。

また、何故時間が分かるのか。それは、謁見の間の中央床に大きな時計が埋め込まれているからだ。魔王の城は瘴気さえなければ人間が快適に暮らせるような仕組みが多くある。時計もその一つだ。

一定間隔で廊下にまで時計があった時は流石に部屋だけにしてくれって頼んだのが懐かしいよ…チクタクチクタク聞こえてくるからうるさかったんだよな…

「なんか疲れたな・・・」

話しを終えると待ちつかれた翔達がぐったりとした様子でしかし各々自由にしていたようでバラバラな方向から声が聞こえる。翔は魔王と悠の話しに参加していた為すぐ隣にいる。流石に待ちつかれるよな…凄い自由に部屋の中見て回ってたりしてたけど

「そうだねぇ~」

「それにしてもなんだろうね~・・・・魔王ってやつ」

「・・・案外いいやつ」

「ただたんに悠が脅しただけだろ・・・」

「何か言った?」

「別に何も言ってねーよ!」

扉へ向かいながら好き勝手話す翔達に話しかければ悠の悪口を言っているのがバレたと思ったのか翔が声を荒げる。

「ふーん・・・」

全部聞こえてますけどね!!・・・どうやらあのことはバレていないみたいだ。良かった。と静かに息を吐く。話の途中翔に魔王が有稀達に‶しばらく時間が掛かる‶と伝言を無理やり頼んだ隙に話したことだ。バレていない確証はあったけど、本当に大丈夫そう。とその時の会話を思い出す。

魔王と私の約束、本当の意味での魔王と私の約束…

「もし・・・もし私があいつと戦わないといけなくなったら、あいつらをここに転送してくれないか?」

「・・・本当にいいのか?あいつらは悠を信用してるみたいだが?」

「だからこそだよ。・・・あいつらにはこの任務は任せられない。任せたくない」

魔王だって本当は分かってるくせに。とは口に出さない。出さずとも分かっているからだ。

「・・・どうなっても知らないぞ」

見たこのない表情で語る魔王に真剣な口調で言葉を返す。

「だから魔王に頼んでる。それに私は‶魔王‶を二度も殺した人間だけど?」

何故、魔界の中で魔王が強いと言われているのか。元々、魔王は通称名であり本来の位ではない。本来の位は皇帝。魔界のどの地位にも属すことのない特別な存在だ。

勿論、力や悪魔を統括する力を持っているのも理由だが、それだけの為の称号ではない。皇帝の称号に相応しいが故与えられ、魔王と呼ばれているのだ。

帝王の称号を手にする悪魔には数えきれないほどの命を宿している。心臓自体は一つしかないがその心臓は幾度貫かれて粉々に破壊されようとも元の形を取り戻し何事もなかったかのように動き出す。それ故、死ぬことは無い。

まぁ、私に会う前まで魔王は一回も死なずに生き続けてたからそれくらい強いって事。私に会うまでは命を落としたことは無かったんだよな・・・ようするに、私が最初に殺した人間って事だな!

「・・・無理はするな」

「無理しないと、始末できないんだけど」

「始末か。はぁ・・・お前との約束必ず守ろう。皇帝の称号と魔王の通称名に懸けてな。」

「はいはい・・・」

内密に話をしたのち翔がこちらへ戻り再び話し合いが始まった。で、終わったら皆疲れ切ってたんだよね…だけど自由そうに過ごしてもいたから何とも言えない気分になったわ。

「おい!貴様らはこの城の事を何も知らないだろう!勝手にどこに行くつもりだ!」

扉に向かう翔達に声を荒げ、かなり怒りながら近づいていく

「はぁ?なんなんだあいつ」

「呼ばれてるよぉ?」

「・・・待っていればいい」

「それもそうだね~」

扉に手を掛けていた翔は開けるのを止め怪訝な表情で魔王を睨み付ける。それに対しやや気にしていない有稀に伶がぼそりと呟いた言葉に直ぐに新が返事を返す。その返事により皆も同じ様に思ったのか扉の前で迫りくる魔王を待っている。

・・・魔王私に八つ当たりできないからって翔ちゃん達に八つ当たりしてるよ。何年、じゃなかった。もうどれだけ生きてると思ってるんだか。大人を通り越してもうなんか教科書に載る様な人物じゃなくて悪魔になってるんだけど、完全に精神年齢が追い付いてない気がするわ…

こう言うのが憎めない所ではあるんだけど。

‶こいつをなんとかしろ‶と訴えてくる翔に流石に同情した悠も魔王の後を追う。そうして悠が機嫌を取る形で魔王自ら城の案内が始まった。

魔王の城は六階建てとなっている。一回部分は丸々玄関として使われ庭へ続く通路等があり、通路等全てガラス張りになっているが見えないようガラスに細工が施してある。

玄関の中央には階段があり四方へと延びる通路がある。

二階部分は魔王の側近の者達が下し主従関係になった悪魔が住む部屋となっており、全て大部屋で最大6の悪魔が寝泊まりすることが出来る。

三階へ続く階段は一番右端と左端にそれぞれあり両端にある階段が唯一上へ行ける手段だ。

三階は食堂と大浴場で全て埋まっている。食堂と言うよりは晩餐で使われるよりも長いテーブルがあり椅子に座り食事を取る。

悪魔は食事を取らずとも生きる事は出来るが現魔王が人間の食事が気に入り取り入れた。大浴場も同じ理由だが、思った以上に評価が良く悪魔達お気に入りの場所になっている。

四階に続く階段は三階同様両端にあるのだが準中級以上の悪魔の許可が無ければ上がることが出来ないよう悪魔が持つ力を施してある。

今回は魔王がいるから関係なく上に上がれるんだけどね

四階は準中級悪魔と上級悪魔が使う部屋があり、全て一人部屋となっており風呂付だ。

五階へ行までは全て端にある階段で行くようになって居るが、魔王の許可なく上へあがる事は出来ない様に施されている。五階は主に来客などがあった際の接待、宿泊に使われる。

最上階である六階へは中央にある長い階段のみ行くことが出来る。五階に比べかなり厳重になっており魔王の許可があったとしても敵意があると判断されれば容赦なく弾き飛ばされるようになっている。

六階は謁見の間の他に魔王の寝室、書斎、書庫、会議室がある。

先ほど悠達がいた場所でもある。六階より上は学園で言う屋上があり小さな庭があるが魔王以外立ち入りが禁じられている場所でもある。

今回、五階にある接待用の客室に有稀、新、怜が連れていかれた。城内は広くぐるりと一周するだけで10分はかかる程だ。

しかも私と翔ちゃんだけ放置されたし・・・

「この部屋だ。好きに使え」

魔王に案内された部屋は悠がいつも使っている小さな一人用の角部屋ではなく階段を半周した辺りにある大きな部屋だ。

何だこの部屋…無駄に大きすぎるだろ!!部屋の中に部屋があるんだけど!?

扉を開けると直ぐ二つの扉が現れる。左側にある部屋には小さなベッドが二つあり、正面の扉を開けるとそちらがメインの部屋の様で悠達が全員並んでも余るような大きなベッドが一つ。何よりも、内装家具といった物全てが白で統一され全てアンティーク調になっていることだ。メインであろう部屋を入ってすぐ右側にトイレやお風呂専用の部屋がありベッドは左中央にある。テーブルと椅子も用意されクローゼットまである。

他にも窓が全てガラス張り等色々あるのだが魔王に聞こうにも一言言い残し部屋から出て行ってしまい自分の部屋がどこなのか聞く暇もなかったのだ。私に説明もせずにさっさと帰りやがったよ!

「悠」

「なに?」

内心魔王に対し腹を立てていると翔が思い出したかのように言葉を発したがその内容は

「お前もこの部屋らしいぞ?」

余りにも突拍子もない言葉だった。

・・・は?

「・・あの魔王!!」

その後直ぐに部屋を飛び出し魔王に斬りかかったのは言うまでもない。勿論、別々の部屋を用意されることになった。翔と悠の部屋は同じ階の別の部屋となり仕方なく魔王に案内され今度こそ魔王が逃げる前に部屋を確認した。

殆ど部屋の内装変わってなかったけど。ベッドルームが無くなってメインの部屋だけになってたのと白と黒の落ち着いた色合いの部屋になっていたことくらいで…翔は先に部屋に案内されていたが悠の部屋が気になり付いて部屋の中まで入っていた。

魔王は其れを見届けるなり疲れた様子で部屋を出て行った。

までは良かったんだけどね…!

「・・・なんで外出れない訳!?これじゃあ翔ちゃんと一緒の部屋になるんですけど!」

「知るか!魔王に言ってくれ!」

翔がそろそろ部屋から出ようと扉を開くき一歩足を踏み出そうとした瞬間勝手に扉が閉まり何をやっても開かなくなってしまったのだ。

本当に何考えてるんだよ!しかもこの部屋、何か知らないけど術式が発動してる!!術式がある感じはしなかったのにな!

発動すると部屋のあちこちからバラバラになった文字の一部が扉へと集まり言葉になっていく。最後の文字が集まり、文章が浮き出る。

『暫くこの部屋にいることだな。この効果はお前らが外に出る意思が無くなるまで続くようになっている。大人しくしておけ』

本当に!あの魔王!

魔界と人間界の文字は異なるが、読めるようにあえて人間が使う文字で書かれている。それが余計にムカつくんだよ!翔ちゃんと閉じ込めるつもりだったって事だから…私は読めるからな。魔王に仕込まれたせいで・・・

二人して溜息を付き途方に暮れる。

まぁこの術式、流石魔王って感じだけど・・・強力な術式掛けやがって。この術悪魔特有の術式か。外に出る意思が無くなるまで効果が続くって、また無謀な事するよ。こっちにどれだけ力を使ったんだか…

とにかく、今日はもう諦めるしかないな

朝狭間に入り、魔界に辿り着き魔王に会った時は既に時計は昼過ぎを示していた。魔王と話し合いが終わった頃には5時近くを示しておりこの部屋に閉じ込められてから一時間が過ぎようとしている。部屋にある時計は午後の6時過ぎを示している。

まさかとは思ってたけど・・・魔界特有の時間速度が何故か狭間にまで影響してる。狭間は一定時間を維持し続けるはずなのに。

深い深い溜息を付きベッドに座りそのまま仰向けになる。・・・このベッド凄い寝心地いいのが余計ムカつくな。ここに来るまでに少し力を使い過ぎたからどの道この術式を解くには時間が掛かるしいっそ回復してからでもいい気もしてきた・・・とつい口から言葉が零れる。

「朝までは流石に無理だな・・・」

「お前と明日まで同じ・・・おい。脚閉じろよ!」

すぐ目の前に来た翔が右手で頭を押さえ腹を立てた表情で無理やり足を閉じさせる。

「勝手に触らないで欲しいんだけど!そもそも何でそんなに腹立ててる訳?」

怒る理由に見当がつかずこちらも翔の手を払いのけ体を起こしながら喧嘩腰に話しかけるとやはりまだ怒ってはいるものの少し落ち着きを取り戻す。

「悠、お前・・・魔王と仲いいんだな」

「え?・・・まぁ、色々あったしね。私は魔王を二回殺してるから・・あ、三回だった」


ついさっき回数が増えたんだった。

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