第32話
あの皆さん。ここに来る前人の話聞いてなかったのかな?聞いてなかったよねその反応は!一瞬何言ってるの変わらなかったわ!
「あー・・・えっと、ここ魔界じゃないよ」
『は?』
翔達の言葉が重なり、悠は深く溜息を付く。
「説明聞いてなかったんだな・・・魔界と私たちが住む所の空間の狭間だよ。説明したんだけどな・・・」
こいつら絶対聞いてなかったな…あの真剣な眼差しも嘘だったのか。と少し項垂れる
「そう言うことか。ここが狭間だからこんなにも瘴気があるんだな」
「その通りだよ翔ちゃん!よくできました!私説明したけどね!!」
「おい馬鹿にしてんの…説明された記憶がねーな」
狭間の空間で何とも言えない空気感を生み出す彼らはある意味天才なのだろう。それどころではなく翔にやけくそに返事を返すが悠はかなり焦りを感じている。
こんな呑気なことを言っている場合じゃなかったんだった
「説明聞いてなかったみたいだし狭間についても良く分かってないみたいだから手短に言うと、狭間は普通の人間が入れる場所でもないしましてやとどまれる場所でも無い訳。跡形もなく消えるよ。私達は聖杯を持ってるから耐えられるけどそれも時間の問題。」
つかこれ最初に説明しておけばよかったかな・・・どうせ聞いてなかったから説明しても覚えてないか!と開き直る悠に対し危機感を感じていないのか悠長に質問を返す
「だったらぁ~何で前呼び出した魔界の門?を呼び出さなかったのぉ?」
えっと・・・それも説明したよ?可笑しいな!私説明したと思うんだけど!こいつら本当に何にも聞いてなかったな!!
仕方ないと思いつつ手短に答える。
「私もそうしたかったけどあの扉普通は開いたら駄目なやつだから。むしろ開いた方が怖い。開く時って大体何か起こってる時だからー…」
十中八九ジーンのせいだと思うけど。
「魔界で何かが起きた・・・・?」
「見に行ってみないと分からないけどな!」
軽くそう言えば翔の呟きに事態がようやく把握できたのか皆表情が硬くなると同時に顔色も少し青白くなっている。・・・顔色は間違いなく瘴気の影響だろうからとりあえず
「求めるは加護なり。」
そう唱えれば翔達を光のベールが包み込む。応急処置にしかならないんだけどね…
「とりあえずは一定時間瘴気を防げるようにしといたけど翔ちゃん達が持ちそうにないみたいだから・・・照らせ。あ、ここらへんか」
そう言いながらも短く呪文を唱えると歪んだ空間にある壁のような場所が光り手を入れる。スライムをつぶしたようなゲル材を踏んでしまったような感覚だ。本当に気持ち悪いなこの感覚…
「・・・・ここの空間に穴なんてあけたのいつだっけな」
そう言いながら手を入れた場所から穴が広がり人が通れる通れるくらいまでの大きさになると手を引っ込める
「いい?嫌でも何でもいいから手を繋いで。早く!」
『はい!』
初めて聞く悠の大きな声に驚いたのか反射的に翔達が手を繋ぐ。
皆は気づいていないかもしれないけど既に体の浸食が始まっている。ここは特にこうなりやすい所だから・・・もっとちゃんと説明ってそもそも聞いてなかったんだったな!
瘴気が浸食を始めると顔色が悪くなり貧血のような表情が現れる。そして次第に体の重みが増し立っていることが出来なくなりやがてこの空間に飲み込まれる。そうしてここに来た者達は消えていく。
翔ちゃん達は思ったよりも早く二段階に突入してるから…
「じゃあ行くよ!」
穴に飛び込むのではなくやはり引きずり吸収されるような、そんな感覚と共に悠を始めに穴の中へと一気に入って行く。穴を抜ける時はまるで高速の乗り物に乗った様な酔いと上下左右が混ざり合い十分が誰なのかさえ分からなくなる。
穴の中を抜け、地面へと降り立つ。が、地面に着地するはずが地上に穴をあけてしまったせいか地面は遠い。翔達は何も言わず繋いでいた手を離す。
久しぶりに開けたから地面より少し高めの所に空けちゃったよ!まぁ、軽々ジャンプしてるし全く問題ないけどな!!
「・・・今度こそ着いたのか?」
「そうだよ・・・ここが魔界。」
全員が地に足を付け、翔の言葉に同意すると皆各々周りを見渡し観察し始める。
「・・・色々と凄いね~」
「・・・」
「気持ち悪ぃ~・・・」
翔達の表情は硬く驚きに満ち、顔色が未だに悪い。瘴気にやられたままなのかはたまた魔界が想像と違っていたからなのかは定かではないが…皆ドンマイ!!てかさっきと同じようなこと言ってるよ!・・・まぁ、無理もないか。
瘴気とは、悪魔が発する気体だ。ドライアイスの冷気に似ている。黒と紫の色が幾度にも混ざり合い折り重なって見える瘴気は悪魔の数や位なので決まってくる。
ここは、いわば魔の巣窟。それはまるで霧のようにこの世界を覆っている。それが当たり前だ。
回りの様子を伺う翔達を見ながら悠は懐かしさを覚える。
それにしても、魔界は変わらない。
ここ魔界は、全てが瘴気で覆われた場所。意思を持たない悪魔はここには存在しない。
なぜなら弱い悪魔は瘴気に飲み込まれてしまうからだ。もしくは力の強い悪魔の下で命令を聞いているか。
力の弱い悪魔、下級以下の悪魔達が力の強い悪魔に下る事により主従関係が結ばれる。関係が結ばれることにより下級以下の悪魔達は周りに漂う瘴気を吸収することが出来るようになる。
ある程度の力を付けることは可能だが容量を越してしまえば、瘴気に飲み込まれてしまう場合もあるのだ。
基本悪魔と話すことなく心の中で会話が出来る悠だが、何故か魔界では人間と同じ様に言葉を話し人間と似た建物で生活をしている。
なんでか分からなくて魔王に聞いたけど答えてくれなかったけど。
建物も部屋の中も全部黒。あれは気が可笑しくなるからやめて欲しい!他にも突っ込み要素があるけど、ここ魔界だから。
時空の狭間と同じで瘴気に耐えられずに聖杯の力を持ってない人は一瞬で吸収されちゃうけど私達みたいに聖杯持っている人たちは平気なんだよ。耐性ってのがあるんだと思ってる。ただ、ずっと居られる訳じゃないけどね!最終的には瘴気に耐えられなくなって死ぬ・・・そう死ぬはずなんだよ本当は。
なのに、どうして私は・・・まぁそのおかげで魔王に好かれたんだけど。
懐かしさを感じていた悠だが、何かを思い出し無意識に両手を握り締め思いだしたかのように皆に声をかけた
「あー・・・翔ちゃん達そのまま動かないで」
『・・・』
悠の言葉に皆力なく頷くだけだ。ただでさえ時空の狭間にいた時間が長くなってしまい瘴気が溜まっていたところに魔界の瘴気に触れ浸食されたのが原因だろうか。・・・もしくはめんどくさいか放置しすぎて飽きたか、だな!
と考えながら翔達に手を翳す。
「恩恵を。加護を・・・絶望がその身を覆う限り続くだろう。浸食は防がれた。光成領域ーひかりなるりょういきー」
ふわりふわりと、白い光が舞い降り全身に染み渡るようだ。やがてその光は個々に合わせた結晶の数や形となり各部位に付着した。翔は手の甲に大きな結晶が一つ、有稀は右の足首にアンクレットの様に無数の結晶が。伶はうなじに小さく二つ、新は右肩に星の様な形で張り付いている。
「お、軽くなった!」
「ほんとだぁ!」
「なんとか浸食は免れたね~」
「・・・ふぅ」
結晶が付着して直ぐ翔達はいつも通りの元気さを取り戻し、その場だけにぎやかな声で包まれる。
・・・・なんか元気になったら急にうるさくなった気がする。てか、こんなにテンション高かったっけ?・・・気にしたらダメか
「さて。元に戻ったみたいだし、行こうか」
「何処にだよ」
翔の言葉に新や有稀、伶も続けてうなずく。・・・あ、これ説明してなかったわ
「魔王の所」
「はぁぁぁ!?お前何考えてんだ!!」
「流石悠ちゃんだね~」
「そんなぁ簡単にぃ言うことじゃないよぉ!」
「・・・命知らずとはこの事か」
翔を筆頭に口々に悠に攻め立てる。流石ってなんだ流石って!!散々な言われ様だな!!魔王と普通に話してるの実際に見てたのに信じてなかったのかこいつら!まぁ、伊達に魔王って言われてる訳じゃないと分かって安心した
「ここ既に魔王が住んでるところの敷地内なんだけどね」
その言葉に翔達の言葉がピタリと止む。視界にもだいぶ慣れたのだろう。悠が見る先には魔王が住む城が見え一同驚愕の表情でこちらを見つめる。怜は除くが。
今いるの場所ってもう既に魔王の城の内部にある庭なんだよね。気づいてなかったみたいだけど
そう思いながら迷うことなく歩き始める悠に翔達は慌てて後を追う。
魔王城は魔界の中心部分に存在している為、到底歩いていける距離ではなくまた仮に到着したとしても堂々と門から入れば間違いなくその前にいる門番に襲われるる、なにより敷地が広いため歩いて城まで行くのは自殺行為だ。
そのままたどり着けず同じ場所を回り続けなければならない場合もある。
だから城内の一番悪魔の出入りが無い庭に穴開けたんだけどね。
歩き始めるとどれだけ巨大な建物かが見て取れる。・・・相変わらずこの城だけはモノクロなんだよな
主に白を基調とし黒を指し色として作られた古城のような巨大な建物。その建物を囲むように巨大な黒い壁が聳え立っている。
魔王が住む城のみは、何故かアンティーク調でかなり装飾もされており学園にどことなく雰囲気が似ている。
庭と白を繋ぐ廊下の窓を開けはいる姿はまるで侵入者の様だ。否、確かに侵入者であるには間違いないだろう。四方に伸びる廊下を曲がり歩いては曲がり、大きな階段の先には黒い両開きの大きな門の様な扉が聳え立つ。
躊躇することなくその扉を開けると真っ赤な絨毯の先にある椅子に腰かける一人の男の姿がある。
「よく来たな!・・・後ろにそれはなんだ?」
地の底から這い上がってくる様な圧迫感のある声に、いつも通りだと安心感を覚える。
瞳の色はまるで血の様なレッドスピネル。髪色は黒髪に前髪を上げつつも真ん中部分で分け、全体を捻じりながら螺旋状に巻いたような立体感のあるパーマをかけた様な髪型だ。
さらに片方のみ肩につくほどの長さがあり王冠に透かしを入れ深紅の魔力を宿した結晶をはめ込み巻き付くように白と黒の縦縞模様が入ったヘアクリップで一まとめにしている。
悠を見る時の目は優しさを纏っているが翔達を見るや否や絶対零度の表情で見据える。これが、この世界を治める王、通称魔王である。
相変わらず男には容赦がないなこいつ・・・
瞳と同じ色のピンホールの付いたシンプルなドレスシャツにブラウンのジレ、その上に雑に光沢のある短いジャケットを羽織り、ジャケットと同様の素材で作られたであろう黒色のズボンを穿いているが黒色のマントに全身が置覆われており足元はよく見ることが出来ない。
なんか魔王って感じしないんだよな…
「ま、まぁまぁ・・・なんで私たちが来たのか分かるよな?」
椅子から立ち上がり翔達を見据える魔王を宥めると言葉を続ける。
「・・・ああ、悪魔共が騒いでいるからな。・・・・そちらの被害は大きいか?」
「さぁ?・・・・学園が死海になったとでも言えば分かるんじゃない。結界張っておいたけど」
「・・・そうか」
先ほどの魔王を見るこちらの目が、がらりと変わる。これはいわば交渉なのだと部屋全体に張り詰めた空気が伝わる。
「この現状、誰がやってるか知ってるよね?」
「・・・知らないと言ったら?」
「知らないとは言わせない」
そのまま暫く張り詰めた空気の中探り合いが続く。その間翔達はその様子を固唾を飲んで見守る、否。自分たちが出る事は出来ないと感じ取っているのか動くこともせず時が流れるのを待っている。
「・・・・はぁ~」
そして魔王が痺れを切らし深い溜息を付いた。悠との探り合いに根負けしたのだ。・・・なんだかんだ言って私には甘いからな
「お前が思っている通りの奴、ジーンだ。話を聞く耳すら持っていないようだからな」
ジーンにと一度接触を図ったもの、無駄だったと言わんばかりに呆れた表情を浮かべる。というか私も魔王も本気じゃないからな。いつものやり取りをしてるだけなんだけどね
けど、やっぱりジーンが…
「・・・今更、どうして」
「俺にも知らん・・・おい」
言葉を零す魔王は不機嫌そうにそう答えると立ち上がりマントを捌きながらこちらへと近づいてくる
「なに?」
「・・・仮想世界、通称魔界へようこそ。歓迎する。神乃宮悠。」
目の前で立ち止まった魔王はそう言い、片方の足を下げ右手を左の胸元に当てお辞儀をする。
来た。来たよ!なんでか知らないけど毎回毎回魔界に来るたびにこんなことして来るけど、こいつ気にくわないやつでもこうやって歓迎っぽいこと言ってるから内心何考えてるのか分かったもんじゃない。分かるけど!普通に歓迎されてるのは分かるんだけど!・・・この歓迎の仕方は正直辞めて欲しい
何回言っても無駄だったけどね・・・
「ありがとうございます。魔王・・・って言えばいいか?」
「相変わらずだな悠・・・」
遠い目をしたままそう返事をすれば呆れ、だが嬉しそうな表情で真っ直ぐに瞳を見る。
「あ・・・魔王」
ふと思い出したように悠が話しかければ魔王もまたそれが当然の様に‶なんだ‶と、返事を返す。
「ちょっと後ろでよく分からないって顔してるのに説明したいんだけど・・・あれ絶対状況について行けてないやつ」
「大体の奴らがそうだろう。説明は悠に任せる。面倒な事になりそうだからな」
「分かってたよ・・・本当めんどくさがり屋だよな魔王は。」
後ろをチラリと見れば魔王もつられるように一瞬見た後、翔を一瞬視界に入れるが興味が無いように悠を見つめる。・・・マジで男に興味が無さすぎて話し相手が居るかどうか心配になるレベルなんだよな。
小さく溜息を付き魔王を放置し、後ろを向くと少し離れた場所からやはり何が起きているのか分かっていない困惑した表情を浮かべる翔達の元へ行く。
もっと色々先に説明したかったんだけどなんせ急すぎたからな…時間の経過が違うことしか教科書には書かれてなかったから多分知らないんだよな
「魔界の事はまぁ、教科書に載ってる通り瘴気で満ちている。現に澱んでるの分かるよな。・・・それと魔界はどの界よりも一番時間が進むのが早いんだよ。つまり、多分帰る頃には三ヶ月は経ってるよ」
「・・・はぁぁぁ!?」
真っ先の声を荒げたのは翔だ。それに続くようにそれぞれが大きな声を出す。何言ってるか分からないしなによりうるさいな…!
「魔界はそういう所だから。一日は人間界と同じだけど、魔界に一ヶ月いると人間界では一年経つことになる訳。一週間いると三ヶ月経つことになるから・・・確かこっちに来る時は10月半ばだったから帰る頃には1月の終わりくらいになるよ。まぁ、年々進む時間が少しずつ早くなってるけど。」
絶望に暮れる翔達を軽く無視し、其のまま話を続ける
「とにかく!今は悪魔共をどうにかすることを考えないと。ジーンと戦うことになるかもしれないから」
その言葉を聞いた直後翔達の表情が強張り張り詰めた空気が流れる。
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