第31話

「魔界に行くとは言っても直ぐに行ける訳じゃないのは分かるよね。もちろん僕はすぐにでも行ってほしいよ。でも何の準備もせずに送り出すことは流石に出来ないからね。」

理事長の机はプレジデントデスクーエグゼクティブテーブルや社長机の事ーにライティングビューローを組み合わせたアンティーク調の机となっており白を基調とし白茶ーしらちゃーと伽羅色が外側、うちが粟の一部地使われている。

幅も大きいが引き出しも多くある。

一段目には三つ引き出しがあり真ん中が広く左右が狭い仕様だ。そして左側に三つさらに引き出しがあり、右側下には縦に長い横開きの少し大きめの金庫が入るほどの収納がある。

黒い頑丈な金庫からある物を取り出し金庫の鍵を閉める音がし、横開きの扉を閉める音がすぐに聞こえるとそれを持って戻ってテーブル横で止まり手に持つそれを翔に手渡す。

見たことのないそれに興味津々に悠が翔の手元を覗き込む。また同じ様に有稀、怜、新も興味を示し机から乗り出す勢いでそれを観察している

「試作品第一号だけど、通信器具だよ♪この通信器具はまだまだ未完成でね。聖杯を扱える者にしか反応しないから困ってるんだ」

困ってる・・・ようには見えませんけど。寧ろとても楽しそうに見えますけど!!

翔に渡した‶それ‶は球体の形をしており、大きさはビー玉より少し大きい程度だろうか。色はついておらず透明だ。理事長は翔の掌に納まっている球体に手を翳す。すると淡く白い光を放つ

これで試作品?…一体理事長は最終的に何を作る気なんだよ!

「まだまだ試作品だって言ったのは通信にしか使えないことなんだよ。悪魔探知の内部構造を変えて作ってみたんだけど、聖杯の力をかなり使って作ったからか聖杯を扱えて、力をある程度持ってないと使えない代物になっちゃったんだよ♪」

ホント一体何してるんだこの人!そんな軽く言う感じじゃないよね!?‥‥まぁ、確かにかなり力吸い取られてる感じはするけど!

「僕にもぉ使えるねぇ~!」

今ここにいる全員使えるから!力を消費してる時に使ったら死ぬほど疲れそうだけど!

無邪気に笑う有稀を叩きたくなる悠だが手を握り締めぐっとこらえる。気が付けば翔の周りに新が悪巧みを考えているのかと思えるほど楽し気に。

また、あまり興味が無い振りをしていた怜さえ生き生きとした目をし集まって来ていた。

・・・なんだか男ってこういう少し複雑なものとか好きだよな。私は違う言いで興味があるだけだけど。

多分だけどこれは私たちが生きている間には完成しないと思う。と言うか完成させるには無理だろうな‥‥複雑すぎる。男子校の設備より複雑すぎるからすぐに壊れそうだし…

「通信の仕方は簡単だよ。手を翳せば勝手に電源が起動する様にしてあるんだ。翳す事によって感知してるんだよ。」

あの光ったのは電源が入ったって事か…最初に説明して欲しいな本当に!!

少し真剣な表情といつもの声色のギャップに困惑しながらも話は進む。

「これは悪魔探知に搭載できなかった機能だからね。暫くすると四角い教科書ぐらいの大きさの画面が浮き出るように現れるから操作は画面でやってね。画面は今浮き出てる四角い場所全体の事を所を言うんだよ」

理事長は画面上で操作しながら説明を終える。・・・これ使うの面倒くさそう。てかあれか、つい最近見た立体地図に似てるのか。立体じゃないけど

「今回は通信機能のみを使えるように設定しておいたから画面が点滅し始めれば既に通信は始まってるけど相手側が通信開始ボタンを押さないと通信は一方通行のままなんだよ。通信が始まると勝手に映像に切り替わるようにしておいたからね!音量調節も勝手にこの機械がやってくれるから気にせずに話してね♪」

いつもの口調と表情に戻りつつある理事長を前に悠は目の前にある物が今までで見たどの機械よりも最新であることを悟り頭を抱える。これ外部に持ち出したら駄目なやつ!!

「通信を切りたいときは画面を左右どちらかにスライドさせれば切れるよ!画面を映さないようにするには手をもう一度翳すだけにしておいたからね♪」

理事長の言葉に翔が浮き出ていた画面が消え画面は真っ暗になった。しかし球体は小さな光を放っている。

「子の球体が光ってる間は電源が入ったままで、この光が消えるともう一度起動しないといけないって事?」

「そうだよ!充電は君たちの中にある聖杯だから持ってるだけで永遠に使えるよ!」

怖い!!そんな得体のしれない物を持たされて行く訳だ…

悠の問いに、理事長は嬉しそうに答える

‶魔界に行ったときに使ってよ‶と付け足すとまた険しい顔つきに戻る

「・・・本題は、どうやって魔界に行くかなんだよ」

まるで‶君なら分かってるはずだよね‶と言わんばかりの表情に小さく心の中で溜息を付く。・・・ここで説明しろってことか。

「さっき魔王と会話したあの扉は使えないと思う。魔界に繋がってはいるけど、あの扉早々開く物じゃないからね。開く事自体可笑しいって事だけでも覚えておいて。」

回りを見渡すとそれぞれが頷く。その目は表情は真剣でしっかりと言葉を理解している証拠だろう

「皆を連れていくにはもうワープしかないと思う。通常のワープは危なくないけど今回のワープは世界を繋げる界と界の空間に存在する狭間を使って空間を捻じ曲げて無理やり他の界に入ること。転移と容量は同じだから大丈夫だとは思うけど、あそこの空間は人間と、聖杯を持ってる者にはつらい場所だと思う。そこに行かないと分からないと思うけど・・・」

この世に存在する様々な世界、例に人間界と言った世界の総称を界と呼ぶ。界と界の間には空間の狭間と呼ばれる場所がある。

あそこは長時間いる場所じゃないし、時間の感覚も狂ってるからすぐに気が可笑しくなる。一人ならあの扉を使って無理やり行くけど他の人と行くとさらに危険になるし…

「もう方法はワープしかないよ。危険は他の策よりもかなり低くなるし…それに魔界に行ったことのない翔ちゃん達にはワープの方が体に負担もかからないと思う。行き成り魔界につけば瘴気でやられちゃう可能性もあるから。私は大丈夫だけど、最初に瘴気に慣れる必要もあるし」

そう言い切ると、パンと手を叩く音が響く。

「ワープで決まりだね♪・・・なら僕は集会場に戻るよ。指揮を任しては来たけど心配だからね。明日はここで登校時間より早く来てね♪悠ちゃん達は早めに寮に帰るんだよ!」

ウィンクをし、そう言い残すと理事長はさっさと転移をして消えていった。・・・なんか逃げられた気分だしウィンクが無性に腹が立ったよ!

5分程経った頃だろうか、翔が口を開いた。

「おい悠。お前何したのか覚えてねーのか?」

何、とは十中八九先ほどの出来事の事だろう。真剣な翔の眼差しに小さく頷く

「聖杯召喚して武器振り回してる辺りから全く記憶にないんだよね」

お道化た様に苦笑いをすれば翔は聖杯召喚前後の出事を新達の補足説明を交えながら説明を始めた。

まぁ、聞かなくてもあの惨状から見て大体想像つくんだけどね…思った以上に色々やらかしてたよ!!

翔達曰く、‶labyrinthの名の元に汝らの名を告げ我へと下れ‶の言葉の後身動きが取れなくなり

‶名は省略。戒めの血を解き放て。聖杯召喚‶の言葉で締め付けられるような痛みが走ったという。

翔は全身に痛みが走り立ち上がることが出来なかったようだ。新は思考の停止、伶は意識の混濁、有稀は全身の痺れが起こり、悠の行動を見れる状態ではなかったようだが、それでも翔と有稀が比較的体が動いたため様子を伺っていたのだ。

何でそんな個人差が出たんだよ!?ってのは皆思ったらしい。ですよね!やった本人にも分からないけど!

「凄い暴れてぇたんだよぉ~?」

でしょうね!!

その直後、突然見たことのない悪魔ーと言っても下級悪魔だがーの大軍が押し寄せ阿鼻叫喚となった。

「お前その状況でいきなり見たこともねー技を放ったんだよ」

どんな技だよ!

「近くにいた僕達は巻き添えに合ってそれぞれ飛ばされたんだけどね~。僕はそのおかげで身動き取れるようになったから気にしてないよ~」

目がスッと細くなすが直ぐに元に戻る。絶対に怒ってるでしょ!!

「・・・悪魔もそれで吹き飛んだ」

ボソッと伶が呟く言葉に反応に困っていると翔が話しを続ける。

いや、なんかほんとに見境なく攻撃してたんだな…何やってるんだ本当に!

「痛みで意識が朦朧としてたが悠、お前の周りに悪魔がたかってたな。しかもよく分からねーことも言ってたな」

「よく分からないこと?」

「『魔王に選ばれし純悪なる悪魔』ってな。他にも何か言ってたけど良く聞こえねーままお前は聞く素振りもなく悪魔をあれはもう排除ってのが当てはまるんじゃねーのかって勢いで斬りまくってたからな」

魔王に選ばれし純悪なる悪魔、か。・・・多分その後に続く言葉は‶人間にも悪魔にも慣れぬ灰者‶だとおもうけどあえて言わないでおこう。面倒ごと増えそう。あと、もうそこの私はいい加減目を覚ましてくれ!!聞いてて頭が痛い!チャラ男、じゃなかった。新たちの視線も痛い!

「でもその後ぉ突然止まったんだよねぇ!」

「見てたなら来いよ!!」

「無理だよぉ!悪魔いっぱいいたんだよぉ!?」

他の者達を置き去りにし、二人の話しが進む。

「皆同じ状況だったから難しかったんだよ~」

と、新のフォローによりすり替わった話が元に戻る。フォローって言えるのかこれ…?

「でだ。急に攻撃が止まったからな…何があるのかと思えばお前瞳はいつもの瞳に戻った気がしたんだが確認する前にそのまま意識を失ったんだよ。お前その後俺の名前呼んだだろ?そこで意識が戻ったんだ」

翔がひとまず話を終えたのかゆっくりを息を吐く。

あー・・・labyrinthとの会話が終わって意識が元に戻った訳だ。てか意識戻るの早いな!?

「で、何故か私の足を握り締めた訳か。あれ結構どころかヒビ入るんじゃないかってくらい痛かったんだけど!!あの後確認したら手形残ってたし」

「掴みやすい場所にあったのが悪いんだろーが!」

私のせいかよ!確かに私のせいだけど!!

「ねぇー・・・もう解散したいんだけどぉ」

疲れ切った様子でいつもより少し低い声が聞こえる。そんな有稀を見て新も怜も皆こちらを見る

「こっちは聞きたいことは聞いたから、翔ちゃん達が聞きたいこと他になかったら解散って事で」

そう聞けばすぐさま伶がフラッと理事長室を出て行った。・・・相当無理してたみたいだな

「怜ぃ待ってよぉ。あ、またねぇ悠ちゃん♪」

其の後を追うように有稀が理事長室からいなくなる。いや・・・せめて無いとか答えろよ!無いの分かってるけど!!てかまたねって!…確かにまた明日会うか

「じゃあ僕も先にいくよ~。じゃあね悠ちゃん~」

と、機会をも逃すなと言わんばかりに新も理事長室を後にした。つか、いつの間に下の名前で呼ぶようになったんだ?

「・・・そんな目で見るんじゃねーよ。俺もあいつらの後追うぞ。お前が一番疲れてんだろ?早く帰った方がいいと思うぜ」

心配している割には深いため息をつくと右肩に手を置いて理事長室から出て行った。左肩に龍が乗っているのが視えたのだろうか・・・って一人取り残されたんだけど!

「帰るか」

まだ学園に来て数日しかたっておらず、迷路のように入り組んだ建物から外に出る事は出来ないだろうと判断し、転移を使い自室へと戻った


「あ、翔ちゃん」

寮の扉を開けると、隣の部屋から出てくる翔の姿を見つけた。

寮に戻った後、明日の準備などを済ませいざベッドにはいると前日は寝れないと思っていた悠だったがそれが嘘のようぐっすりと眠りについた

labyrinthが夢に出てくると思ってたけど結局出て来なかったし…聞きたいことあったんだけど。てかどうやって話せばいいのかすらわからない状態なんだけどね

いつもより早く寝てしまったせいか、それとも魔界へ行くのが久しぶりで緊張しているのか定かではないがクローゼットを開けると制服が変わっていた。

と言っても冬用に生地が厚くなり中のシャツが長袖に、靴下がニーハイになっていただけだったけど。コートとかもあったけどね…と、思いながら制服に着替え支度を整えると龍を肩に乗せ昨日より2時間ほど遅いが時計は7時を指している。

部屋を出るとタイミングよく翔と鉢合わせした。まるで狙ったかのようだ

「悠!?・・・お前今日早くねーか?」

「凄く嫌そうな顔してるね!!…理事長、登校時間より早く来てって曖昧にしか言わなかったしなんとなく早く目が覚めたから」

話しながら近づき、階段へと向かっていく。翔は何か思いだしたのか‶そう言えば…‶と話を続ける。

「昨日個別で理事長に集会場に手伝いに来いって言われたんだよ。その時に集合時間も聞いたんだがお前に言おうにも扉叩いても何しても部屋から出て来ねーし。寝てたのかよ」

そう言う時は部屋の中に入ってこないのになんで割とどうでもいい時は堂々と部屋に入ってくるんだろうね!!

寝ていた時には既に時間は11時を過ぎていた。相当理事長にコキを使われたということだろう。可哀想に・・・と思っていたがふと気が付く。翔ちゃんとこの時間にあったって事は時間あってたってことか!!凄いな私!

心の中で自画自賛していると翔が不意に悠の手を取る。

「おい悠。」

「なにこの手?」

「転移」

「・・・は?・・・先に説明とかは?」

「分かるだろ?」

手を握られよく理解できないまま翔の言葉を聞き転移したと理解した頃には既に理事長室にいた。

悠が翔に反論すればキョトンとした表情でそう返事をする。

・・・分るか!!いきなり転移するなら先に言えよ!しかも既に全員集まってるし…

周りを見渡すと各々が‶おはよう‶とあいさつをする。無口な伶も静かに挨拶の言葉を口にする。

「これで全員そろったね。・・・直ぐに行ってもらうよ」

悠が状況を理解している中急かすように理事長が言葉をかける。いきなりだな!!

入口付近に翔達を呼び手を繋がせ輪を作るように説明をする。悠から順に反時計回りに翔、伶、有稀、新の順で輪を作り終わる。翔の胸ポケットには理事長から渡された小さな玉が淡く光っている。

「繋ぎし狭間をこじ開けろ。異界への扉は閉じられた。狭間で揺れ・・・悔悟せよ。さすれば道は開かれん。超高速瞬間移動推進ーワープー」

唱えるごとに光が強くなり、その光が悠達を包込み飲み込むようにして消えていく。ワープする直前、理事長が真っ直ぐ此方を見据え口を動かしていたことから何か伝えようとしていたのだろう。一体何言ってたんだろう…


とりあえず。仮想世界、通称魔界へ。


黒、赤、青、黄色、緑…様々な色が混ざり合い地に足を付いている感覚さえも本当なのか分からなくなるような場所。空間が歪んでいる証拠でもある。

ぐにゃんというかぐにょんというか、何回来てもこの気持ち悪さには慣れないな…

「ここが、魔界・・・」

「凄い不安定ぃだねぇ」

「…やられそうだ」

翔の順に有稀、伶と言葉を発し新も言葉を発しようと口を開く。

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