第30話

「・・・さっき言ってたことってこう言うことか」

labyrinthの言葉を思い出し頭を抱える。

labyrinthはこうなることが分かってたってことか。だから、こうなることも勿論把握済みだったって事ね…それにしてもちょっとこれは早すぎるんじゃないかな!?既に色々とやらかしちゃってるよ!!

「さて、これからどうしよう・・・龍」

認証式の最中、龍は悠の肩で一部始終を見ており今の今まで元の大きさまでとはいかないが、その体で今の今まで戦っていたのだが悠の声に素早く反応し敵を蹴散らし近くまで来ているのを感じ取っていたのだ。その呼びかけに少し疲れを見せながら舞台に上がる。

所々鱗がはがれ血が滲み出しているようでその姿は痛々しい。・・・これ庇いながら戦ってたんだろうな。かなり怪我が酷い…

『呼んだか、主』

「この悪魔達、湧いて出てくる様だけど何処から来てるか分かるか?」

左手で龍に治癒を施しながら右手に持っている剣で未だ襲い掛かる敵を捌く。飛び散るものが悪魔なのかそれとも血なのか区別がつかない程、今まで見たことのない夥しい量に眩暈がする

『ふむ。少し待て。・・・魔界からきているようだ。』

悠の問いかけに龍は了承すると近くに飛んでいた悪魔を一匹捕まえ何かを話しているようだ。少し経つと悪魔を握りつぶしそう告げた。・・・一体何を話してたのかそもそも聞き取れなかったけど話してた言葉がなんだったのかは今は置いておこう。うん

「魔界から来てる?・・・それは可笑しい」

魔界から来る悪魔は居るには居るが、魔王の許可が無ければ此方に来ることが出来ない。だが上級悪魔は自らの扉を持ち自由に行き来が出来る。これ魔王に直接聞いたから間違いないんだけど・・・まさかこっちに来るための扉を解放したままってこと?

そんなことするのは・・・ジーンだ。ジーンしかいないし思いつかない。他の悪魔達にとってメリットはないはずだから。

今こうなってるのはやっぱり私が原因って事か・・・

「・・・直接止めに行くしかないか」

直接、それはつまり魔界に乗り込むということだ。小さく呟いた声がやけに耳に残る。と突然両足首に衝撃が走る

誰か触って…と言うか掴んでる!?

「痛い痛い!掴んでるの誰!?」

人間なのは確かだろうが、力の限り掴んでいるのか足首が悲鳴を上げている。一体誰が、と下を向くとそこには見慣れた人物が這いつくばりながら足首を掴んでいた

「・・・あ・・・翔ちゃん?」

離すものかと言わんばかりに掴む力がさらに上がる。さっきまで転がってたようには思えない程力強いんだけど・・・とりあえず感覚無くなってき

「・・・お前一人じゃ勝てねーだろ。俺も行く」

うつ伏せでこちらの両足首を掴み、否。最早握り潰す勢いのままそうこちらを見上げている。

足首を掴むのもやっとで、制服も破れ上着は来ておらず黒シャツとジレはかろうじて着ているような城代だ。白色のズボンも所々穴が開いており誰の血か分からない程真っ赤に染まり白色の部分は殆ど無い。

そんな状況で言われても・・・

「とりあえず掴んでる手を離してね!」

死ぬほど痛いから寧ろもう骨にひび入ってるんじゃね?ってくらい痛いから!!ま、まぁ私も結構ボロボロだから人のこと言えないんだけど…と自分の服の状態を見て薄く苦笑いを浮かべる。

着ていたブレザーは袖は無くなり服としての機能が既に無くなっている状態だ。七分袖の丸襟のワイシャツもやはり袖は無く、その上に着ていたカーディガンごと切り裂かれたのか胸から下の生地は無く胸元も大きく破れている。勿論、付けていたリボンは見当たらない。

スカート部分は上ほど酷くはないもののやはり無残にも着られた跡が目立つ。が、今回悠が穿いていたスカートはデザインは刺して変わらないがフリルのペチパンツが一体化になっている。

これは、朝出掛ける際に理事長に渡され半ば強制的に着替えさせられたものだ。・・・まさかこんなところで役に立つとは思わなかったけど。

悠の言葉に掴んで、翔は握り締めていた足首から手を離しよろよろと立ち上がる。

「汝を癒したまえ」

力なく立ち上がる翔に向かい唱えれば全身を眩い光が覆い、直ぐに弾け飛んでいく。・・・なんか治癒の力上がってね?気のせい?

「・・・お前、酷い格好だな」

「それはお互い様でしょ」

そうして悠と翔は顔を見合わす。治癒の力が上がっていることに気が付いてはいるようだが、今はあえて触れず粗方体が治っているのを確認すると倒れていた場所のがれきを蹴り飛ばし白の上着を見つけると翔はこちらに向かい投げる。そのまま受け取る。

上着はかなり短くなっておりボタンも真ん中を除きすべてなく袖も半分以上無くなっていたが、ないよりましか…なんか色々見えそう出し仕方ない。と受け取った上着を羽織り唯一残ったボタンを留める。

「・・・とりあえず」

今いる悪魔達を外に出さないようにするのを、外から入ってくる悪魔達が中に入れないようにしないと。まだ完全に翔ちゃん治ってないし、他の奴らの怪我も治さないと…

翔を少し離れさせ、気配を辿る。‥‥結界は壊れてなさそう。って事は男子校の敷地内で扉が開かれたままって事か。外じゃなくて良かった…とホッと息を付き静かに深く息を吐くと剣を持ったまま右手を高く上に上げ唱える

「闇に溺れす黒き魂よ。ここは檻の中。絶望し、光に焼かれ消滅しろ!・・・檻ノ白ーおりのはくー」

まるで集会場全体に金色の光が檻の様に囲い込み触れた悪魔はことごとく塵も残らないほど粉々に粒子レベルに分解されて消えていく。また、悠の武器であるレイピアに似たそれも変化し、まるで光で形成されたゆらゆらと陽炎の様に揺れる金色の光をそのまま振り下ろす。

鞭のようにしなるその光が集会場を一周すると白い波と共に悪魔を削り消し去っていく。まるで白い光に焼かれているかのような光景はとても綺麗だが、残酷でもある。

視界が戻ると網目状に張り巡らされた金色の檻は未だ覆っている為か悪魔が侵入してくる事も無く、先ほどの攻撃で集会場にいた悪魔達も全て消えているがそれを確認する間もなく術を展開させる。

「淑女は囁く。光りあるところに光あり。天使は言った。安らぎの空間へと浄化するべし。捧げろ闇を。受けよ光よ。結界、天淑空浄ーてんしゅくうじょうー」

上級に集会場全体を覆うほどの魔方陣が現れゆっくりと下降し、地面へ到達すると方陣が回転し始める。回転した方陣はバラバラに砕け散ると散乱していた壁や床に吸い込まれ引き寄せられるように元の場所へと戻っていく。・・・一部穴が開いているが吸い込まれてない方陣の欠片が床に転がっているが直ぐに消滅してしまった。まぁ、初めて使ったにしては上手く砕けたし吸い込まれてないやつもあるけど上出来、上出来!

吸い込まれたそれが全て光り一瞬視界が真っ白に染まるが白い光は透明な膜へと変わり集会場を覆う。

「・・・はぁぁ」

どうにか出来たことに安堵からか小さくため息が漏れる

規模と言うか割と力使う術を連発するの久しぶりだったからできるか不安だったけど何とか出来たみたいだな!

後は怪我の手当てだけだけど・・・と元の形に戻った剣を仕舞う。浮き出ていたcardの形をした空間は消えるが崩れてしまった髪型を無意識に触りながら考え込こむ。

一応、さっきの使った二つの術は治癒も兼ね備えてるしそもそもあの檻触ると治癒の効果があるから触れた人間はきっと治ってる。何よりここの空間にいるだけで体力とか怪我とかが多少良くなるようにしてあるから軽症者は完全に治ってるだろうけど…と舞台上から辺りを見渡すが、未だ元通りとは言えない集会場の中では状況が判断できない。

一応治癒メインでやったほうがいいよな…うん!

「光の輪となりて全ての者を癒したまえ」

光の輪がここにいるであろう人数分素性直ぐに現れ人一人が通れるほどの、いわばフラフープのように大きく広がると上下にゆっくりと動き始める。怪我の状況により時間差はあるが暫くすると光の輪は全て消えた。静かにその様子を見ていた悠の視線が傍らにいる龍へと移る。

「外がどうなってるかは分からないけどこれで大丈夫なはず、・・・龍。」

『うむ』

悠の声が合図となり龍の巨大な体は一瞬で肩に乗る小ささになると定位置である肩に乗る。これからどうしよう…と考えていると理事長がゆっくりと近づいてきた。流石と言うべきか、何事もなかったかのように怪我一つない。術の影響で治癒を受けた可能性もあるが…

「理事長…」

理事長の横には翔、薄桜色の髪の短い男、有稀。マッシュルーム型の髪の短い男、伶。そしてクリーム色の髪の長い男である新が何事もなかったかのように立っていた。が、よく見ると翔達の制服は悲惨な状態になっている。

翔ちゃんの制服も破れ方酷かったけど他の奴らの破れ方も翔ちゃんと同じく酷いな…

認証式ということもあり皆通常のSSクラスの制服を着ている。傷の具合などは様々だが、有稀のズボンは盛大に破れ半ズボンになっており、ブレザーは邪魔だったのだろうカーディガンを腰に巻くのと同様に袖部分を結んでいる。

伶は上部分の損壊が酷く黒シャツもボタンが数個はじけ飛び所々素肌が見え辛うじてネクタイもしている状態だ。ジレは見当たらず右側の腕に原形をとどめていない上着が掛けられている。

新は特に素本部分が酷くまるでチャイナ服の様に両側に太ももまで真っ直ぐスリットの様に入っており裾部分は黒く焼けている。上は言うまでもないがブレザーと黒シャツは右腕部分が全て無くなり皆戦いが激しかったことを物語っている

けど、ブレザーって腰に巻けたりするんだね・・・上半身も下半身もいっそのこと着たり穿いたり意味ないんじゃないかってくらいなんかいっそのこと芸術品みたいに見えてくるわ・・・

「・・・こうなった原因は僕にもあるよ。」

そっと左肩に手を乗せ落ち込んだ切羽詰まったような表情でこちらを見据える

「悠ちゃんの力を少し見くびっていたよ…魔界で起きていることはこっちにも影響を与えるのは分かっているからこの状況で魔界へ行かせるのは危険だよ。それに本当は行かせるべきじゃないと思ってるけどね」

面目なさそうに視線を下へ向けると再び真っ直ぐ此方を見る。理事長は、彼方側へ行かせる覚悟を決めたようだ。

「初任務だよ。labyrinth第一部隊、魔界へ行ってこの現況を改善して来ること。特に悠ちゃんは行かないといけない理由もあるみたいだしね」

凄く凄く嫌味を混ぜてきたな理事長!でもあながち間違っちゃいないから何も言い返せない!!

理事長の命に疲れを見せていた翔達だったか任務へと気分を切り替えたのか各自返事をするが、やはり各々返事は適当だ。こちらもそれに続き慌てて‶分かりました‶と返事を返した。

その言葉を皮切りに、理事長はすぐさま指示を出し始める。

「各隊で集まり傷が治っている者が殆どだと思うけど念のためその檻に触れて回復。回復しきれない者は重傷者から軽症者に振り分けて治癒で治す事。その後回復している隊は二部隊編成になり外の警備、治癒及び怪我人の状況把握、内部警備に当たること。指示は・・・」

と的確に生徒や教師に指示を飛ばしている。その間悠を除き翔達は部隊編成を行っていた。

私は逆に動くと反感飼うから大人しくしとけって言われたんだけど・・・そろそろ暇になって来た、と全ての指示を終えた理事長が翔、有稀、伶、新を連れこちらへ戻ってくる。

そのまま少し回りの教師と話をしー神楽と言う教師もその中の一人だーすぐさま悠達を連れ理事長室まで転移した。

その際、‶転移‶と唱えることなく移動したのはきっときのせいだろう。

理事長室に着くと直ぐに今後のことについてこちらにソファーに座らすことを促し理事長は座らず中央奥にある机に向かいながら引き出しを開け何かを探しつつ手早く話しを始める。座り順は、ここへ来てから変わらず悠と翔は同じソファーで隣同士に。怜、有稀、新は悠達の正面のソファーに腰を掛けた。

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