第19話

「labyrinthの子孫とやらはいるか?」

黒い風と共に舞台上に降り立つ。

拠点として確保していたスペースの机や椅子は無残にも塵と化し皆こちらへと逃げて来たため大混乱している。要重傷者と重傷者のけがの治療は既に終わっていたこともありスムーズに軽症者、中傷者スペースへと移動できたことは幸いだろう。

この為に治したわけじゃないんだけどね…。

突如現れたその悪魔は周りを見渡し、labyrinthの子孫を探しているようだ。

「ぼ・・僕だけど?」

へらへらと笑い、生徒達を守るように前に出る。

理事長何やってる訳!?絶対にバレるからね!?てか天井が壊れたダメージ引きずってるでしょう!?

目の前に瞬時に降り立ち、品定めする様にねっとりとした視線を浴びせる

「へー・・・それにしては力が弱いな。絶対違うよ、な。labyrinthの子孫ってどれ?」

labyrinthの子孫ではないと分かっているはずだが、馬鹿にしたように笑い再び周りを見渡し…目が合った!!

「見つけた」

「うわっ。めんどくさそうな奴だな・・・」

目の前に現れた悪魔の攻撃を交わし上へ飛ぶ。そのまま転移と呟き人がいない場所へと飛んだ。

あらかじめ翔ちゃん達が周りに結界張るモーションが見えたから気にせず避けれたけど、転移した後直ぐ自分がいた場所確認したら穴開いてたんだけどあれ、弁償の請求私に来ないよね…

「避けるな!」

「無茶言うなよ!!」

滲み出てる悪魔の力…隠しきれてない気配にほとんどの悪魔に知られているはずの私をわざわざ探すアホ加減。しかも間違いなく敬語慣れてない感じとか、間違いないけどなんで私のこと忘れてるんだ??

「何やってんだか・・・聖杯召喚!」

胸元がより一層光り輝きcardの形をした空間が一瞬でダイヤの様な形へと変わり服の上に現れる。それに手を近づければ空間から柄が現れぎゅっと握り素早く抜き出せばレイピアに似た細身の刀身に複雑な装飾が付いた柄が一瞬光り、弾ける。

聖杯には武器といった普段目に見えない力を形にし呼び出し戦う《具現化》と呼ばれるものと治癒のように呪文や術式を発動させる戦い補佐する《非具現化》が存在している。

二種類を使えることは聖杯所持者にとっては当たり前だが、何方が秀でている。もしくは不得意なことが多い。また具現化と非具現化を使った応用もあり、一番分かりやすい例は剣に術を宿す事だ。

私はどっちも使えるんだけどね。

「痛いんだけどルシー」

「っ!?どうして俺の名前を・・・」

聖杯を召喚したことで生じた光と現れた武器により攻撃を止められ尚且つ自分自身の名を呼ばれたルシーは驚きこちらを見つめる。

「知ってるも何も何回も会ったことあるんだけど…忘れた訳?」

だいぶ色々変わっちゃってますね!!変わってない所は馬鹿な所だけか?

「・・っっ!俺はアラムより強いんだ!」

「私そんな事一言も言ってないんだけど!?」

何言ってんだこいつ!?本当に頭大丈夫かよ!!

突然激高したルシーはこちらに向かい力を振るうが軽々と攻撃をかわす

「ちょ、ルシ「そんな長ったらしい呪文なんか唱えるな!」

だから!!私は何も言っていない!!

一気に間合いを詰め黒い瘴気が武器の様な鋭さとなり幾度となく攻撃が繰り返されるが、武器で攻撃をあしらい跳ね返す度カキンッと音が鳴る。再後の一撃を剣を使うことなくかわした。

「なっ!?攻撃を避けた、だと!?」

「さっきからずっと避けてるよ!!」

何言ってるんだ本当に!!久々に会ったけどいつもの可笑さがさらに可笑しくなってるんですけど!!

「くそっ!」

表情を歪め再び攻撃を仕掛ける。が、体力を使い過ぎのだろう。スピード、威力共先ほどよりも極端に落ちている。距離を取ったルシーは

「甘く見るな!」

と、何を思ったのか叫び再びこちらに急接近する。

「はぁ・・・本当にめんどくさい」

もう何も言えない。会ったときよりも弱くなってるし意味が分からん言動ばっかするしそれで甘く見られない方が可笑しいだろう

先ほどの困惑してた表情は抜け落ち、まるで感情を落としたかのようだ。

「龍。・・・元の姿に戻れ」

禍々しい光がパンッと弾け、鋭い爪と赤黒い鱗を纏った龍本来の姿で目の前に現れる。

「なんか・・・出て来たより小さい」

『我本来の身では直したばかりのこの場所が壊れかねん。・・・既に壊れてしまった後だがな』

天井を見上げ、穴が開いた先を見つめる。やめよう・・・理事長の心がさらに死んでしまう

少し感情が戻ったのか表情が和らぐ、がしかし直ぐに表情が抜け落ちる。

『ふむそうだな。・・・しかし我の気配に気づかない悪魔など、貴様が初めてだ』

上から目線でジーンに話しかける龍だが、怯えたルシーは地上におり冷や汗が止まらない様子でこちらを見ている。上から目線ってこういうこと言うんだろうな…そもそもが大きいから誰に対してもある意味上から目線だよな!

「ルシー怯えてるからそのくらいしておいてあげてくれよ…集中してて周りが見えなくなったんだって、多分」

悪魔と龍って立場は異なるけど似て非なる存在らしいけどそこまで怯えるか?ってくらい怯えてるんだけど。ルシーもなんで気が付かなかったのか不思議でしょうがない

『落ちたな』

白い瞳をルシーに向け吐き捨てるように一言。瞳には感情は一切無い。

知り合い…?でもこれは知り合いに向ける感情ではないよな・・・どうでもいいか。

「まだ戦うつもり?」

震えるルシーは何も答えない。

「・・・つまらない」

ルシーの元に下り、震え恐怖で動けなくなった身体に剣を突きたてる。

「あああぁぁぁあ!お、まえ!!」

苦しみに耐えているルシーを気にも留めず呪文を唱える

「・・・破るのはお前か、私かー禁門か」

「ぐっっあぁぁぁぁぁあぁ!!」

突き立てた剣を抜き、再び同じ場所へと突き立てる。

「掟破り、力に飢えし悲しき悪魔に平等なる裁きを与え。我、魔王の使者なり。応え門を潜れ」

ルシーより溢れ出溜まっていた血が高く浮き上がり、時計の針を形作り急速に回り出す。禍々しい空気を纏いとぐにゃりと針が正方形へと変化する。ルシーの血は段々と赤黒くなり、その血が宙を舞い扉に変わっていく。扉には無数の文字が書かれており中央に何かをはめ込む為のくぼみがあり、いつの間にか赤黒い血の塊が扉の前で浮いてる。

ゆっくりとくぼみの中にはめ込まれガチャンッと重い音が響き閉ざされていた扉が消えた。本来の姿に戻っていた龍もいつの間にか小さくなり左肩にちょこんと座っている。ルシーから剣を引き抜き血をはらい具現化を解くと光続けていたダイヤ型の空間は静かに消え、現れた仮眠室程の大きさの扉が翔達が集まる場所へ頭上辺りまでゆっくりと降りてくる。

血だらけのルシーの首根っこを掴み、ずるずると引き吊りながら早歩きで翔達の元へと向かう。

「何をしたんだよお前は・・・!」

焦った様子で翔が話しかけてくるが、気に留めることもせずルシーを扉付近に置き去りにし、扉を見つめる。

『・・・おい誰だ勝手に開けた奴は。この扉は易々と開けてはならないと知っているはずだが』

深い底から這いあがってくるような重低音と少し不機嫌さを含んだ声が扉の奥から聞こえてくる。固唾を見守っている生徒たちに緊張が走る。

「相変わらず口悪すぎなんだけど。てか、いつにもまして不機嫌そうだな。」

『誰かは知らんが、俺の何を知っている。そういう貴様も機嫌が悪いようだな…が、貴様は誰だ。何の権限でこの門を開けた。事によっては貴様を処罰する必要が有るが。』

あれ・・・もしかして気づいてない??

「…魔界で会ってから…あぁ。人間界で言うと2年も経ってるから流石に忘れるか。」

『貴様何を言って・・・る!?その声…お前は!!』

普段とは違う低い悠の声に戸惑っている翔。だが、一番戸惑った理由は、扉の奥から聞こえる主の声のトーンが変わったことだろう。勿論その場に居る誰もが分かる変化だ。

「おい!」

後ろで様子を伺っていた翔が襟を掴み自分へと引き寄せる。翔の名を呼べば〝その声の主は誰なんだよ‶と問いかけられる。

「魔王」

悠のあまりにも軽い口調に、否。言葉に翔の動きが固まる。

「・・・は?」

弱々しく聞き返すがやはり同じ言葉が返ってくる。

「だから・・・魔王だって」

「魔王!!??」

今まで聞いたことの無い様な高く裏返った声が辺りに響く。

「・・・翔ちゃんのこんな声初めて聞いた」

余程驚いたのだろう。翔はそのまま二、三歩後ろへ下がり頭を抱えて蹲った。翔の声を聞いていた生徒達も魔王の名を口々に繰り返す。

私の言葉にツッコミを入れれないくらいになるほど驚いたの翔ちゃん!?・・・あ、他の奴らも同じ様な感じだわ。

「魔王ってぇあのぉ魔王だよねぇ!?」

「流石だね~・・・僕もう何言われても驚かない自信があるよ~」

「ま、おう」

薄桜色の髪の短い男は両隣に居るクリーム色の髪の長い男とマッシュルーム型の髪の短い男に話しかけるがどちらも混乱している。が、やはり理事長だけは動じることなく扉の奥をジッと見つめている。

『俺の名を口にしたのは誰だ』

再び扉から奥底から這い上がってくるような低い重低音が響きシンと静まり返る。

「・・・あー、人間!」

『馬鹿にしているのか・・・』

さも当然の様に答えを言うのに対し、門から聞こえる声の主である魔王は呆れているのか深い溜息を付く。

『まあ良い。・・・何故門を開けた。』

「何故って・・その方がルシーを返すにはいいと思ったから」

『馬鹿な事をしたものだなルシー・・・だがたかがそれだけの事でこのような事態になるとは思えん』

「あー・・・なんかルシー何時もより増して本当に!!可笑しいし話は通じないし弱くなってるし…私のことも忘れてるみたいなんだけど、一体どうなってる訳?魔王何知ってると思ったんだけど」

『俺は何も知らん。・・・だが、ルシーも馬鹿な事をしたものだな。』

「本当だよ!まぁ、私のこと覚えてないって事は私に挑んでことごとく返り討ちに合ってることも忘れてるって事だから仕方ないかもな。最早癖なんじゃないかって思うほど弱いくせに向かって来るのは相変わらずだったけど」

『お前・・・まぁいい。このまま野放しにするには色々と問題がある。その為にこの扉を開けたのだろう』

全く持ってその通り!!さすが魔王分かってるわ・・・

『だが、今回は繋がったがいいが次繋がるとは限らない。それだけは忘れるな。ジーンを強制送還する』

「はいはい分かってるってば・・・それと伝えた方がいいと思ってたことがもう一つあるんだけど。ジーンって言えば分るよな?」

『・・・ああ。その名を知らぬ奴など居ないだろう。ましてや俺は魔王だ。眠れる森は定期的に視察も行われている。出入りした者は全て俺が感知出来るよう俺が結界を重ねて張っている。異常は感知していないが、何があった』

ジーンの名を聞くと動揺したのだろう。言葉を詰まらせたが、何事もなかったかのように話し出す。・・・動揺するのは仕方ないか。

「それが、完全ではないらしいんだけどジーンが目覚めつつあるみたいなんだよ。ジーンの下僕じゃなくて僕…部下?が私の所に来た。もしかしたらルシーがここに来たのも、ジーンが関係あるんじゃないかと思って」

『そうか。こちらでも調べてみよう。・・・所でお前今どこに居るんだ。かなりの人間の声が聞こえたが?』

姿が見えるのであれば訝しげに見ているに違いない。

「あー・・・男子校だけど・・・」

『は?何でその場所にお前がいるんだ・・・とうとう聖杯が扱えることが男子校の上に知られたか?そうか、とうとうあの事がバレて捕まったか。いつかはその場所に行くとは思っていたが、随分遅いな…』

呆れられたどころか最後には納得しちゃったんですけど!!あの事ってどれだよ!私が行くこと分かってたのか!・・・てか地味に犯罪者扱いされてる。

「犯罪者扱い止めて」

『事実だろう』

後、魔王って男子校のこと意外と詳しいんだな・・・ま、それもそうか。悪魔である魔王が聖杯の事調べない訳ないもんな

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