第20話

淡々と言葉を紡ぐ魔王に言い返す言葉を悠は思いつかない。事実なんだけど・・・そうなんだけど!あれだよ。若気の至りってやつだよ。

『人間の中でもかなり若いだろう・・・だがそうか。悪魔たちが騒がしいと思ったが、ようやく原因が分かった』

待って。なんで私が男子校に入ると悪魔たちが騒がしくなるんだよ!悪魔の情報網相変わらず怖いな!

「原因が分かって良かったな!!つか早くこいつ連れてけよ!!」

これだから魔王と話すの嫌なんだよな…

『ふっ。誤魔化したか…次は顔を見せろ』

先ほどとは違い、低い声は変わってはいないものの幾分か柔らかい。

「会いに来いって素直に言えば?・・・全力で拒否するけど」

『やはりお前らしい。・・・ルシー。魔界へ送還する。』

大量に血を流しすぎたことによる寒気と攻撃された事による傷でその場を動けず気を失っていたルシーは魔王の言葉と同時にその状態のまま勢いよく浮き上がり扉の中へ吸い込まれていく。

「後はよろしく」

その言葉に魔王が答えることは無かった。完全にルシーの姿が見えなくなると扉はボロボロと崩れ跡形もなく消え去った。

「ようやく終わった・・・。片付いたよ翔ちゃんって、いつまで頭抱えてる訳?」

隣で今までずっと頭を抱えていたのだろう。呆れて問いかければ翔は四従士と龍をよび出した時のよりも怒っているのか息継ぎをすることなく言い放つ。

「お前は!ここに来てからどれだけの事をしでかしてると思ってんだよ!!魔王と気軽に話す奴かどこに居ると思ってんだ!!」

「ここにいるけど?」

「そうじゃねーだろ・・・せめて説明してから話せよ」

だが、気にも留めていない様子を見た翔は、肩の力を抜き諦めと呆れた表情で言う。

「あー・・・あの扉通称〝審判の門‶って言われてるんだけど条件がそろわないと開かないようになってる訳。」

「それでその条件って何かな?僕初めて聞いたな♪」

会話に割り込む様に、実際に翔と悠の間に割り込んでいるのだが・・・理事長が話しかけてくるが殺気が漏れている。笑っているが無論目は笑っていない

「え。あーっと・・・」

理事長の半ば強制的な圧を受け、仕方なく説明をした。

圧って凄いんだな・・・

通称審判の門と呼ばれている扉は、呼び名が存在しない。裁判の扉や裁きを受ける門など様々な呼び名で呼ばれているが一番呼ばれていたのが審判の門の為その呼び名がそのまま通称となったとされている。

門を出現させ尚且つ門を開ける方法は

一つ、逢魔が時であること。

一つ、大量の悪魔の血を捧げる事。これは力が強ければ悪魔一人分でも賄える。

一つ、必ず罪を犯した悪魔が居る事

一つ、感情を殺す事

一つ、魔王又は同等の悪魔に認められている事

一つ、繋げる悪魔が一人で居る事

一つ、持ちゆる力が強大、もしくは聖杯所持者である事

通常この七つの条件がそろい始めて門が出現し、開く。が、条件の一つである繋げる悪魔が一人で居る事は分からずもし繋げる悪魔が一人ではない場合近くにいる同等の悪魔と繋がる可能性がある。最早運試しだ。

その他にも無理難題が多いため、緊急性が高く人間や悪魔その他の種に危険が及ぶ場合のみ使用を許可する様魔王自ら取り決めた為幻の扉とも呼ばれている。

「・・・って理事長?」

「もうこの門開いたら駄目だよ!!」

話しを聞き終わった理事長はそれだけを告げると穴の開いた天井を、天井全体を治した方法と同様に治し

「各自解散してね♪」

と言い残しあっさりその場からいなくなった

「何となく魔王から聞いてはいたけどまさか自分が呼び出す事になるとは・・・初めて開けたけど、まさか本当に開けれるとは思わなかったわ」

「開けたお前が言う台詞かよ!」

集会場の中にいる者達は混乱しつつも、理事長の言われた通り各自先ほど開いた各クラスへと繋がる通路へ消えて行った。

また教師は他にまだやることがあるのかせわしなく集会場のあちこちを見て回っており‶邪魔になる‶と、とりあえず翔達は悠を連れK.SS-1の文字が浮かび上がる通路を潜り抜けた。

ちなみに、各クラスへと繋がる通路には必ず

S(初等部)、T(中等部)、K(高等部)、D(大学部)とクラス並びに学年を現した数字が浮かび上がる為間違いは起きない。通路を出れば、SSと書かれた部屋の大きな扉の前に出る。

あの通路間違いなく転移の術式が組み込まれてる。男子校ってな聖杯の無駄遣いのオンパレード…

「荷物取ってくるから下で待っとけよ」

返事をする前に翔達は大きな金色に装飾された扉を開け中へと入っていってしまった。

「待ってろって言われても!!・・・・ま、まぁ分かるんだけど」

SSと書かれた扉左横には地下へと続く階段。後ろを向けば二つある階段の合流地点に凍り付いた機械は一部を残し全て撤去されており悪魔も術で倒されたのかすでに跡形もない。

どう考えても機械含め氷漬けにした場所ですね!!・・・何も言われてないって事は色々大丈夫なんだろう。

カツカツと小さな足音が聞こえる中、機械があった場所まで足を進める。

「あ、そう言えばこれ返してなかった・・・」

理事長室で着替えた際胸元のポケットに入れたまますっかり忘れていた四角形の物を取り出す。再び両端に分かれた階段を降りていく。階段を降り切り四角形の物を再びポケットにしまい階段を見上げながら翔達を待つ。

「練習場行く時と同じ階段使ってるわ・・・」

玄関ホールは既に生徒や先生たちはおらず静まり返っている。と、バタバタと足音が聞え手に荷物を抱えた翔達が逆の階段から降りてくる。そっちから降りてくるのかよ!

「僕のカード返してくれないかな~?」

クリーム色の長い髪の男が階段から降りてきて早々に、近づいてくる。

「カード?・・・ああ!これのことか」

聖杯の核であるcardと同じ名前かよ!!確かに似てるけど!!

胸ポケットからカードを取り出しクリーム色の髪の長い男に手渡す。

「説明してなかったっけ~?」

「逆に聞くけど説明した記憶ある訳?」

「ないね~」

クリーム色の男はそう言うと丁度玄関ホールの真ん中にある靴箱へ歩いていく。翔とマッシュルーム型の髪の短い男と薄桜色の髪の短い男も続く。

「悠ちゃんは靴ぅそのままでぇ良いってぇ!」

「お前が履いてんの外用の靴だからな!」

「叫ばなくても聞こえてるって!!てか、私寮の事翔ちゃんと同じだって事しか聞かされてないんだけど!!」

翔達の後を追い靴箱の前まで駆け寄る。靴箱はどれも木材で出来ているが真新しく仄かにいい匂いが漂う。SSと書かれた部屋の扉を小さくしたデザインが箱全体に大きく描かれており、一センチ四方の四角い機械が丸い取っ手の上に重ねて取れないように固定されている。

マッシュルーム型の髪の短い男は既に外用の物にはきかえており、スタスタと入口まで歩いていく。遅れてクリーム色の髪の長い男が続く。

翔と薄桜色の髪の短い男はそれぞれカードを翳しピッと小さな機械音が聞こえると箱を開ける。

中は服を入れれるほどの広さがあり、上下二段に分かれ上段には翔達が履いているのと同じ靴が入っている。脱いだ靴を下段に入れると上段の靴を取り出す。靴箱を閉めるとカチャンと鍵が閉まった音が聞こえた。

なんか、凄いな・・・ここ通った時は靴箱とか見てる場合じゃなかったからな。

「貰ったやつに浮き出てんじゃねーのか」

「は?浮き出る?」

慌てて首にかけていた鍵を手に取ると、SSと金色で書かれた文字が透明なカードの中でクルクルと回っていた。・・・なんだこれ!!

鍵の部分に指が触れると鍵の上に‶first 02‶と小さな文字が浮かび上がっていた。鍵から手を離すとその文字は消えてしまった。

「・・・隣の部屋じゃねーか!」

既に外用のものに履き替えていた翔は嫌そうな表情を浮かべている。そのまま出口に向かい歩き出す翔。薄桜色の髪の短い男は既に先に履き替え終わって二人と合流している。

どうやら翔ちゃんとはまたお隣同士らしい・・・けどなんでそんな顔してるんでしょうかね!!

「そんなに私が隣の部屋が嫌な訳?」

「嫌に…決まってんだろ!暇だと何も言わず俺の部屋に入ってくんだろーが!そのまま寝るだろ!!勝手の部屋物色するだろーが!!何でお前と一緒にいる時間の方が長げーんだよ…」

立ち止まっていた翔は再び歩き出す。

そのまま外に出ると直ぐ目の前にある逆T通路を右に曲がり進んで行くと途中右側にある別の棟が見える。別の棟を通り過ぎ少し進むと左右に分かれた道路を左へと進んで行く。つか最後!一緒に居るの嫌だって事か!!

「翔ちゃんだって部屋に入って来てベッドでくつろいでるうちに寝て挙句の果てに一緒にベッドに引きずり込んできたのに?・・・なるほど。何か見られちゃ駄目な物があるって事か」

「な、何言ってんだお前は…」

なんでそこで動揺するんだよ

「動揺するところが怪しすぎる・・・夜中に忍びこんであら捜ししてやる。終わったらそれ持ったままベッドにダイブしてやる」

「それはやめろ」

真顔で翔がこちらに攻め寄り思わず後ずさる。距離感は何処に行ったんだよ!!近すぎるから!!

他愛もない会話をしつつ、長く続く通路を歩いていく。周りを見渡しながらも会話を止めることなく途中でがらりと景色が変わった。


「・・・着いたぞ」

何度も曲がるな…と思いつつくだらない話をしていたらどうやらついたらしい

くだらないことだと分かってるなら言い合いしなくてもいいとか思うだろうけど、翔ちゃんの反応が面白いからついついからかっちゃうんだよな!面白すぎるんだよ!

目の前にある寮は横幅もあるが10階近くまである大きな建物だ。大部分は白色だが一階部分の三分の一のみ淡いクリーム色の大理石がはめ込まれている。目の前にある扉は四角い模様が上中下と彫られ左右には男子校の校章が入ったすりガラスが三枚ずつ張られている。

「めちゃくちゃ豪華なんですけど・・・」

なにこの凄いお金かけましたって感じは!!

驚いているこちらをよそに、さも当然の様に扉を開けて入って行く。・・・げんなりしながら後を追いかけた。

入ってすぐ左奥側に受け付け場所があり上は吹き抜けになっている。

目の前には階段があり途中で階段が二股に分かれ大きく円を描き上へと続く。階段下の両横には転移術式が施されており、左右に続く通路があるのが分かる。

翔達は右側へと続く廊下に向かって歩き出した。

どうやら受け付け?側の通路の先は寮を管理する人達が寝泊まりできる場所で今の管理人は卒業生なんだけど編入生や転校生が来ない限り滅多にいない代わりによく担任がいて寝泊まりすることもあるらしい。


通路を暫く進むと寮の入り口に合った扉よりも大きくデザイン性のある扉が現れた。

翔達はその扉を開け中に入って行く。先ほど同様に慌てて後をついて中へと入る。

大きな空間に赤と黒を基調とした椅子と白色の机がずらりと並んでおり、奥は全面ガラス張りになっており街灯に照らされた庭が見える。

左側には大きなキッチンがありそこに並ぶメインであろう料理が並び、キッチン正面には横長の台には副菜からドリンクまで様々な料理が置かれビュッフェ形式となっており人だかりが出来ている。また、すでに食事を始めている者達も大勢いた。・・・もしかしなくてもここカフェテリアじゃね?

「とりあえずここで最後だな。ここは・・・っておい何だその顔」

どんな顔だよ。

「最後っていつ他に説明してた?」

「お前聞いてなかったのかよ!迷っても知らねーぞ・・・俺じゃねーからな!」

「知ってるから。で、私達はいつまでここで突っ立ってればいい訳?」

ガヤガヤとした室内にいい匂いが漂うこの場所は高等部1年生SSクラス専用のカフェテリア。その出入口にいる。翔が叫んだことにより注目を一気に浴びているが・・・叫んだ本人である翔は気にする様子もない。

私は滅茶苦茶気になりますけどね!!


「あぁ、ならあそこに座るか」


「え、ちょっ!!」

周りを見渡した翔は手を掴むと丁度空いていた窓際のど真ん中にある四人ほど座れる席に歩いていく。同じような席は既に他の生徒達で埋まっている。ほぼ引きずられるようにして席へ連れていかれ直ぐに手を放すと翔はやや乱暴に腰を下ろす。

「座らねーのか?」

「・・・座るけど!」

ここで突っ立ても仕方ないしとりあえず座るか・・・と高級感溢れる椅子に静かに腰を掛けた

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