第18話

「マジで怪我人ばっかりなんだけど・・・」

未だ手が回っていないのか地面で蹲る者も多々見受けられる。

「治癒を使える子があまりいないからね。かなり広範囲で戦っていたみたいだしね♪」

早口になる理事長の話を聞きながら未だに来ない翔達が気になり後ろを振り返れば少し離れた場所で軽症であろう者の治療をしていた。翔ちゃん治癒使えるようになったんだ…

「所でキミ、治癒使えるよね♡?」

「何で使える前提・・・まぁ使えますけど。」

その答えに満足したのかにこりと笑う。その笑み怖いんだって!!

「じゃあ後は話してた通りだからね!任せたよ!僕は簡易的にふさいだ結界を元に戻さないといけないからね♪」

その直後小さく“転移“と呟き目の前から消えた。・・・詳しい情報何もないまま転移しちゃったよ!てか話してた通りって何!?


転移とは、聖杯を扱う者にしか使うことのできない移動手段だ。“転移“と唱える事により様々な場所へと移動することが出来るが、力の強さーcardの許容のことを言うーで移動範囲が制限され自身が知る場所以外移動が出来なくなり、逆に言えば力の強さがあれば自身が知らぬ場所でも書物などで見たことがあれば移動することが可能だ。唯一の欠点があるとするならば力の強さで能力が上下するということだろう

「え、これどうすれば・・・?」

指揮を執る者が居なくなった結果、元々理事長が指示をしていたらしく指揮を執ったのはその場に残っていた教師数名と翔だった。指揮を執った翔に言われるがまま場所を目指す。


現在、集会場では舞台上を背にし左上が軽症者、右上が中傷者、左下が重傷者、右下が要重傷者と四つに振り分けられており分かりやすいよう軽症者は緑、中傷者は黄色、重傷者は赤、要重傷者は赤と黄色の線が地面に施されており各スペースを確保している。また、個人にも該当する色が割り振られており頭上に色が表示されている。

聖杯って本当に便利だよな…と赤と黄色の線の要重傷者スペースへ辿り着いた。

かなりの人数が空気で作られた簡易のベッドで横たわっておりかなり危険な状態であることが見受けられる。その中で一人治療に当たっていた者と目が合い、こちらを睨む。

何で睨まれてるんだ?感じ悪いな…

「・・・奥に居る人達を。手が回っていないので」

制服が違うことに気付いた。そう言えば高等部以下の生徒達を呼んだとか言ってたっけ。翔ちゃんが着てるのと違うから年下だろうな・・・それに手が回ってないことは本当みたいだし。

聖杯を扱う者の中でも治癒の潜在能力があり、聖杯の制御に長けている者が治癒をすることが出来る。初めから治癒を扱える者はおらず、突発的に開花するのが特徴だ。その為治癒を行う者は少なく貴重である。

未だ3分の1すら治療が終わっていない状態だ。特に奥に居る者達は酷く一刻も早く治療しなければならない。しかし、ここで治療をしているのは一人しかおらずそこまで高度な治癒を使えるほど能力が発達していない。・・・有無も言わさず行けって言われた訳だ。これは、翔ちゃん達には無理だ。

「癒したまえ」

奥に並べられている要重傷者の元に向かい広範囲に治癒を掛ける。淡い白色の光が一帯を包み込みスッと消えていく。

血だらけおまけに骨まで見えてる状態だしな…

本来治癒は一人ずつ行われる為怪我人の人数の約半分程の治癒能力を持つ者が必要とされている。しかしこの現状では到底足りる訳もなく、その分治癒能力を持つ者の負荷は相当だろう。今行われた広範囲治癒は、普段行われているものとは異なりかなりの力を消費する。ピンポイントで行なわれるものも同様に力を消費すると言われており、一度使うと暫く休まねば治癒を使う事は出来なくなるとされている。-例外はあるが

「これ広範囲の方が楽そうだな…もう少し範囲広げるか。」

『そうした方がいいだろう。…何回かしなければならぬようだ』

周りを見渡し頷きながらこちらを見る。・・・龍乗せて治癒したことなかったから力抑えたけど大丈夫そうだな。龍と同じく周りを見渡し治癒の効力を確認する

まぁ骨は見えなくなったからまだマシか。効いてない奴らの方が多いけどな…

「来たれ。天使はここに舞い降りた。光無き者に与えし祝福振り注げ。-癒せ」

天使らしき形を取った光が羽を広げると無数の黄金色と白色の光が羽の形となり個々の体の中へと吸い込まれるように入り、体全体が同じ色に輝く。酷ければ酷いほど天使っぽいのが大きくなって現れるんだけど・・・デカくね!?天井突き破りそう。

先ほどよりも範囲を広げ要重傷者全てに治癒を施した為、形どった天使が巨大化してしまったのだ。

この術は天使の形を取っている光が怪我を治す際に必要な力だと言われておりそれを具現化し広範囲に直接力を入れる事により急速に怪我を治す方法だがあまり使う者はいない。これは元々持つ聖杯の力が強くなければ使うことが出来ない術だからだ。また、この術を使うと使うことが出来る広範囲又は速攻性のある治癒に制限がかかる。その為、制限がかかった状態の治癒はとても難しく知識がとても重要になる

あー・・・どうしようか。広範囲で制限にかからずに即効性が高いのってかなり限られてるんだよな。仕方ない。

「罪無き者に生を。戒めを。」

とりあえず疲れない程度に100個で良いか。即効性はちょっと下がるけど一人一人出来ないからこの方法で。と、高密度に圧縮された真っ白な光の球が無数に出来上がり、シュン…と音を立て移動すると要重傷者スペース一帯に居た者達の体の中へと入っていくが、弾かれその光が消えていく者達もいる。

「うへぇ・・・マジかよ」

つい声が出てしまった。・・・これめんどくさい!!なんで私がここに行かせられたのか分かったわ。理事長が翔ちゃん達に元々指示してたな!こいつら圧倒的に力の使い過ぎで力を拒否してくる!!

それに、ここにいる奴らだけじゃなくて全員に治癒の痕跡がある。間違いなく理事長がやったんだろうけど。おかげでさらに治癒が効かないんだよね!!理事長との力の相性悪いんだろうな…

『厄介な事だ』

「本当それな」

厄介!!

天使の形をした光が目の前で急激に小さくなっていく。早めにしないと効力無くなるな

「夢は見えない。白き光がその身を浄化する。癒せ力を癒したまえ」

広範囲に透明な光が走る。雷に打たれたような眩い光だが、その光は横たわる者達に吸収されて行く。血まみれの服や体が綺麗になくなり、皆呼吸が穏やかになるのを確認し集中治癒を開始する。

もう秋も深まっているというのに体から汗がジワリと滲む。支給された灰色のカーディガンを脱ぎシャツを捲る。

「癒したまえ」

黄金色の光に包まれる者達を見ながら

これは思ったよりも時間かかりそうだな…。力の制御はもうしなくても良さそうだけど。と意識を治癒へと集中させた


「求めるままに…治癒展開」

大きな方陣が怪我人、否。怪我人であった者達の真上に展開されそこから光の粒が降り注ぐとると捲ったシャツを元に戻しながら立ち上がり脱いだ灰色のカーディガンを勢いよく被る。傷も全て塞ぎ、完全とはいかないもののどうにか普通に動け話せるまでに回復させたのを確認し大きく背伸びをする。

ようやく終わった…なんでこんなに理事長の力と相性悪いんだよ!!と半ばやけくそになりかけながらもどうにか治療を終わらせその場を離れる。

やることはやったし緊迫した空気はなくなったからいいけどさ・・・

周りを見渡し今度は深い溜息を付く。彼女が通るとあからさまに避け、目を泳がせたり睨む者が殆どだ。

こんなに分かりやすいと寧ろ生暖かい視線送っちゃうのは仕方ないと思うんだよね!あー、翔ちゃんどこ行ったんだろう。翔ちゃんの近くにいるとあんまり視線とか感じないから早く合流したいんだよ!

「視線痛い翔ちゃん翔ちゃん・・・あ」

ブツブツと名前を言っていたからだろうか。何とも言えない表情をした翔と視線が合う前に逸らされ、またすぐに視線が絡む。こちらに仕方ないな、といった様子で近づいてくる

「お前治療は終わったのか?」

「なんで視線逸らした・・・?」

「治療、終わったみたいだな」

無視かよ!!

「まぁ、うん。治療中ずっとこっち見てる男子がいて困ったけど。ここ男子しかいないけどね・・・」

初めから最後までずっとこっち見てたもんな…。ちゃんと自分の仕事もこなしながらだけどただただ視線が痛かった。

「あぁ、あいつか…向日葵みたいな目してただろ?」

「あー・・・確かにそんな色してた気がする」

正直覚えてないけどな!!

「・・・おい。お前あいつら治せねーか?」

言い出しにくそうにそう言いながら緑色の線の中にいる者達を指差す。

「翔ちゃんならすぐに治せるんじゃ・・・あ。」

話している途中で何かに気が付き苦笑いをする。翔の額には汗が光り、上のブレザーを肩にかけるように持ち腕もかなり捲っていた。

「色々手が回らないんだよな…」

そう言えばそうだった。翔ちゃんここの統括任されてたんだっけ。しかも生徒会じゃなくて学生会の会長だって理事長が話してた気がする。ってこれもうちょっと早く思い出したかったな!!

 理事長が結界修復に向かう前、理事長や教師に囲まれていた際に戻る。

「僕が居なくなったら困るからここに残る彼らと、理事生徒会の会長である翔に任せるからね♪」

周りに居る教師らを横目で見た後、翔の名を呼ぶ。

「理事会って何…」

「女子校では生徒会って呼ばれてるよ!」

生徒会・・・え?あの翔ちゃんが?

「良く翔ちゃんが生徒会長になれたな・・・」

「理事生徒会は学園の中でも一番力の強い人達がやっているからね~。」

「でも例外になる人はいたねぇ!」

クリーム色の髪の長い男と薄桜色の髪の短い男が理事長の代わりの様に答える。二人はどこか楽しそうだ。

「俺が会長で悪かったな…つかお前ら俺の反応見て楽しんでだろ!つか悠。お前も笑ってんのバレてんだよ!」

「仲が良いことはいいことだよ!でも、キミは反省しないといけないんだよ!!」

こうして再び理事達による説教が始まったのだった。

ま、まぁ色々あったけど翔ちゃんはかなり大変だろうね!正直早く休みたいんだけど!!

「しょうがないな・・・我命じる。癒せ。早く癒せ今すぐ癒せ」

呪い様にめんどくさいと言う思いが交りながらも言葉を発すれば術式が方陣となり一帯を覆い浮かぶと眩い光が当たりを照らす。目も開けられぬような光にとっさに目を閉じる。

眩しいなおい!!てかちゃんと発動するんだな!

「流石だな…。呪いみたいだったけどな。そんな適当でも治るんだな…」

やはり疲れてるのだろう。やや疲労と呆れの表情を浮かべ当たりを見渡す。浮かび上がった方陣は消えており、軽症者所か集会場全域にまで治癒の力が及び彼方こちらで驚きの声が上がる。

「私も驚いた!!まさかこんな適当でも治るとはね!」

その言葉に彼女に冷たい視線が刺さるが翔が睨みを利かせ深い溜息を付きその場を離れる。

なんか不機嫌だな…

「ってどこ行くの翔ちゃん!?」

そうとは気づかず彼女は慌てて翔を追った。

五分ほど周りを見渡しながら歩き、翔の後ろ姿を眺めていると翔、と名を呼ぶ声が聞こえた。二人殆ど同じタイミングで後ろを振り返るとそこには気怠気に手を振るクリーム色の髪の長い男と大きく手を振り笑顔の薄桜色の髪の短い男が居た。少し離れた場所ではマッシュルーム型の髪の短い男がやや疲れた表情でこちらを見ている。

「お前等!そっちは終わったのか?」

「勿論だよぉ!!」

「翔も終わったんだよね~?」

「あぁ、最後はこいつに手伝ってもらったけどな・・・」

いつの間にか隣に移動し、会話をするが、軽く頭をポンっとし翔が疲れ切った表情でこちらを見る。

「悠ちゃんだよねぇ!!あの天使凄かったねぇ!!」

待て。いきなり呼び捨てか。つかなんで知ってるんだ!!

「何驚いてんだよ…?ああ。練習場で俺がお前の名前呼んだの聞いてたからな。」

「・・・・ああ!!」

「忘れてたのかよ!」

「それはもうすっかり!!」

満面の笑みを浮かべ、それを見た翔は軽く頭を叩く。

「僕ぅあんな大掛かりな治癒初めて見たんだよぉ!」

傍から見れば漫才のように見えなくもない会話を聞きながら、薄桜色の髪の短い男がさらに話しかける。

「それはここにいる全員がそうだと思うけどね~」

と軽い口調でクリーム色の髪の長い男が言う。マッシュルーム型の髪の短い男は話は聞いていいるようだが会話には決して入ってこようとはしない。と

「探したよ♪」

「「うわっ!?」」

真後ろで声が聞こえ、驚きの余り声が出るが隣に居た翔と声が重なる。

「理事長だぁ!」

「探されてたみたいだね~」

薄桜色の髪の短い男は笑顔で理事長の名を呼び、クリーム色の髪の長い男は驚くことなく飄々としている。こちらに視線を向けるがマッシュルーム型の髪の短い男の表情は読み取れない。

全く気配しなかったよ…驚きすぎてちょっと跳ねたんですけど、翔ちゃん。理事長が来たことよりも翔ちゃんが跳ねたことに驚いたわ!

「これを渡さないと寮に入れないからね!なるべく他の子達と会わないような部屋を選んでおいたよ!翔達と同じ階だから安心してね♪」

反応を気にすることなく一方的に話し透明なカードの上にまるで取っ手の様に付けられた楕円形の左右に羽のデザインがあしらわれ上下にメタモルフォーゼスの石がはめ込まれた鍵だが、楕円形中には懐中時計の様な、細工された蓋が閉まっているが針のみが見える構造になっているかなり変わったネックレスの仕様になっている鍵を手渡す。

「あ、どうも。」

「それと・・・・戻れ♪」

理事長が手を掲げ一言楽し気にそう言うと床に散らばっていたものが勢いよく骨組みだけとなった天井へ戻っていく。・・・やることいちいち派手だな!

「…これどうやって使う訳??」

「それは翔に聞いてね♪」

目の前で起きている事よりも今貰った鍵の方が気になるんだよね・・・

鍵を受け取ったものの、見た事も無い未知の物に只々戸惑うが、今の制服では入れる場所が無いため仕方なく首にかける。

「なんて投げやりな回答・・・」

修復中の天井を見上げれば、既に元に戻っており壁や床についていた傷なども綺麗になくなっていた。修復は殆どやったことが無いけどここまで大規模な修復は早々疲れるだろうな…と。


「っ!?」

悪魔の気配を感じ取り当たりを警戒する。理事長や翔達も気が付いたのか当たりを警戒する。周りを見渡せばやはり何かの気配に気が付いた様で当たりを警戒している者達。

既に嫌な予感しかしないんだけど・・・今日は異常なまでに悪魔に会う日なのか!?それとも二度あることは三度あるってやつなのかな!?

と、ドガシャッ!!と聞いたことのない音が上から聞こえた。再び嫌な予感がしおそるおそる上を見ると、見事に穴が開いていた。


「なおしたばっかりなんだけどな・・・」


同じく上を見た理事長派笑顔のまま固まり顔色が蒼くなっていた。が、見なかったことにした!私は何も見ていない!!

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