第17話

「・・・そもそもどうして龍を呼んだりしたのかな?」

やや困惑した表情でこちらを見つめる理事長の周りには数人の教師が居り、神楽の姿も在る。また、周りにはあきれ顔で翔がこちらを見ており、クリーム色の髪の男達はそれを面白そうに、また興味が無いのかぼんやりと様子を伺っている。また、先ほどまで肩に乗れるほどの大きさになった龍が何食わぬ顔をして飛んでいたがいつの間にか左肩に乗っていた。

『落ち着く場所だ。乗りやすさも良い。』

乗りやすくて良かったな…犬や猫の様に尻尾を振る様子を見る。

そもそも、なんでこんなことになってるんだっけ・・・


「なんで龍を呼び出したの!!」

教師たちの指示が飛び、走り回る生徒達や怪我を負い動けなくなっている者達。床にはガラスの破片が散乱し、血がこべり付き壁には無数の傷や破損している箇所も目立つ集会場の片隅から理事長の大きな声が響く

「聞いてるのかな?」

理事長の前に正座させられているのは、黒髪の少女にしては大人びた、大人と呼ぶには幼い者が一人。周りにはその者に親しいのだろう、数人の生徒達がその様を静か見守っている。否、怒っている。無表情ながら声色は変わらない理事長に恐怖を感じ、笑ってる人って怒ると怖いんだな…と遠い目をして骨組みだけになってしまった天井を見上げた。太陽が沈みかけ、雲一つない夕日に照らされた空が瞳に写る。

四従士を召喚した時点でその場に居ない教師たちが異変を感じ集会場へと向かっていたが悪魔の足止めに合い、その間を龍を召喚したことによりその悪魔達は引き付けられるように居なくなっていった。

教師たちが集会場ん時辿り着いた時にはすでに中にいた生徒たちは阿鼻叫喚。教師たちも舞台上にいる龍を目撃し、思考が停止したが結界の修復を終えた理事長によりその場を収めることが出来た。

まさか舞台から引き吊りおろされて翔ちゃんに殴られるとは思わなかったけど…。怒ってるのか心配しているのか分からかったもんな…。その後真顔で傷治してたから尚更分からなかったんだよね

「あー、えっと、龍。・・・肩に乗るくらい小さくなれない?」

視線を龍へと向ける。

『主が言うのなら我は小さくなろう。』

最初から小さくなって欲しかったんだけどな!?

心の中で小さく息を吐き回想を終えるものの現実は変わらない。どう答えてていいのか…と考え微笑を浮かべる。

少し前の記憶を辿り、心の中で小さく溜息を付く。

『居心地は良いから安心すると言い』

違うそうじゃない!そうじゃないんだよ…!!内心かなり困ってるけど!!違うんだよ!

「えっと・・・」

それに、正直あれを説明するのめんどくさいんだよなー!!

「何か言えねーことがあるのかよ」

右隣に居た翔が諭すように問いかける。言えないんじゃなくてめんどくさいし言いずらいんだって!!

「あーっと・・・適当に思いつく文字を唱えたら四従士らしきのが出てきたんだけど、その四従士に唱えろと一回だけ呪文を言われたんだけど全部覚えられなくて仕方なくうろ覚えで唱えたら龍が出てきたんだけど。」

少し自信が無いのか声はいつもより小さいが、周りには聞こえたようで呆れたような、信じられないような様々な表情を浮かべる。その中でも理事長のみ微笑を浮かべるがそれに誰も気付くことは無く終始あきれた様子の翔が話しを続ける。

「お前な・・・四従士や龍を召喚する時も、力が強い者を召喚する時もそうだけどな、力の消費が激しいんだ。普通だったら倒れるどころか聖杯を扱えなくなる。例え召喚出来たとしても龍が気にいらないと思えば最後そのまま食われるんだよ。四従士は只の力の枯渇だけで済むと思うけどな・・・んなことも知らねーのか?」

知ってたら唱えてないわ!!

「書物でしか見たことないし詳しく載ってなかったし…。そもそも力の扱い方しか教えてもらってないから」

「は?・・・今まで誰に教えて貰ってたんだよ」

目を見開き、恐る恐る問いかける。今まで疑問に思わなかったのかよ。…そう言えば私誰に

『父親よ』

「ち、父親。」

待って今こえ誰

『父親?』

意外な人物の名前が出てきたことに驚きを隠せず、声が揃う。

凄い綺麗に声揃ったな…

「どういうことだよ」

私も分からん!

『もう大分弱まってきているみたいね。…すぐに色々と思いだせるわ。元々覚えていたことだもの。欠けているだけよ』

あ、この声どこかで聞いた気がするけど・・・そんなことよりも。思い出す、ね。

翔の問いかけに少し考え込みまるで今まで忘れていた事を思い出したかのような素振りをし

「・・・翔ちゃん忘れた?私の父親はここ男子校出身なんだよ。それで私に力の使い方を教えてくれた。つか無理やりだけど。元々聖杯を扱う者以外知るはずのない言葉を知っていたから危ないと思ったんじゃないの、父親は。」

あぁ、そう言えばそうだった。…欠けてる記憶思いださなくても良かったんじゃないのか?と溜息を付き肩へと視線を移し龍を撫でれば見た目に反して触り心地の良い感触が伝わり、嬉しいのだろう。ゆっくりとしっぽを振り機嫌良く羽を動かしている。

ふ、と視線を戻すと理事長と視線が絡む。その視線は左肩に注がれて・・・もしかして龍見えてる!?

またしてもその場にいる全員の言葉が重なった。またかよ!

言い終ると理事長と目が合った。理事長は私をじっと見つめて・・・見つめて?

ん・・・?理事長、私じゃなくて私の肩見てる!?

一度姿を現した龍だが、直ぐに不可視状態になった為現在見ているのは契約者だけなはずだが確かに理事長の視線は左肩に注がれている。

多分なんか話してるんだろうけど…読みにくいな。


(こやつ・・・我の存在に気付いているようだな。さすが力が強いだけあるが、本当に“そう”なのか。)

(不可視は初めて見たな…。でも僕位になれば普通に見えちゃうんだよ。)


理事長が何か見えない者を見ていることに気付いたのか、翔達も視線を移す。

あ、翔ちゃん達も気になったか。てか、なんか火花散ってるように見えるんだけど気のせい??あ、ちょっとだけ聞えたけど・・・龍の声しか聞こえなかったな

「あー…理事長には見えてるみたいだし無理に不可視状態にならなくてもいいとは思うけど、周りのこと考えるとそのままの状態のほうがいいと思う。翔理事長は力が強いから元々見えたみたいだけど、翔ちゃん達もまぁまぁ力が強いはずだから慣れれば見えるようになると思うよ」

『さすが我が気に入った主だけのことはある』(が。しかしこの少女に何を期待している。何をさせるつもりだ)

「流石だね!もうそんなことが分かるなんてさ♪」(labyrinthに呼び起こされた龍・・・か。)

お互いに口を開くが、その先に続く何かがあるような気がして仕方ないんだけど!!

「うわ!?本当に龍だな・・・」

「んん~?・・・わぁ本当だねぇ翔ちゃん♪」

「まさか実在していたとはね~・・・!」

「…本物だな」

理事長と龍から漂う空気に戸惑っている中、空気を読むことなく翔達は龍が見たことに思い思いに発言する。自由か!空気を読め空気を!

「ま、今度から気をつけてくれればいいよ!・・・あんなに悪魔がわんさかとやって来たから怪我人が多くて治し手が足りないから皆の手当てをしてついでにそれを罰ってことにしよう♪そういう訳だから・・・逃げるなんてもちろんしないよね♡」

話しの最中ながら翔達はゆっくりとその場を離れようとしていたがやはり最初から気づいて様だ。翔達は理事長の笑顔を見て苦笑いをしていた。

気のせいか?それとも私だけだだろうか・・・理事長の目が笑っているように見えなかったのは。てかそもそもこの作戦考えたの理事長じゃ…?


「早く来てね♪」


いつの間にか移動していた理事長を追い、混沌と化した集会所を進む。半分私のせいだけどな…いつの間にか教師たちも居なくなってたし。

って後ろから凄い文句聞こえるんだけど!!?

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