第16話

「貴様が主か・・・認めたくもないな」

こちらへ向かう者と呼び出した術者を見比べると黄金色の瞳がこちらを向き言葉を吐き捨てるようにあざ笑う。

認めたくないんだったらなんで答えたんだよ…!

「妾達を呼び出したのだから少しは見込みがあるだろう?」

「私も同じ意見よ。私たちの声が聞こえているのならば、今から私が言う呪文を唱えて欲しいの。・・・いい?後の三人は悪魔たちをお願いするわ」

黄金色の髪の王が口を開くと赤色の髪の王と白と緑の髪の王が続く。どちらとも言い方は違うが、何処か高圧的な印象を受ける。

なんか勝手に話し出したんだけど!知ってる?あなた達の後ろ凄い事になってるって!!・・・まぁ、聞こえてもいないし見えてないと思われてるんだろうけど。あ、かろうじて聞こえてるかなくらいには思ってるかもしれないな…。声、が聞こえたからな

「・・・俺がやると思ってるのか」

白と緑の王の言葉に反応した黄金色の髪の王は今まで発していた声色が変わり、さらに低く怒りを含んだ声になる。

なんか、初対面だけど相当嫌われてるんだけど…何かしたっけ。

「それはないと思いますよ。・・・あ、僕は勿論お手伝いしますよ。完全体でこちらに来れた時点で彼女と同じかそれ以上の力があるのは分かりますから」

パウダーブルーの髪の王はにこりと笑みを浮かべ他の王達の会話に入っていく。

あー・・・そう言えばそうだった。

四従士を呼び出すには、labyrinthまたはphantomと同等もしくはそれ以上の力を保持し、精霊を複数呼び出す事の出来る素質、なによりその力を四従士に認められることが必要だ。

しかしその条件を満たすものはいないとされている。聖杯の力を全て使いつくし呼び出したとしてもそれは只の自殺行為でしかない。四従士を呼び出すことは、禁術に等しいだろう。

って私割とすんなり思いついた言葉を唱えて呼び出しちゃったんだけど。・・・今は何も考えないでいよう!

「・・・妾だけで十分だと思うのだが」

赤色の髪の王はどこか不機嫌な様子で後ろを振り返り、迫りくる禍々しいそれを、掴んだ。そしてちぎったものが燃え、跡形もなく消え失せる。

怖ぇぇぇ・・・。掴んでちぎるとかもう人間技じゃ、人間じゃなかった。王だった。

「早くしろ」

赤色の髪の王に続き、黄金色の髪の王、白と緑色の髪の王、パウダーブルーの髪の王が迫りくる悪魔を蹴散らしていく。…戦い方えげつないな。触れた所から粉々になっていくよ。ちょっとかわいそうになるくらいには瞬殺だ。

「かろうじて聞こえてはいますね?迷惑をかけますわ。…ではこの呪文を覚えてくださいな。」

優しく微笑み、声をかけ答える前に白と緑の髪の王が呪文を伝え始め

「妾の気が変わらぬうちにさっさと唱えろ」

と赤色の髪の王が追い打ちをかける。

あ、これもう聞こえてるの確定なんだ…。そしてなんて無茶振り!なんだろう、精霊もそうだけど大体人間以外って無茶ぶり凄いしてくるんだな。

「悠!何やってんだお前は!!」

ずっと棒の様に立っているのを見た翔が声を荒げる。

翔ちゃん私に会ってからずっと怒ってるんだけど…。

白と緑の髪の王に言われた呪文何だっけ。忘れちゃったんですけど!?・・・もうしょうがない。断片的にしか覚えてないけど唱えよう

「あー・・・高貴なき心に支配され、堕ちた者よ。鎖はえっと・・・鎖は千切れた。出でよ。全てを見通す者よ」

赤色の髪の王は戦いのさなか目を見開いたままこちらを凝視し、緑と白の髪の王はあきれ顔でこちらを見る。黄金色の髪の王はほらみたことかと言わんばかりの表情で他の王とこちらを交互に見つめる。パウダーブルーの髪の王は、もはや満面の笑みだ。

そんな中、赤と黒色の門が舞台寄りに出現する。熱を発したその扉には龍の彫り物があしらわれておりゆっくりと扉が開く。恐怖さえ覚えるその体。巨大なそれは炎を吐きこちらへと歩みを進める。

男子校の生徒たちは、見えるものと見えない者が居たのだろう。一心不乱に戦っている者と、腰を抜かしてしまっている者、ただ茫然とその光景を眺めている者。それぞれだ。

鋭い爪に赤黒い鱗。真っ白な瞳をしたそれは四従士を押しのけ目の前に迫る。門は消えたが、混沌とした空気が全体に漂う。

・・・待って。なんか出てきたんだけど。てか龍じゃね?書物でしか見たことないやつ!なんで??身体赤くないよ!?

言われた通り・・・じゃなくうろ覚えで呪文唱えたら龍が出てきました。なんて、洒落にならない!そもそもなんで私にこの呪文唱えさせたんだよ!!絶対分かって唱えさせただろ!

「っっ」

『・・・お前か。我を呼び起こさせたのは』

巨大な頭をこちらに近づける。その距離はほんの僅か、白い瞳に吸い込まれそうだ。

思ったよりも声高いな・・・

「呼び起こしたというか・・・呼び起こしたんだろうね。」

もう色々と信じたくないけど。呼び起こしたというかほとんど強制的なんだけどな!そもそも殆ど端折ったんだけど良く出て来たな!!…まぁ、私が呼び出したんだよな!!

その返答に目を吊り上げ細めるとにやりと口角を上げた。

あ、口大きいな…

『お前、変わっているな』

「は?」

『気に入った』

「・・・なんだって?」

目を吊り上げ細め、口角を上げた龍は目を下げ豪快に口を開けて微笑していた。

口閉じてくれよ…。口の中がっつり見えてるから。それに、変わってるってあんたも十分以上に変わってるから!

『・・・お前に仕えよう。契約などなくとも契約の形には既になっている。labyrinth以来か』

軽く私の言葉スルーしたなこいつ。え、てか何勝手に契約してるんだよ!!

スッと体を後ろに引き、龍は再びこちらを見据える。

『契約は完了した。今日から我の主だ』

「あ、はい」

急!!余りの速さに最早ついていけない。

『我は龍。歳は「なんでいきなり自己紹介し始めた!?」

問いかけを止められたのが癪に触ったのか、こちらに睨みを利かす。

迫力凄すぎるから!!睨まないで欲しいなマジで。

『我のことなど書物の上でしか知らぬだろう。自己紹介した方がよいと言われてな』

誰にだよ…と心の中でそっとツッコミを入れる。

『・・・labyrinthにそっくりだな』

心の中を呼んだのだろうか。しみじみとこちらの顔を凝視しながら懐かしいのだろう、目を細め表情はどこか柔らかい。

なんてマイペースなんだ…って

「・・・は?」

なんで今そこでlabyrinth??…自己紹介しろって言ったのlabyrinthかよ!

『顔は瓜二つだ。性格は・・・こちらの方が酷いが』

体質も似てて顔をもそっくりとかもうlabyrinthって私の先祖なんじゃね?

「へー・・・って最後!!」

酷いなおい!会話が楽しいのかそれとも反応が嬉しいのか、龍は先ほどから嬉しそうに大きな尻尾を振っているが、それに当たった悪魔達は跡形もなく消えていく。

尻尾振る度に悪魔が悲鳴上げてるのは見なかったことにすればいいのか…と、刹那。目を吊り上げた龍は大きな体を素早く回転させると、攻撃を仕掛けていたのだろう悪魔達に向かい咆哮を浴びせた。悪魔達は精霊王達の攻撃と同様に触れたことも気付かず、何も残さず消えていった

『悪魔共か。・・・我に攻撃するなど頭が狂ったようだな』

「・・・今の何?咆哮?」

『咆哮などではない。ただうるさい雑魚共を黙らせただけだ』

黙らせるどころか死んでるけど…あれ死んでる事にさえ気づいてないんじゃ…。口開けただけに見えたんだけど。怖っ!!

『ブレスも出来るが雑魚に使う力ではない。・・・悪魔は消え失せたが、人間共が主を見ている』

目の前で舞台上に納まるほどの大きさになりながら報告してくる。視界が開けるとそこには異常者を見るような視線。・・・見てる見てる!!凄い見られてる!!

「・・・なんで!?」

『我が主以外には我の姿は見えていない』

先に言えよ!!取り乱している中、気にも留めずに追い打ちをかける。

『我だけではない。あの精霊たちも同じだ』

・・・って事は結構前から変な目で見られてた訳だ!

「妾は帰る」

「えぇ。もう私たちの出番は、なさそうですわ」

「会話してませんけど・・・」

「する必要はないだろ」

赤い髪の王、緑と白の髪の王は黄金色の髪の王パウダーブルーの髪の王はこちらを見、各々に頭を下げ消えた。…あの黄金色の髪のやつだけあいさつどころか目も合わせなかったんだけど・・・、ま、いっか

「さて・・・そろそろ他の奴らに姿見せてもいいんじゃない?」

『良いのか?…不可視の術は我ではなく主を守る為にかけていたのだが』

「今更じゃね?…むしろ解いてくれないと私が視線に殺されそう!」

『そうか。・・・時代が変わったのだな』

少し懐かしむような表情を見せた後、空気が少し震える。

こちらを向いていた視線はなくなりその代り隣にいる龍に全視線が集まり、悲鳴が上がった

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