第12話

「なんで裏切られたって分かるんだよ」

翔は未だ眉間に皺を寄せ訝しげに問いかけた。顔を上げ、悲しげに微笑を浮かべ一呼吸置き

「悪魔だと分かった後も私はあいつと一緒に居た。今まで会った悪魔とは違うと分かってたから。・・・それも長くは続かなくてある日あいつは力を暴走させた。元々封印されている場所から実体のない存在として無理やりこっちに来たあいつは、その日只でさせ無理やりこっちに来ているのにどうしてそんな行動に出たのか分からないんだけど、無理やり実体のない存在の方を実体にしようとした。勿論実体は他にあるし封印されてるから結果力が暴走。当たり前だ。封印され実体がなかったもののあいつは中級悪魔、しかも上級悪魔よりの悪魔に匹敵する力を持っていた。今だったら別の方法もあるけど私その時まだ5歳とか6歳とかな訳。どう頑張っても、止める方法なんて一つしかなかった」

「なんなんだよ、止める方法って」

皆、声に出さないだけだろう。ここまで力ある者が止める方法は一つしかないと言わせたその方法は

「存在を消すこと」

残酷なことを知っている。呼吸音がつばを飲み込む音が聞こえるほどの静寂。

選べなかった。一つしか方法が無かったから。

「どうやったか正直曖昧なんだけど。結果的に実体のない存在のジーンは封印場所に送り返されたんだけどな」

その言葉に部屋の空気がやや和む。

「そうそう。消す時に『信じていた。…僕は君を許さない。許せない。必ず復讐するよ』って言われた。」

もう、そんなに経つのか…。封印が弱まった原因は私が干渉したからだろう。確実に私を狙ってやってくる。それに、もしかしたらすでに封印が解かれ復活しているかもしれない

「復活、か。殺されるかもしれないな、私」

やや和んでいた空気は静寂から無音へと瞬時に変わる。呼吸音も唾を飲む音も聞こえない、無音。

流石にこの空気耐えきれないんだけど!どうにかしてこの空気変えないと。まさか嘘だとか思ってないよな・・・?

翔は焦りながら先ほどの言葉を否定する様に、新たな言葉を紡ぐ。が、俯いてはいないものの彼女の目はどこか虚ろだ。

「おい悠?」

呼びかけに応じることない。彼女の瞳は虚ろから空虚になり、濁る。

この世で一番嫌いな言葉は選べない程あるけど、私は人間みたいじゃないの言葉だけはどうしても駄目だ。きっと、自分自身が一番人間じゃないと思っていて、多分分かっているからだ。

悪魔と意思疎通できるなんてありえないってことくらい。それどころか悪魔と‶心の声で意思疎通ができる〟なんてな

「お、おい!」

「何!?・・・もしかして、話しかけてた?」

「あー・・・嘘ではないからな?実際上級悪魔に何度も殺されかけたし。聖杯を奪われたこともある。でもあいつらさ、素手で殴られるとすっごく弱いんだよ。あれは驚いたよ!」

わざと空気を変える為に軽く楽しそうに話したが、逆効果だったのか理事長室の温度がグン、と下がり皆の表情が抜け落ちる。あ、今表情落ちたよ!?

「さ・・・っすがにこの空気は辛いわ!!」

「原 因 は お 前 だ」

耐えきれず声を出す。翔は表情が戻ってきているが眉間に皺を寄せることは無く殆ど真顔のまま答える。

凄い。こんな真顔な翔ちゃん初めて見たかもしれない。つか他の奴らも怖いんだけど。正面を後ろを一瞬振り返り目に入ってきた表情は、翔よりも酷く能面のようだ。

顔がいい奴らが真顔になると怖い以外何も思わなくなるんだな・・・

「何で、その時俺に言わなかったんだ」

絞り出すように、しかし静かに怒りを含んだ声で翔はまっすぐ見つめる。

「翔ちゃんに言ったってどうにもできなかったでしょ。昔の翔ちゃんなら尚更だと思うけど。まぁ、それに魔王よりはましだと思う。」

「魔王!?お前何したんだ!?」

「魔王って流石だね~・・・」

翔の表情は元に戻り眉間に皺をよせ怒鳴るようにして問い詰める。が、心配しているのは魔王と出会ったことではなく魔王に何をしでかしたかだ。クリーム色の長い髪の男も翔同様、引いているのか上手く笑えていない。そこのチャラ男笑顔引きずってるから!てか、空気元に戻った?

「凄いよぉ!そう思うよねぇ?」

「…どうしようもないな」

薄桜色の髪の短い男は楽しそうに含みのある笑顔で左隣にいたマッシュルーム型の短い髪の男に問う。マッシュルーム型の短い髪の男は淡々と言葉を紡ぐ

「魔王と知り合いなんて凄いね♪」

そんなやり取りを見ながら理事長はどこか楽しそうだ。なんかこの理事長掴めないんだよな…

「…魔王に斬りかかってその後異様に魔界に呼ばれたりして魔王とは仲良いんだよ。」

「お前一体何者だよ・・・」

その言葉はこの場に居る男達が思っていることだろう。

「あの空気だけでどっと疲れたわ…」

グッと背伸びをし、斜め上に視線を移す。はぁぁぁ、ジーンか・・・

「めんどくさいな、殺すの」

ピシッ。空気が氷の様に音を立てたのかと思うほど瞬時に凍り付く。静寂でも無音でもなく、凍り付いた。

「…ころ、す」

「うん。驚く事じゃないでしょ。殺す以外方法ある?まぁ、アラムと戦うよりよっぽどマシだと思うけどな」

その光景は異常だろう。その場にいる中で弱い存在であるべき女はその言葉を気に留める事も無く淡々と当たり前の様に発し、その場の中で強い存在であるべき男はその言葉の残酷さに表情をこわばらせ絶望にも似た表情で居るのだ。異常以外に何が言えるだろうか。翔は直ぐ表情が戻ったもののやはり硬さが残る。クリーム色の長い髪の男達は表情があまり動かず表所を読み取ることは難しい。理事長は経験の違いからか余裕な雰囲気が漂うが、微笑を浮かべている

アラムは上級悪魔の中でもごく一部にのみ呼ぶことを許された真実の悪魔ーTeufelWahreー【ヴァーレトイフェル】、通称ヴァーレの一人でもあるんだってアラムに教えてもらったんだよな…

「アラムとは殆ど戦ったことは無いけどあともう少しの所で逃げられたことはあるんだよね」

懐かしい記憶を辿っていたが、ハッとし、横を恐るおそる向く。嘘だろこいつ…と言わんばかりの表情で口をパク、パクとさせていた。

後ろを振り返れば左から順にクリーム色の長い髪の男は笑い転げるのではないかと思うほど声を出さず体を震えさせお腹に手を置き笑っていた。薄桜色の髪の短い男はキョトン、とした表情でこちらを見つめている。マッシュルーム型の短い髪はただただ軽蔑の中に憐れみをのぞかせた表情でこちらを見ていた。正面にいる理事長は相も変わらず、だ。表情を読み取る事は出来ない。

うわぁ…皆それぞれ分かりやすい表情してるわ。翔ちゃん、と小さい奴はその表情になるのは分かる。理事長はもう分からないから放置!だけど、チャラ男。笑うならもういっそ床で笑い転げてればいいと思う!それから女嫌いに至っては何その変な表情は!

「あー…笑い転がりそう奴居るけど一応話にはついてこれたって事で良いよな?」

問いかけに、クリーム色の長い髪の男は未だ笑い転げるのではないかと思うほど笑っているものの相槌を数回打つ。薄桜色の髪の短い男とマッシュルーム型の短い髪もそれぞれに頷き理事長は静かにそうだよ、とお決まりの語尾に記号を付けているような話し方で答えるが、一人未だに呆然としている者が居た。

「おーい翔ちゃん・・・大丈夫そうに見えないけど一応聞く。大丈夫?」

翔ちゃんが思った通りに驚いてくれてよかった。・・・ついてこれたかなんて、案外どうでもいいことだったりする。根掘り葉掘りこれ以上聞かれずに済むことに心底安堵しているんだから

「お前・・・本当に人間だよな!?もうお前何なんだよ・・・凄すぎかよ」

翔は深く溜息を突きながらも、嬉しさを言葉ににじませる。が、翔が見つめる先の人物は一瞬、ほんの一瞬影を落としへら、と笑う。翔は一瞬の表情に気が付くことは無い。

ズキン、ズクン。どちらにも似た音が心臓を締め付ける。翔ちゃんの表情を見たらわかる。これは翔ちゃんなりに褒めている。嬉しいはずなのに、痛い。この痛みはきっと気のせい

「どこをどう見たって人間だろう・・・脳みそ詰まってる?あ、それとも脳に皺が無いだけか。それも元からだっけ?」

「容赦なさすぎだろ!!」

翔は焦り言葉を発する。思ったより声低くなって焦ったけど翔ちゃんの方がよっぽと焦ってる。…変なの

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