第10話

その瞬間辺りが騒然となる。この名前を聞いて平然としている者は殆どいないだろう。

てか、そんなぺらぺら話していい訳!?他の奴らと違う意味で驚いてるよ!

「ジーンってあのジーンか?」

「マジかよ・・・・あれだろ?俺らと同じ力を持つ全員係で封印して唯一生き残ったのが理事長の先々代って言う話だろ?」

男達の話しが耳に入るが、構うことなく話を続ける。


悪魔と戦う者は皆、知っており必ずこの名前を耳にし目にする。通り名は‶眠れる森の悪魔〟だ。何故その名を付けられたのかは分かってはいない。


「復讐したい人物は十分心当たりあるけど。…お前ジーンの配下なんだろ?」

居る事さえ知らなかった。当然か・・・あの日の事もあの日以来の事も私は今まで忘れてたんだから。それに知る知らない以前に、そういう次元の話しじゃなかったからな。今も

『そのようなものだ。』

言葉に同意し、一瞬で距離を縮める。

『・・・心当たりがあるのも当然だろうな、神乃宮悠【カミノミヤユウ】。復讐したいのは君なのだからな』

水祈はとっさに簡易結界を張る。が既に悪魔は自分が立っていた場所に戻っていた。

「ジーンが目覚める。私を殺しに、ね」

『伝言は預かってやる』

「伝言はない。・・・向こうは言わなくても分かるだろうし。分かったら消えろ」

そう冷たくあしらえばにやりと口角を上げた後直ぐに消えてしまった。


ージーンの復活にはお前の血が必要だ。貰ったよー


「は?・・・あの悪魔ぁぁああ!!」

「お前の方がよっぽど悪魔じゃねーか!!」

怒鳴り声と共に頭に衝撃が走る。ちょ、何故私は罵倒された??

「痛いんだけど…翔ちゃん」

なにも殴らなくてもいいと思うんだけどな・・・

「お前相変わらず軽いな・・・叩いたんだから痛いに決まってるだろーが。久し振りと言いたいが・・・お前自分が何したのか分かってるのか!」

あ、これこのまま説教されるパターンだ…

「まぁ一応分かってるよ。・・・あのさ翔ちゃん」

「…なんだよ」

「あー・・・っと。どうしようか?この状況。」

「おい」

お道化て少し笑うと翔は無言で肩を掴み、ミシミシと掴まれた体が音を立てた。

痛い痛い痛い!力強いな!!ミシミシ言ってるの気づいて!!

「お前がこの状況を作ったんだろうがぁぁぁあ!」


あの後滅茶苦茶翔ちゃんと教師たちに怒られた。

翔ちゃんに怒られていると状況を把握するためにやって来た他の教師にも説教され教師の話しが終わればすぐに翔ちゃんによる説教が再開されて暫くその場を動けなかった。翔ちゃんに怒られる方がよっぽどマシだって思ったよな。

その場にいた神楽と翔ちゃんが話をした後、襟を掴まれそのまま引きずられるようにしてどこかに連れていかれた。途中で引きずるのを止めたのは別にいいんだけど逃げないように手首掴まれてたから手首は痛いわ後ろからチャラ男と女嫌いと小さい奴の視線を後ろから感じながら歩くのは正直辛かった…とちょっと前までの事を思い返してみたけど今それどころじゃない。


なんで私こんなところに突っ立ってるんだろうか…


翔に連れられ、やって来たのは寝かされていた棟ー本部棟ーの四階だ。周りを見る前に理事長室内へと入った。来客用か、目の前に低めの白の机を挟む様に三人は座れるであろう机と同じ白色のソファーが中央の奥に置いてある。

さらに奥を見れば大きな高い机が窓を背にしてあり、板で覆われているため机の上がどの様になっているかは分からない。部屋の中は広く、両側の壁には本棚が並びびっしりと中身が詰まっており、本棚を挟む様に入り口から見て左側に木目調の扉がある。

部屋の壁は淡いクリーム色、床は黒と薄いクリーム色のタイルが交互に並んでいる。来客用の周りのみ白を基調とした淡いピンクの模様が薄く描かれているフロアマットレスが敷かれている。大きな机の向こう側は全て窓になっており、白色の薄いシンプルなレースカーテンが引かれ、薄緑色の厚いカーテンが大きな窓の左右に纏められている。

翔ちゃんに言われるがままにソファーに座ったけど、右側に翔ちゃんがいて後ろにチャラ男たちが居るのがなんだか落ち着かない!この部屋が理事長室だからか分からないけどここの部屋も落ち着かない!

「こんにちは☆」

何処からともなくガチャリと扉が開く音がし、高くもなく低くもなく若干子供の様な声が部屋に響く。机を挟んだ目の前に初めて見る人物がいた。…誰だよ!

薄茶色の髪にふわふわとさせたショートボブの髪型で光に反射すると部屋の壁と同じ色になる。目の色は薔薇色【ソウビイロ】。服装は上から、薄クリーム色のワイシャツに黒色のブレザーを羽織りネクタイの代わりに赤色の蝶ネクタイを着用している。下は白色の膝が隠れる半ズボ長さの半ズボン。靴は黒色の厚底でかろうじて白色の靴下が見える。・・・いや、本当に誰!?私より身長小さいんだけど

「…こんにちは?」

一応挨拶はしてみたけど・・・なんで誰も説明してくれないんだ!?そう言えば翔ちゃん小さい子が好きだとか言ってたっけ

「まさか…好きなの?」

「なんでそうなるんだ!!」

「ぶふっ!」

「…好きなのか」

「好きなんだぁしょうちゃん♪」

突拍子もないことに驚いた翔は大きく声を荒げ怒りを露にし、時折後ろを振り返る。それを見ていたクリーム色の長い髪の男が笑いを耐えきれず吹きだし、驚きつつもどこか納得した様子で微笑を浮かべマッシュルーム型の短い髪の男が続く。薄桜色の髪の短い男はからかい笑いながら翔を見る。

「翔、ちゃん・・・ふっ」

「おい鼻で笑うな!」

「鼻で笑わなければいいだね~」

「そう言うことじゃねーよ!!」

なんか、翔ちゃん滅茶苦茶からかわれてるよな…あれ。戦ってる時の頼りになる感じは一体どこへ消えた!?

言い合いをしている男達の様子は言い合いをしているというよりもじゃれて遊んでいる方がしっくりくる。クリーム色の長い髪の男は笑顔のまま腹を抱え崩れ落ち、マッシュルーム型の短い髪の男は口角が上がったままだ。薄桜色の髪の短い男は笑顔の中に見え隠れするものがあるがその笑顔は本物だろう。

なんか、翔ちゃんが哀れに見えてきたんだけど、翔ちゃんだから仕方ないのかもしれないな!

「なんで俺だから仕方ねーんだよ」

「え、なんで分かった?・・・もしかして「もうお前しゃべんな!」

「うるさいよ翔」「うるさいよぉ」「…煩い」と男達に一喝され、二人が後ろを振り返ると男達はやはり笑っていた。その様子を見ていたが徐に視線を外し身体を正面に戻す。そう言えばあの私より小さいやつどこに行ったんだっけ?あ、忘れてる訳じゃなかったんだけど翔ちゃんの反応が面白くてつい放置しちゃったんだよね…と。

ショートボブの髪の男は窓際にある大きな机から微笑を浮かべ微笑ましくこちらを見てる。予想はしてたけど・・・いや、マジか

「もしかして、貴方が理事長?」

「そうですよ?」

さも当然のような表情で答えると机から離れ再びソファーへと移動し、腰を下ろす。何で制服着てるのかとか、色々突っ込み所あるけど話し方と見た目のギャップが凄いな

「さて、本題に入るけど戦っている様子を見させてもらっていたよ。確かに君の聖杯は僕等と全く同じだね。」

「同じ、ですよ」

一応。…戦っている様子見てるならささっと片づけてくれればよかったのに

「男にしか扱えない聖杯をどうして扱うことが出来るのか、教えてくれないかな?」

「いいですけど」

翔達の声はいつの間にか止まっていた。ショートボブの髪の男、この学園の理事長は優しく話しかけていたが、まさか簡単に返事をすると思っていなかったのだろう。驚いた表情を浮かべた後、話をする様促した。

どうせ、聞かれずとも話すつもりだったし

「じゃあ話を。」

「あー・・・えっと。生まれてから悪魔はずっと見えていたし、どうして見えていたのかは正直分からない。記憶があやふやだけど、六歳の時に覚醒したはずだよ。まぁ、その前から父親に色々叩き込まれてたから。父親はここの卒業生なんだよね、で、色々あって今に至るみたいな?」

なんか理事長の前だと敬語で話す気が無くなるんだよね。なんでだろう!!

「色々ってなんだ色々って。簡単に説明しすぎだろ・・・面倒くさかったな」

さすが翔ちゃんよく分かってる!!…それだけじゃないけどな

翔が耳元で話しかけてくるが心の中で返事をする。男達はその言葉をどのように受け止めているか分からないが、聞いてはいるのだろう。

今話したら余計面倒くさいことになりそう…。それに

「人間本当のこと言ったらネタにされるかもしれない。それに、疑わずに殺れたらどうしようもない・・・」

小さく呟いた声は、静まり返った理事長室に嫌なほど大きく響いた。と

突然体に衝撃が走る。何事かと見れば、理事長が抱き付いて来ており見た目に相反し力が強いのか制服のリボンが首を絞める。ネクタイがギチギチッと嫌な音を立てている

こいつ新手の変態か何かか?!つかこいつも力強いな!首絞まってる!!


「君、入学決定!」

首の痛みは消えていた。

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