第9話

聖杯を召喚した翔達はあふれ出すようにこちらへ迫り来る悪魔達に斬りかかっていく。しかし力を纏わせていない通常の斬撃では悪魔を倒す事は出来ず、素早く武器に力を纏わせもう一度同じように斬撃を繰り出すといともたやすく悪魔達は消滅していく。

通常の悪魔は斬撃受けるだけで消滅するし戦うの楽だけど今回手足生えてる奴もいるから割と大変だと思うよ!まぁ、この部屋がすでに大変な状況なんだけどな!!

広い実戦場は瞬く間に黒くなり、白かった壁はほとんど見えず武器の反射と悲鳴に似た音を出す悪魔しか視界に入らない状況だ。聖杯を召喚しようとするがその前に大量の悪魔が襲い掛かりそれさえも困難になっている。

まささかこんなに悪魔がいるとは思わなかった!聖杯召喚し損ねたよ!!ここまで悪魔の数が多いと聖杯召喚する為に隙を見せた瞬間終わるな…悪魔達が少し減るまで待ってるしかないやつ?

「はぁ…炎を刻め。水覆い風を取り込め。地は器なりてその身に写れ。結界、元素。」

目の前に炎が現れ揺らめく炎の周りに水の膜が覆う。その直後風が炎に吸い込まれるよう流れ勢いをます。巨大な炎を覆う水は消えることなく、炎も同様だ。その横では土が現れ人の姿を形成していく。巨大な炎とそれを覆う水が完成したばかりのそれに向かい、一瞬消え一つとなったそれは分離しバラバラに散らばっていく。四方八方から驚き低い声が聞こえる。最後の一つは、その術を行った術者の近くに浮き指輪の形となり右中指に納まる。と、土だったそれは自らの髪の色をした宝石へと変わり、虹色の光が体を包む。

「追撃ー遠水玉【エンスイギョク】。裁きを下せー煙雷【エンライ】。付与エンチャント速・重逆【ソク・ジュウギャク】」

素早く次の術へと移行する。少し青を帯びた球体が幾つも現れ悪魔の群れに向かい飛んでいく。悪魔をしとめるまでどこまでも追いかける球体。

辺りにうっすらと煙が立ち込め、金色に輝く何かが落ちる。悪魔の群れに稲妻は悪魔のみを狙い的確に音もなく落ちていく。周りにいる人間に被害はなく、そのまま敵を蹴散らしていく。

その二つの攻撃が突如強くなる。術に術を付与したからだ。青を帯びた球体の中に鮮やかな緑が色を付け、周りには透明な膜がきらりと輝く。球体は横に斜めに自由に走り悪魔を倒していく。煙は透明になり、天と地をひっくり返したように上に光が走った。金色と緑色の二色の光が直線を描き、重力が無いかの様にあらぬ場所から稲妻が飛び交う。水球と同様に、人間が怪我をすることはない。

自分で言うのもなんだけど、球体も最早目で追えないし煙なんか透明になって匂いも無くなって挙句重力無視してどこから来るのか分からない恐怖のアトラクションみたいなってるんだけど!

・・・本当は二つの術を合わせようとか思ってたんだけど体力が持たないから止めたんだよな。やらなくて良かった!!

戦い始めは優勢だったはずが、時間を追うごとに悪魔側が優勢になり皆の体力も徐々に削れ始めた。数は多少減ったとは言え、疲弊した男達は徐々に離脱していく。結果残ったの私と翔ちゃんとチャラ男と女嫌いと小さい奴だけとかどうしようもないんだけど!!術はことごとく効力失って消滅したし元素結界もそろそろ持ちそうにないし・・・もうこれあれだな。適当に誰か呼び出すしかないな!!

「導くのは我であり汝である。加護与える者よ。答えを導く者に打破を・・・なんでもいいから早く出てこい!!」

術を唱え始めれば足元に方陣が現れそのまま術者の体をすり抜け頭上に上がる。方陣内部が歯車の様に回り出した直後、叫び声と共に方陣が光る。光は周囲を巻き込み、悪魔は半分ほど跡形もなく悲鳴に似た声を出す事も無く消えた。

「・・・美女だ」

「精霊を呼び出したのか…」

薄い青色の膝まである長い髪に、白く透明感がある肌。切れ長の瞳に深い青色を映し、横の髪を編み込み香雪蘭をモチーフにした水色の髪飾りで留めている。胸元にかけて透明なレースで覆われ、Aラインのドレスはつま先まであり足もとを隠す。薄い水色のシースルードレスは白い肌が所々覗き見え美しさを醸し出す。

何枚も重ね作り出されたそれは緩くフリルが靡く。床にふわりとした床に付くほどの長さの七分袖に上着部分を背中でまとめたその女は方陣が消えるとゆっくり下に降りてくる。

「・・・一体何の用?」

確かに美女だしそもそも精霊は全員美女美男なんだけど見た目だけなんだよな!

「あー・・・水祈【ミズキ】力貸してくれない?」

「は?名前まで付けたくせに送り返したの忘れたとは言わせないよ!!」

水祈は目を吊り上げ長く薄い青色の髪を揺らしながら怒りを露にする。

滅茶苦茶怒ってる!初めて呼び出したのが水祈だったんだけど、契約するのが嫌だって言ったから渋々精霊界に返しただけなんだけどな!…正直契約するのが面倒くさかったってのもある!

「今だけ仮契約でもいいから!」

「…今回だけだからな!・・・おい。そこ、見た目と性格違うとか思うなよ」

今ひっ!って声がしたから!後、皆見た目と性格が違うって思うわ!私も思ったから!

水祈は周りにいた男達ににらみを利かせると再び目線を戻す。

「早くしてくれ!」

「本当に急だな!ま、簡易的にしかやらないからな。・・・水の加護を。命に従いて、我の名を捧げ名の通り我に与えられし加護を。・・・祈【イノリ】」


「聖杯召喚!」


水祈が唱え終るとすぐさま聖杯を召喚する。胸元がより一層光り輝きcardの形をした空間が一瞬でダイヤの様な形へと変わり服の上に現れる。水祈の瞳と同じ光がダイアの形をした空間に入る。それに手を近づければ空間から柄が現れぎゅっと握り素早く抜き出せばレイピアに似た細身の刀身に複雑な装飾が付いた柄が一瞬光り、刃は水に変わり柄は薄い水色に変化し弾ける。


精霊は基本四元素火、水、風、地に分けることが出来る。名を持つ者が殆どだが名を持たず通称名で呼ばれる者達がいる。その者達は力と才に優れており呼び出す事が非常に難しい。

精霊には名を与える際に必ずその精霊の属性を入れな消えればならないという暗黙の了解がある。水の精霊の場合、属性は水の為名の前後に水が入る。水祈も同様、属性が水な為名の前に水の文字が入っている。名において最も重要なのは水以外の文字だ。属性以外の文字が表すものがそのまま精霊の力となる。水祈の場合、水と祈の為水の属性に加え祈の力を得ることが出来るが、精霊の解釈によって変わる為決して同じ文字=同じ力になることは無い。

また、術者が精霊と戦う際、剣に宿り戦う方法と精霊自らが術者と共闘する二通り存在する。仮契約の場合本領発揮が出来ないため、未完成な術となる。けど、水祈は特殊なんだよな・・・色々とそもそも剣に自分全て宿るのが嫌いみたいで半分だけ力を与えて自分自身も戦うのが支流なんだよな水祈限定だけど。それから、水祈曰く祈り=言葉になるらしいんだけどそれをするのに一番楽なのが詠うことらしい。楽ってどうなんだ楽って!

本人から聞いたんだけど水祈はよく術者に詠わせてたらしい。自慢げに語ることじゃない…。

精霊と契約するときはお互いの名前を交わすことで信頼を得るらしんだけど、名を与えた後直ぐに強制的に返した時に名前は言ったけどあの時怒ってたから契約していたのに契約破棄になったんだよな。正直、契約破棄になって良かったとか思ってるよ!!…こればれたらまた怒られそうだけどな

「・・・水祈、行くよ」

「わかった、よ!」

ふわりと薄い青色の長い髪と服が靡き後ろへと回り、一瞬。冷気を帯び辺りは氷となり悪魔は全て氷漬けされている。実戦場の温度は肌が差す痛みに覆われるほど下がっている。後ろにいた男達は、何が起きているのか分からず動きが止まる。翔達は好機と言わんばかり氷漬けされた悪魔達を倒していく。

小さく微かに響く水祈の声は美しくも儚くどこか不思議だ。ピシッピシッと音を立て始めた氷のかたまりが移動し始め氷同士で再び形成しなおされ大きな塊へと変わっていく。やがて瞬きするわずかな時間で氷の塊が一つの巨大な塊へと形を変えた。それは静かにその場で浮遊し留まっている。

「悠。そろそろよ」

「分かってる」

精霊の力を宿した武器は、エンチャントや術を発動しながら戦うことが難しく精霊の力のみに頼ってしまえば聖杯の力がうまく引き出せず悪魔を完全に倒すことが出来なくなる。それらの理由から、精霊を召喚する者は殆どいない。・・・例外があるとするならばまさしく今だろう。

「今!」

水祈の言葉に柄を強く握りしめ、唱える

「祈、祈て享【ウ】けたまえ。」

ざわりと、空気が震えた。男達ー翔達も含めーは唖然としな表情でそれを見ている。

この言葉は、人間ではなく本来精霊が唱えるべき言葉だからだ。

大きく水しぶきを上げ、噴水の中にいる状態になり、周りが水の壁で覆われる。それは水の刃に吸収される。巨大な氷の塊は浮遊を止め地面へと突き刺さる。振動で氷にヒビが入ると中から黒い手足が氷を破って現れる。

水祈が行った術は悪魔を氷漬けにし一度に集め消滅させる術ではない。本来は悪魔の数が多く手に追えず数が増え続ける場合に行われる術だ。悪魔の動きを封じ凍らせることで悪魔の力を奪い、悪魔同士を融合させ一つの悪魔にする。そして氷漬けになったまま悪魔に攻撃をし消滅させる手助けをする術だ。

中々使われることが無いこの術は、悪魔を倒す人間が少なければ少ないほど氷漬けされた悪魔に対抗できず死に至るからだ。

しかし、この術を行っても気にする様子もなくただ当然の様に倒した者がいた。それがlabyrinthともう一人…契約破棄後に面白半分克少しの恨みで行った術をいとも簡単に終わらせた者

「勝てる訳がないのよ、悠に」

剣を構え水の力で地面から浮き上がり、宙へと放り出されたまま落ちていく先には、ひびが入った氷の塊

「祈の流ー罪深き者に贖罪を。水舞祈粒【スイブキリュウ】」

独特の構えのまま舞うように凄まじい速さで氷の塊に到達する。突き刺した剣の切っ先から水があふれ出し亀裂から中へと入っていく。それは悪魔に触れた瞬間水蒸気となり悪魔を粒子レベルまで分解する。舞い踊る如く剣を突きさす為、通称舞と呼ばれるこの術は突き刺す度に刃の水が減っていくため減った場所を補うための力が強く多くなければ途中で術は剣ごと蒸発してしまう。

「最後!」

柄と鍔を残し刃は全て蒸発し、聖杯が自らの武器を修復し、元の姿へと戻る。それと同時に聖杯から青い光が飛び出し水祈の中へと戻っていく、と。消滅した筈の場所にポツンと立っている人否、悪魔がいた。実戦場を包み込んでいた冷気は無くなり元の姿へと戻っているが、壊れた場所はそのままだ。その中に立っている悪魔はとても不気味だ。

『眠れぬ森の悪魔が目覚める・・・』

その悪魔、全身黒いマントに覆われてフードを被っているせいか表情が分かりにくい。かろうじて見えるのは赤い瞳だけだ。悪魔は人間と同じ姿を取ることが出来るが、中級以上の悪魔出なければ完全に人の形を保つことが出来ない。・・・この悪魔、中級以上か

「誰それ?某おとぎ話の話しじゃなくて?」

『眠っている者は男だ』

フード被ってても憐れんだ表情でこっち見てくるの分かるんだけど…何故そんな目をしてこっち見てくる!?

「ふーん…どうして目覚める?目覚めた後の目的は?そいつの、名前は?」



『目覚める理由はただ一つ。封印が完全に消滅したからだ。目的はある人物に復讐する。そのお方は・・・ジーン』

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