7*きちんと伝えたい

第7話

一翔くんと連絡も途絶え、夏休みに入った。学校は休みだし、倉庫に行くこともないから、相変わらず彼とは会えないまま。ずっと、もやもやした気持ちでいる。


 何もしたくないけれど、占いのバイトはある。


 夏休みに入ってから2週間が経った日、和哉くんがお店にやってきた。


「久しぶりだね」

「う、うん」

 私はなんだか気まずくて、上手く言葉が出てこない。


「あれから、一翔と会ったりしてる?」

「ううん、一度も」

「そうなんだ……。一翔、姿をみせなくなったんだ……」

「えっ?」

「あれからも倉庫に顔だしてたんだけど、1週間前くらいから来なくなって、電話とかしても繋がらなくて。チームのやつらも、一翔がいなくて乱れ始めてる」

「……」

「一翔、ほぼ毎日倉庫に来てたんだけどな……ってか、唯花ちゃん、アイツのこと気になってるんでしょ? ずっと」

「……うん」

「急に話変わるけどさ、唯花ちゃんの秘密ばっかり知ってて、なんか不公平だから、俺の秘密も教えてあげる!」

「和哉くんの秘密?」

「うん。実は俺、いつでも人の心の色と言葉が見えるんだ」

「えっ?」


 驚いて私は思わず大きな声を出す。 


「唯花ちゃんもでしょ? 俺の予想ではここでだけかな?」

「う、うん」

「一翔、倉庫に来てた時、ずっと唯花ちゃんのこと考えてたわ」

「一翔くんが、私のことを?」

「そう。そして色が段々とくすんでいって、最後にあった日は、もう真っ暗で……俺の話も一切信じようとしないし。唯花ちゃん、今すぐアイツのとこ行ってあげて?」

「今すぐって……私、バイト中だし」

「ここは、俺に任せて」


 一翔くんは今どこにいるんだろう? 家かな?


「多分、そう」

 心で呟いていたことに対して彼は返事をした。


「本当だ……本当に心が見えるんだね。私は今、家に一翔くんがいるかな?って考えてた」

「本当だよ。唯花ちゃん、一翔のところに行きな?」

「うん」


 私はフェイスベールを外し、店を出ようとした。


「本当に一翔は、何でも手に入れられるな……ねぇ、ひとつだけお願い!」

「何?」

「せめて、この能力使えるの、ふたりだけの秘密にして? 秘密にして、優越感に浸りたい」


 またふたりだけの秘密が。

「うーん」

 私はとても曖昧な返事をした。


 曖昧な返事をしたけれど、私自身も一翔くんには言わない方がいいかな?って思っている。

 



 どうやって秘密にしていたことを話そうかな?ってずっと考えながら彼の家に向かった。

 彼の家に着き、ドキドキしながらチャイムを鳴らす。すると彼がすぐにドアを開けた。

「……何?」

 今まで聞いた事のないほどに冷たい声と表情。

 一瞬で心がぎゅっとして、ものすごく痛くなって。泣きそうになったけど、我慢。


「まぁ、入って」

「うん。おじゃまします」


 部屋の中は相変わらず綺麗。


「何しに来たの?」

「あのね、今日は話したいことがいくつかあって」

「こっちはないけど」

 壁を感じる。まるで別の世界にいるような。仲良くなる前もそう感じていたけれど、今はそれよりも心は遠い。でも、ここで縮こまって伝えるのをやめてしまえばもう、こうやって話せる機会は訪れないかもしれない。ずっと気まずいまま――。


 そう考えながらテーブルの上をふと見ると、占った時にアドバイスを書いて彼に渡した紙が。それから見覚えのある雑誌のとある1ページが開かれていた。




『占い特集 あなたの悩み、解決します!』


 その記事では占い特集が組まれていて、お店が4店舗紹介されていた。その中のひとつ『占いの館 クルール』。そのお店紹介欄に目元以外を隠した姿の私が写っていた。


 ええぃ! もう、勢いで言っちゃえ!!

 私は自分の写真を指さしながら言った。


「一翔くん、あのね、これ、私なの!」


 何か答えてくれるかな?


「……」


 あれ? 何も答えてくれない。


 彼はじっと動かずにこっちを見つめてきた。

 それから彼は、小さな声で言った。


「実は、知ってた……」

「えっ?」


 今度は私が彼をじっと見つめる。

 多分、私、今、驚きすぎて、険しくてひどい顔していると思う。


 



「はは! すごい顔!」

 あ、一翔くんが笑った。


 ずっと冷たくて、空気が張り詰めていたから、その笑顔でそれは解けていった。


「クルールに初めて行った時にはすでに知ってた。行く前にこの記事を見て、見た瞬間に唯花だって気づいたんだ」


 しかも下の名前でまた呼んでくれた!


 バレていたという驚きの気持ちと共に、心の距離が元に戻った気がし、ほっとして胸をなで下ろす。


「そうなんだ……じゃあ、お店に来た時にはすでに私だって知ってたんだ」


「あぁ、知ってた。とりあえず、座ろっか」


 彼と私はソファーに座る。


「えっ? 待って? 私、ずっとバレないようにしないとって思ってた。学校とお店で話し方も変えてたし……」


 知ってたってことは、もしかして私、無駄な悩みを抱えていた? 隠そうとしなくても良かったの?


「一生懸命隠そうとしてるのも、可愛かった」

「可愛かったって……」


 不意に言われた言葉に私は照れる。


「それよりさ、和哉、あの後、否定してきたんだけど、本当は、アイツと付き合ってるんでしょ?」

「違う! 和哉くんとは何もないよ! 付き合ってない!」

 私は首を振り、全力で否定した。


「付き合ってない証拠は?」

「証拠って……じゃあ逆に、付き合ってる証拠もないじゃない?」

「……」

 彼は黙り込む。


 どうしよう。喧嘩みたいな雰囲気になってきちゃった。


「私ね、好きな人がいて、その人に一途なの!」

「好きな人、いるのか……」

「うん」


 私はうつむいた。それから上目遣いで彼を見たのだけど、彼の視線は左下を向いていた。

 何かをじっくり考えている様子。


 言いたい、今、目の前にいる一翔くんが好きだって。


 好きな気持ちを伝えるのって、こんなにも難しいんだ。いつも人には『しないで後悔するのなら、して後悔したほうが良い』って、告白のアドバイスはしていたけれど。




「好きな人って、誰? 俺の知らないやつ?」

「知ってる人だよ」

「チームのメンバーとか?」

「うん」

「メンバーか……誰?」

「メンバーだけど、そんなに気になる?」

「うん……だって、唯花が、他の男を見るのが嫌だから。俺は唯花だけを見てるのに」


 あれ? これは、私のこと好きってことかな? 今、さりげなく告白された?


 頭の中が追いつかない。


 告白?をされたのは初めてで。イメージだと、もっとこう、なんていうか、ロマンチックな感じに「好きだ」って直接言われたり……。


 とりあえず、今言われた言葉を心の中にストンと落とした。すると、今なら私も、素直に気持ちを伝えられる気がした。


 よし! 言おう!


「好きな人はね、チームの総長なの!」


 一翔くんって言えばいいのに、総長って何故言ったの?

しかも初めてそう呼んだ。


「もしかして、俺?」

「うん、そうだよ」

「マジか!」

 いつもそんなに大きくリアクションをとることがない彼が、めちゃくちゃ大きなリアクションを。私はとても驚いた。

「マジか!」

 もう一度、彼はそう言うと私をおもいきり抱きしめてきた。


「付き合おうか」


 彼は耳元で呟いた。

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