5*和哉くんの気持ち
第5話
和哉くんとコソコソ話をした日から、倉庫に行くと、一翔くんが以前よりも私の隣にいるようになった。和哉くんとデートする日を決めるタイミングもなくて。そのまま和哉くんが、約束を忘れてくれるかな?って思っていた。
けれど、私がバイトの時、和哉くんが占いの館 クルールにやってきた。
「うわっ!」
「うわぁって……ひどいなぁ」
「あっ、ごめんなさい。なんで来たの?」
「なんでって? 占いをしてもらうためにだよ!」
「……では、こちらの用紙に記入お願いします」
一応、お客さんとして来てもらったから、言いたいこといっぱいあったけれど、グッとこらえた。
受けとった彼は、私と離れたところにある机に用紙を置いてから振り向き、こう言った。
「悩み、何でも答えてくれるんだよね?」
「う、うん」
その言い方、ちょっと嫌な予感。
彼は椅子に腰かけ、書き始めた。
さらさらと書いている。
一切迷いのないような感じで。
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お名前 中井 和哉
年齢 17歳 性別男
血液型 AB型 誕生日 4月15日
今日相談したいこと
友達といい感じの女の子が気になる。でもその女の子は、その友達のことしか見てなくて。俺に興味がないから、振り向かせたい。どうすればいいのか知りたい。
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恋愛関係の悩みかぁ。
和哉くんの頭の中を覗いてみた。
赤色……情熱的で負けず嫌いな雰囲気。
『あいつには負けたくない……あいつだけには』
あいつが誰なのかは分からなかったけど。
恋愛関係の悩みだから、紙に書いてあるその友達と好きな人の取り合いをしていて、負けたくないってことだよね?
いつものように私は水晶を眺める。
「ライバルが水晶に映っています。さっき用紙に書いてくれたお友達のことでしょうか?」
お仕事だから一応敬語で質問する。
「うん、そう。しかもその友達って、占い師さんの知ってる人」
「えっ? 私?」
あっ! 素の自分に戻っちゃった!
「うん」
「……ねぇ、俺、好きな人に告白した方がいいと思う?」
彼はきっと、目標に向かって前に進む赤色の人だから、言われなくてもするのだろうなぁ。
「思うまま、行動すればよいと思います。和哉さんはどうしたいですか?」
「どうしたいかは決まってるけど……じゃあ、早速そうする」
彼は少し間を置いてから言った。
「占い師さん、いや、唯花ちゃん、好き」
「……?!」
不意打ち! 今このタイミングで私に告白?
「私ですか?」
「うん」
彼が真剣な顔で返事をした。
「でも、私は……」
私は一翔くんが、好き。
「一翔が好きなんでしょ?」
「……」
「ここで働いていることも、一翔が好きなことも。あいつに内緒にしといてあげるから、約束したデート、早くしようよ?」
一翔くんのこと好きなのバレてる? しかも好きなの知ってるのにデートのお誘い。
「いい? ダメ?」
デートの件は、日が経ったからもう忘れられて無し状態になったのかな?って思っていたのに。
「一回だけ、なら」
「やった! じゃあLINE交換しとこ?」
「はぁ……」
なんだか流されているだけの気がするけれど。デート一回で内緒にしてもらえるのなら、まぁいっか!
それから2日が経った。休みの日に朝からデートをすることに。
「唯花ちゃん、お待たせ! 後ろ乗って?」
和哉くんが家まで迎えに来てくれた。彼の心の色と同じ、赤色のバイクで。
ずっと彼とデートするの、気が乗らないなぁ、今も。
「どこ行くの?」
「どうしよっかな。何も考えてないから、とりあえずバイトでひたすら走るわ」
本当にひたすら走った。街を抜けて、信号に引っかからない海沿いの道をひたすらに。
途中で何回か休憩し、コンビニでおにぎりとお茶を買い、海全体を見下ろせるベンチに座った。
ちょっと強引で苦手なタイプかな?って、和哉くんに対して思っていたけれど、こうやって接していると、その苦手意識はなくなっていった。
「俺に、慣れてきた?」
「えっ?」
心が読めているのかな?ってくらいに再びタイミングよく、彼は言う。
「表情が柔らかくなってきたからさぁ」
「う、うん」
結構細かいところまで彼に見られてるんだな。
「俺ね、一翔とは幼なじみなんだ」
「そうなんだ」
「ふたりで、同年代の居場所のない奴らに居場所を作ってやろうってなって、あのチームを作って、一翔は総長に、俺は副総長になった」
「……」
「協力しあっているように見えるけど、正直、あいつに嫉妬してて、一翔のものは全て奪いたいって思ってる」
そう言って彼はじっと私を見つめてきた。
そして、ふわっと彼の唇が私の唇に当たる。
「な、何するの?」
初めての体験。
心臓の鼓動が大きく速く波打つ。
目の前に見える、海の波よりも大きく激しく。
相手は一翔くんじゃないのに、ドキドキしてる。
「動揺してる姿も可愛いね!」
絶対この人、女の子の扱いに慣れてる。危険な香りがぷんぷんしてきたから少し離れた。
「そんな警戒しなくっても」
「……だって今!」
「ごめんね! 可愛くてつい」
可愛くてついって……。ありえない。
「私、もう帰りたいです」
「ほんと、ごめん! これからは気をつけるから」
「ほんと、こういうのやめてください」
「分かった、もう許可なしにしない。じゃあ、そろそろ帰ろっか! あっ、帰り、用事あるから倉庫に寄っていいかな? 休憩もしよっか」
「うん」
再び彼の後ろに乗る。
さっきはあんなことされてドキドキしちゃったけれど、バイクの後ろに乗ると自分の気持ちが分かる気がする。和哉くんの後ろは、あんまり感じないんだけど、一翔くんの後ろになると、もっとくっつきたくなるし、ドキドキが止まらない。
私は、一翔くんが好きなんだな。
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