4*和哉くんとデートの約束

第4話

それからよく彼から誘われるようになり、いつの間にか、倉庫に行くのが日課になっていった。


 他のメンバーとも出会った。結構色んな人が自由に出入りしているから、何人いるのかよく分からないけれど、50人くらい? もっといそうかな? 彼は悩まなくてもいい程に慕われている感じ。こんな大人数をまとめる総長だなんて、すごい! 


 ちなみに全員集まる日もあるみたいだけど、その日は私の隣にいられない時もあるからって理由で、私は呼ばれない。


 あと、占いのバイトもあるから、その時は断ったりも。彼はバイトについては一切訊ねてこなかった。それに、悩み相談したのが私だったのが知られたら、彼、気まずいかな?って思い、こっちからもあえて言わなかった。まぁ、彼も、そこまで私に興味はないのかな?

 

 一翔くんが私から離れ、チームの人たちと話をしている時だった。和哉くんがひとりでいた私に質問してきた。

「ねぇ、バイトしてるんだっけ?」

「あ、うん」

「なんのバイトしてるか当ててみよっか?」

「えっ?」


 占い師って、なかなか珍しいバイトだから、絶対に当たらないなと思っていた。


「占いやってるでしょ?」

「えっ? なんで分かったの?」


 とっさに発した言葉に後悔する。

「違うよ!」って言えばよかったのに。


「一翔は知らないんでしょ?」

「う、うん」

「内緒にしてあげるから、僕とデートしない?」

「はっ? えっ?」


 いきなり何?


 ものすごく大きな声を出してしまい、私はなんとなく一翔くんをみた。そしたら彼はじっとこっちを見ている。




「私なんかと、デートなんて……。てか何故、私が占い師だってことを知ってるの?」

「唯花ちゃんが気になったから!」

「気になったからって……」


 曖昧な返答。

 わざわざ調べたのかな?


「どうする? 一回だけ俺とデートするのと、唯花ちゃんが占い師なのを一翔に言うの、どっちがいい?」


 一翔くんに「一翔くんが悩み相談していた占い師、実は私だったんだよ」って、どんな顔して言えばいいんだろう。めちゃくちゃ言いずらいな。


 現状、一翔くんと一緒にいられるのがとても楽しいし、正体隠してたって理由で嫌われたくもない。


「一回だけなら」


 私は渋々和哉くんとデートすることを選んだ。



 


 


「なぁ、さっき、和哉となんか親しげだったけど……何話してた?」

 私を家まで送ってくれた時、一翔くんは怒り気味にそう言った。

「ううん! 特に何も! ただの世間話だよ」

 わぁ、嘘ついちゃった。

 ごめんね、一翔くん。


「そっか……」

「うん! 送ってくれて、ありがとね」


 彼に背中を向けて、家の中に入ろうとした時、彼は大きめな声で言った。


「なぁ、和哉になびくなよ?」

「えっ?」


 なびくって何? 別に一翔くんと付き合っているわけでも、両想いなわけでもないのに。


「じゃあ、おやすみな」

「うん。一翔くん、おやすみ」

「あ、下の名前で呼んでくれた!」


 そういえば、下の名前で呼んでって言われてから、意識しすぎて苗字ですら呼べなくなってた。今、すらっと『一翔くん』って呼べたな。


 彼は無邪気な笑顔でほほえむ。


 その表情を見るだけで私の胸の鼓動は高まり、顔が火照る。

 精一杯の平然を装い「うん、下の名前で呼んだよ! おやすみ!」と返した。

 

 そういう笑顔、私にだけ見せてくれているのかな?って、ちょっと思っちゃう。それだったら尚更。


 ――一翔くん、その笑顔、反則!

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