3*彼のチーム
第3話
着いた場所を見渡す。
辺りは野原で何もない。その中にぽつんと建っている大きな灰色の倉庫。シャッターを開けると、部屋みたいになっていた。ソファーやテーブルもあって、布団までひいてある。
「ここ、俺についてきてくれる、俺みたいに居場所のない奴らが快適に過ごせるために作った場所なんだ」
彼は愛おしそうに倉庫の中を見つめた。
「そうなんだ……」
私も彼と同じ方向を見つめた。
見つめていると人の話し声がした。
「おっ! 総長、隣にいる女の子は誰っすか?」
ふたり組の男の子のひとりが話しかけてきた。
「同じクラスの子」
さっきふわっと見せてきた優しい笑顔が嘘だったかのように、クールに瀬戸くんは答える。
「女の子連れてくるの、珍しいっすね」
「あぁ」
気のせいかもしれないけれど、瀬戸くんが私の前に出て、私の姿を話しかけてきた人たちから隠している。なんでだろう?
4人で倉庫の中へ。
「相田さん、そこ座って!」
瀬戸くんに言われた通り、3人がけの黒いソファーに座ると、彼も私の横に座った。
さっき出会ったふたり組の、話しかけてきた人がコンビニ袋からお菓子を出しテーブルの上に置く。
「なんか、飲むか?」
瀬戸くんはそう言い、冷蔵庫の方へ。
「なんか総長、相変わらずクールなんだけど、最近何となく優しい表情してくれる時が増えてきて……でも姫を見る時の総長、特に優しい顔してますね。ふたりは付き合ってるんすよね?」
「えっ? 姫? それに付き合ってるって……。そんなんじゃないです!」
私は全力で否定した。
「そんなに否定しなくても……」
冷蔵庫から小さなペットボトルのお茶を持ってきた瀬戸くんが言う。
「あっ、ごめんなさい……」
ん? 別に付き合っているわけでもないし、謝ることでもない、かな?
今、目の前にいるふたり組。ずっと喋っている方は、晃あきらくん。見た目はふわふわ系で可愛い雰囲気。もうひとりの無口っぽい人は、チーム副総長の和哉かずやくん。身長の高さは瀬戸くんと同じくらいで高め。見た目は、歳の割には大人っぽい感じで王子っぽい、かな? ふたり共、私たちと同じ高校二年生。
ちょっと話しただけで、とても親しみやすい晃くんとは仲良くなった。
「姫じゃなくて、名前で呼んでほしいな?」
「名前、なんて言うの?」
「唯花だよ」
「じゃあ、唯花って呼ぶから僕のこと、晃って呼んで?」
「うん、分かった」
「……そろそろ行くぞ?」
晃くんと会話がはずんでいると、瀬戸くんが言った。ちょっと何故かムッとしている彼。
「どこに行くの?」
「ちょっと走る。バイク乗って?」
「う、うん」
バイクの前でふたりきりになった時、彼がぼそっと呟いた。
「ちょっと、妬けるな……」
「えっ? 妬ける?」
「俺も、唯花って呼んで、いいか?」
「う、うん。いいけど……」
何この意味深な発言。しかも切なそうな顔で。別に深い意味はないと思っていても、変に期待しちゃうよ――。
「俺のことも一翔って下の名前で呼んで?」
「うん、分かった」
一翔……か。
彼の名前を心の中で呼んだだけなのに、なんだかドキドキ。
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