2*一緒にバイクで
第2話
本格的に暑くなってきた時期。放課後の教室。一番前の真ん中の席で私は、日直の仕事である日誌を書いていた。
「なぁ」
「えっ?」
誰もいないと思っていたのに突然声が聞こえて私は振り向いた。すると彼が教室の後ろに立っていた。
「はい……」
「なぁ、相田さん、俺のこと、めちゃくちゃ見てない?」
突然言われたから私は戸惑う。
しかも冷たい口調。
「あ、あの……」
上手く言葉が出てこない。
「いや、気のせいだったら別にいいんだけど、なんか俺に言いたいことあるの?」
「別に……ない、です」
「そっか、なら良いんだけど」
何事もなかったかのように彼は教室から出ようとする。私は急に何か話しかけたくなった。
「あの、瀬戸くん!」
彼はドアの前で振り向く。
「何?」
「あ、あの、瀬戸くんは、優しいですから!」
うわっ! 何言ってるの私!
どうしよう、突然何?って感じだよね?
「ははは!」
すると彼が全力で笑いだした。
「突然、何? 面白いな!」
予期せぬ、おもいっきりの笑顔。
私の心は大きくときめいた。
「え、いや、あの……」
「そう言ってくれて、ありがとな!」
「……はい」
彼が去っていた後、私の全身がへなへなっとした。
彼は占い師としての私を知らないし、本当に彼にとっては謎発言だよね。変な人って思われちゃたよね。何か話しかけたくて、でも、今言った言葉しか頭の中に思い浮かばなくて。
なんて思っていたのに、次の日の放課後、彼から予想外なことが!
「今日、何か予定ある? なかったら一緒にどこか行かない?」
「えっ?」
突然のお誘い、何?
「いや、突然、ごめん……」
「い、行きたい、です」
気がつけばそう彼に返事をしていた。
「バイク、乗ったことある?」
どうやら、彼のバイクでどこかに行くらしい。
「ううん、ない」
私は全力で首を振る。
生まれて初めて乗るバイク。
乗り心地はどんなんだろう。
楽しいのかな?
それとも、怖いかな?
それよりも、何故私は彼に誘われたのか?
とりあえず放課後、校門を出て歩く彼の後ろについて行った。歩いて五分ぐらいかな? 着いたのはマンション。エレベーターに乗り、五階で降りた。
「ここ、俺の家なんだけど、準備するから自由にして、待ってて?」
「あ、うん」
言われるがままついていくと、いつの間にか彼の家の中へ。
部屋全体を見渡した。
とても綺麗で、シンプル。余計なものがひとつもない。
「部屋、綺麗だね?」
「ん? あぁ、一人暮らしだし、寝る時以外はあんまり家にいないからな」
一人暮らしなんだ……。
オシャレなソファーで座って待っていると彼が、着替えて出てきた。
「相田さんは、一回家に帰る?」
「いや、帰らなくても大丈夫かな?」
「じゃあ、ちょっと待ってて?」
彼は着替えてた部屋に再び行き、すぐに戻ってきた。
「はい、これ貸す。これからの時間、バイクで走ってると風で体冷えるかもしれないから、乗る時、その半袖のブラウスの上に着といて?」
受け取ったのは彼の薄手の黒いパーカーと、黒いジャージのズボン。
「あ、ありがとうございます」
私は貸してくれたパーカーに袖を通し、ジャージも制服のスカートの下に履く。
とても大きくて、小柄な私にはぶかぶか。
彼の服を着ているのもなんだか不思議。
「よし、行こうか」
「うん」
外に出て、彼の青いバイクが停めてある駐車場へ。
私の分の白いヘルメットも持ってきてくれていて、受け取ろうとしたらかぶせてくれた。
かぶせてくれて、そして緩んでいた顎紐をきつく締め直してくれた。彼の手が私の顎に触れ、距離が近くて。
「自分で出来るのに……」
照れる気持ちを隠すように私はそう言った。素直に「ありがとう」って言えばよかったのに。
先に彼がバイクにまたがりエンジンをかけた。
「後ろ、ひとりで乗れる?」
「うん、大丈夫」
後ろに乗り、掴まる場所を探していると、彼が言った。
「しっかり、俺に掴まってて」
「ど、どこに掴まればいい?」
「手、出して?」
質問すると彼の手が後ろにいる私の手を掴んだ。
「こんな感じで俺に掴んどいて?」
彼は私の手を引っ張り、私の手は彼の腰をがっしりと掴んだ。
「走って怖くなったら、思い切り抱きついていいから」
触れるだけでかなり今ドキドキしているのに思い切り抱きつくなんて、無理!って思っていたのに。
バイクが大きな音をたてるのと同時に走り出した。最初はゆっくり走ってくれたのかな? 結構余裕だったけれど、途中から加速して。結局思い切り抱きつく感じになった。
私の心臓の波が大きくなる。
この波は、バイクの走るスピードが増したからなのか、それとも彼に触れる面積が増えたからなのか。
多分、今、彼に沢山触れているから――。
信号に引っかからずに走ってるから、まるで今、自分が風と同化したみたいな気持ちになっている。怖いなって気持ちもあるけれども、それより気持ちがいい。何かからの開放感のような、自由になれたような。
バイクに乗ってひたすら走っている人たちの気持ちがなんだか分かるような気がする。
多分、30分ぐらい走ったかな?
「着いたよ!」
バイクが停まった。
私は彼よりも先に降りた。
風が当たってたからか、目が乾き、瞬きを沢山した。
「あのね、バイク、想像以上に楽しかった!」
「そっか、良かった」
彼は優しく微笑んだ。
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