占い師はイケメン総長に愛される🌙*゚
立坂 雪花
1*一翔くんの心の中
第1話
――えっ? 私は今から
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私、
実は小さな頃から、ある場所に行くと特殊能力が使える。それに気がついたのは、占い師をやっているお母さんについていき、その場所へ行った時だった。
ある場所というのが『占いの館 クルール』。そこでだけ私は、人の心の中を覗けるようになる。その人の心の中の色と、言葉が途切れ途切れにほわっと頭の中に浮かんできて。
ちなみに今そこで、夜だけバイトをしている。
通っている高校が近いからか、生徒もここに来る。正体を知られ、お互いに気まずくなったり、相手が私に悩みを相談しづらくなっちゃったりする可能性もある。そういうの嫌だなって思って、ここでバイトをしていることが知り合いにバレないよう、赤紫色のフェイスベールで目元以外を隠していた。
話し方もいつも学校では、ぼそぼそとした話し方で、占いの館 クルールでは、はっきりと明るい声で話をし、ふたつの場所で差をつけたりもしていた。
私が占いをする部屋はこんな感じ。
黒い壁で、薄暗い紫色の明かりが部屋全体を包み込んでいる。そして黒い布をかけた丸いテーブルの上には水晶の玉。人の心が見える能力は知られると絶対に変な目で見られたりしそうだから、世間には隠している。だから、その玉の中に占いの答えが映って見える設定になっている。
占いの流れはこんな感じ。
まずは訪れたお客さんの軽いプロフィールと悩みを紙に書いてもらい、話を訊く。相手の頭の中に意識を集中させて色と言葉、浮かんでいることを把握する。そして「本当は、こんなこと思ってますね? 水晶に映っています」と私が言う。すると相手は大体「えっ? すごい! 本当はそんな風に思っていました!」って反応が多いかな? ちなみに悩みは言っていることと、心の中で浮かんでいることが違っている人も多かったりする。
心の中が見えちゃうから、心を読んで、相手が本当はどうしたいのか分析して、前に進めるようにアドバイスをする。最後にはそれをメモして渡す流れ。
暖かい季節。いつものように、椅子に腰かけ待機していると、彼が来た。
彼、瀬戸一翔くんは、私と同じクラスの人。成績優秀で運動神経も抜群。容姿端麗で黒髪がとても綺麗な男の子。クラスでは近づくなオーラが出ていて、内気なタイプの私は一切近づくことさえ出来ない。
しかも彼は有名な暴走族のチーム『月虹げっこう』のイケメン総長。
地味な私とは不釣り合いで、絶対に関わらないだろうなって感じの別世界な人。
彼とは中学の時もクラスが一緒で、実はちょっと憧れている。
彼は制服姿のまま、少しどんよりした雰囲気で入ってきた。学校にいる時の、自信満々でクールな様子と、なんか違う。なんだか疲れているのかな?
「本日はお越しくださりありがとうございます」
「あぁ、はい……」
「今回は初めてですか?」
「はい」
「では、まず、軽いプロフィールと占ってほしいものなど、こちらの用紙にご記入をお願い致します。では、そちらの机でお書きください。あっ、書きたくない欄は書かなくても大丈夫なので!」
私から少し離れた場所に設置してある机で彼は座りながら記入していた。
――なんだろう。一緒の空間にふたりきりでいるとなんだか変に意識してしまって、ドキドキする! あぁ、ダメ! 占いに集中しないと!
「書き終わりました」
とても丁寧にその用紙を渡してくれた。
私は気がついた。
彼の言葉や仕草、学校にいる時と何か違う? 学校よりも人に対して丁寧な感じ。
彼が書いたものを読んでみた。
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お名前 瀬戸一翔
年齢 17歳 性別男
血液型 A型 誕生日 7月1日
今日相談したいこと
集団をどうまとめれば良いのか分からない。
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彼は総長だから、この悩みってチームのことかな?
失礼します!
彼の頭の中に意識を集中させてみた。
まず、人それぞれの『色』が見えてくる。彼は……青緑っぽいけれどとてもくすんでいる。言葉の通り、悩んでいるみたい。ちなみにこの色は、時期によって色が変わったりするんだけど、彼の色は、冷静と優しさが合わさっている。
言葉がほわっと次々に浮かんでくる。
『あいつらに冷た……傷つけてる。もっと優しくしたい……凛としてないと、強そうに見せてないと、総長としては……。でも嫌われたくない……俺はリーダーとか向いていない』
あ、そういうことか。
「瀬戸一翔さん、本当は、こんなこと思ってますね? 水晶に映っています。まずは、あなたがあなた自身、このままでいいのか、悩まれていますね」
「はい」
「強そうな雰囲気を保っていないと、リーダーとして見られないのではないか、でも冷たくしすぎて周りを傷つけたりしてはいないのかとお考えのようで……そしてリーダーに向いていないのではないかと」
「はい」
いや、向いていると思う。
彼は全てがパーフェクトだし、そして……。
「そのままで大丈夫だと思います。まず、そう思っている時点でリーダーの素質はあると思います。優しさもありますし。向いていない人は自分のことだけしか考えられないと思います」
それから私は、もしも自分がチームのメンバーで、総長の彼にされたら嬉しいなと思うことを想像しながらアドバイスをした。
「冷たく見られるのが嫌なら、まずは、話し方を優しくしたり、普段は凛とし、でも時々、笑顔を見せてみたりすればどうでしょうか?」
アドバイスと言っても疑問系な感じで。結局最終的に決めるのは本人だから。ちなみにこのアドバイスや流れは、私のお母さんが占いをしている様子を隣の部屋からこっそり見て得た、知識ややり方。今はもっと人の悩みに上手にアドバイスが出来るように、心理学の本も読んで勉強をしている。
「やってみよっかな……ありがとうございました」
少しだけどんよりした雰囲気が解けて、明るくなった様子で彼は帰っていった。早速ほんのり笑顔を見せてくれた。彼の笑顔を見て、私の胸の鼓動が速くなった。
「えっ? あんな笑顔初めてみた!」
学校ではクールだから、本当に笑顔を見せない。学校では全く人の心が読めなくて分からなかったけれど、彼、冷たく見えるけれど本当はすごく優しい人なのかな?
次の日。
学校へ行き、教室に入ると早速窓際の席にいる彼の姿が目に入る。教室全体は、がやがや生徒達がそれぞれ友達と話をしたりしているけれど、彼は席に着き、ひとりで耳にイヤホンを当て音楽を聴いている。人に冷たくて、周りに興味がなさそうな雰囲気。
でもね、私は知ってるんだ。
彼の心の中。
あれから2回、続けて彼は占いの館に来店した。「笑顔を意識したら、チームのメンバーからも笑顔が返ってきた」だとか「自信を持ってチームをまとめられそうな気がする」だとか。1回40分の占い料金をきっちり払ってくれているのに、彼は私に近況報告をすると残りの時間は占いを受けずに「休んでいく」と言って、静かに座って過ごしていた。お金もきちんと払ってもらっているし、それで彼の心が安らぐのなら良いなと感じ、私は「分かりました。ごゆっくり」と言い、ふたりでぼんやりしていた。
瀬戸一翔くんと一緒にここでぼんやりしている光景、なんだか現実味がなくて夢の中にいるみたい。
あの日から、教室で彼のことを目で追うようになっていった。彼も視線を感じたからなのか、こっちを見て、目が合う。
彼はどんな気持ちで私と目が合っているのだろう。私が占い師だってことを彼は知らないから、多分、何でこっち見てるの?的な感じだと思うけれど。
――瀬戸くんと、仲良くなって、もっと彼のことを知りたいかも。
日に日にそんな思いが強くなっていった。
占い師はイケメン総長に愛される🌙*゚ 立坂 雪花 @tachisakayukika
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