部屋の入り口から聞こえてきた、忍び笑い。
「黒橋さん、それは、褒め言葉ですか?」
颯爽と部屋に入ってきたこの楽園の【主】は、後ろに若い二人の男を連れていた。黒橋がスッと立ち上がる。
「お久し振りです。
「お久し振りです。黒橋さん、『櫻様』はやめてくださいよ。あなたのほうが歳上なのに」
「いえ、若の先輩でいらっしゃるからには分は
「律儀な人ですね、相変わらず」
二人の社交辞令(?)が進行する横で、俺は奥の二人がけのソファーに移り、ちょいちょい、と氷見を呼ぶ。
そして彼を横に座らせる。
「…ごめんな、なんか今日精神的に疲れたろ?母さんはああいうパワフルウーマンだし、俺達の打ち合わせだって、訳わかんねーだろうし」
「いえ」
「まあな、そのうち、神龍の水にも
すると。
「貴方がやんちゃをしなければ、私達が必要以上に動く事はありませんよ?」
「げ」
「やかましくなる
部屋の入り口に近いソファーに向かい合うようにして腰を下ろし、奥の俺達に冷たく視線を流してくる黒橋と、堪えきれない含み笑いを殺しきれず、下を向いて肩を揺らす西荻先輩。
そしてそれを呆然としてみている、若い、二人。
「相変わらず、黒橋さんには滅法弱いなあ、龍哉。
…っふふ…っ、面白い。揉め事を一瞬で納めて、なおかつうちのお客様とキャストにまでサービスしてくれた
「先輩、話すか笑うかどっちかにしないと、後ろの若い子が
顔は上げたものの、まだ笑っている西荻先輩に言ってやる。
「そうじゃなくたってこんな
「そういう風には育ててないよ?」
笑みを浮かべる口元と裏腹に、笑わない瞳。
やっぱりこの人は黒橋と同等程度には面倒臭い。
面倒臭さの、種類が違うだけで。
「そうですか」
「…せっかく来てくれたのに、悪かったね。ハプニング処理なんかさせて」
「好きでやったんで、平気ですよ?飛び込みで部屋、用意してもらった分くらいは返さないと?…この間のご恩もまだ返してませんし」
「返されるほどの恩は売ってないよ?」
「はいはい、西荻先輩に口で勝てるとは思いませんよ。ところで、その子達は?」
聞けば。
「実は二人とも今日が初だしなんだ」
「そりゃ、また」
「
「
「
西荻先輩がわざわざ挨拶回りに連れ歩くだけあって二人とも美しい。
選び抜かれた《paradiesvogel》のキャストの中でも頭一つ抜けたような秀麗さ。
数年前の
印象は随分違う。
翡翠はもの静かで理知的な感じは漂わせるが甘さもきちんと残している、マダム受けしそうなスタンダードな美形。香流は可愛らしい顔はしているけれどよくくるくると動くその瞳の中に
「また、キャストの引き出しが増えましたね、先輩」
「…それは同じ経営者としての勘かな?」
「半々ですね」
「それは光栄」
西荻先輩は自分の横に翡翠を、氷見と黒橋の横に香流を座らせる。
「高校の後輩の、桐生龍哉だ。いくつも顔を持っているが、一番分かりやすく言うなら、【coda di gatto】のオーナー、そして神龍組の若頭」
「!!」
二人の息を呑む気配が伝わる。
「よろしくね?」
ほら、固まっちゃった。
懐かしいなあ、琉音君たちの時もそうだったなあ。
思い出に浸りそうになっていると。
「お待たせしましたー♪あ、オーナー、帰ってたんですか?」
入り口から
「琉音」
「龍哉さん、何とかなだめてきましたよ、あのお嬢様。まあ、可愛かったからいいですけど、僕の好みはどちらかといえば冨永様のお母さんのほうなんですけど」
「お疲れ様♪相変わらずマダムキラーだねぇ」
「えへへ♪」
入り口からまっすぐ入ってきて、俺と氷見の座る二人がけソファーの横に置かれた一人用のソファーに笑顔でストン、と座る琉音。
「あー、固まっちゃってる!オーナー、またやったんですか?」
「お前は
「そーいう風に育てたんでしょうに?龍哉さん、ルイ、
「どーぞどーぞ」
「ありがとーございます♪あー、自分でやるから良いよ?それより、もう今日からはキャストなんだからいつまでもお客様の前でそんなビックリ顔してないの」
ちらりと新人二人を見やって。笑顔でチクリと釘を指す。
成長してるねぇ、琉音くん。
それなら。
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