まだ年上の二人は表面にそれほど緊張感は出していないが、マサは可哀想なくらい緊張してる。
当たり前だよ、会ったことなくたって女丈夫な事は組内で知れ渡ってる姐御だよ?ガクブルするってそりゃ。
「姐さん、姐さんに向かって左から、
一応、“母さん”ではなく姐さん呼びをして三人を紹介する。
「お久しぶりでございます。いつも津島の…組長がお世話になっております。津島高央です。これからはこちらでお世話になる事となりました。よろしくお願いいたします」
「お初にお目にかかります。氷見清嵩と申します。この度は若頭のお慈悲とご高配により拾い上げて頂き、こちらでお世話になる事と相成りました。若頭の為、神龍の為、粉骨砕身務めさせて頂く所存でございます。よろしくお願い申し上げます」
「菱谷匡人です。若の、護衛と身の回りの事を務めさせて頂いております。…す、すいません、姐さん、俺…っ、き、緊張して……。よろしくお願いします!」
三人三様の挨拶。
母さんはそれを一応は真顔で、分かったわ、精進しなさい、と受けてから。
「……龍哉」
「はい?」
「…あんたの所は…」
「?」
「……ズルいわね。イケメンホイホイでも仕掛けてんの?」
「…母さん」
「あんたの所に全部イケメンが集まっちゃうから、うちにいるのが
母さん、そりゃ、本家の組員や舎弟の皆さんが立つ瀬が無くて座っちゃう発言(泣)。
「特にマサちゃん、可愛いわね?本家にも遊びにきていいのよ?…甘いもの、好きかしら?」
そしてマサに食いつくあたり、やはり俺の【母】だよ…。
「あ…あ、あの…」
「母さん、十九の若者を怯えさせないように」
「あらまあ、十九?あんたが十九の時より百倍くらい可愛いじゃない!」
「…………」
「姐さん、それはさすがに切り口が鋭すぎる発言です。いくら若の神経が海底ケーブル並みの耐圧能力があっても実は繊細ですからね?」
「意外とね」
お前ら…。やっぱり真性S同士は集合させちゃだめだ。
見ろ、三人が唖然としてるじゃないか。
「母さん」
「…買い物、行きましょ?」
「はあ?」
何をまた、突然に。
「あんたねぇ、私と隆正さんと、両方が認めた精鋭候補三人に、へたな格好はさせられないでしょ?『色々』、買い出しに行くに決まってるでしょ?」
「母さん…また、その悪い癖…」
「なんですって?」
「…いや、何でもないです」
俺は三人のほうに向く。
明日美パワーにビックリして固まっている状態の彼らに告げるのは、なかなか酷だったが。
「すまん…色々と、その…これからびっくりする数時間だとは思うが。潔く諦めて…巻き込まれてやってくれ」
「「「?」」」
「…大丈夫よ?隆正さんの『お得意様カード』持って来たから♪」
そして、黒橋はと言えば。
にこにこと慣れた笑顔。
そうだよな、付き合い長いからな。こうなった母さんは止められないって事を黒橋は誰よりも知ってるのだ。
…父さん、すまん。
後々親孝行するから許してくれ(泣)。
「あの、…俺、これをどうすればいいんでしょうか…?」
試着しろと手渡されたシャツを手に、泣きそうな顔をしたマサが俺に質問してくる。
「…とりあえず、試着しとけ」
「でも…」
「こうなると抵抗は無駄なんだ。心配すんな」
「…はい」
あれから、二時間程後。
連れていけと言われた百貨店の、外商顧客(つまりは頻繁に百貨店に湯水のように金を落とす金持ち顧客)専用サロンで。
ああでもない、こうでもないと超有名ブランドのメンズスーツ担当者を何人も周りに従えた母さんは水を得た魚だ。
三人それぞれ身長も違えば身体つきも違う。
マサは一七○センチ台前半だが、まだ十代だから伸び盛り、高央さん、いや、もう、津島でいいか。津島は一七○センチ台後半、氷見は黒橋と同じ一八○センチ台。三人ともアスリート並みの筋肉だが。
氷見とマサ、二人は分かるが、津島の身体つきには少し驚いた。事務方一辺倒でやってきたにしちゃ、出来すぎだ。津島の叔父貴は隣の芝生に目がいき過ぎて、大事なもんを見過ごしてたのかもしれねえな。
「桐生様、スーツとシャツに関しましては在庫、オーダー共に承りましたが、その他は如何致しましょう?」
「そうねぇ…。後は靴と、カジュアル関連と細々したものはあるけれどねぇ。うーん、どうしようかしら?マサちゃんはスニーカーとかジーンズとか欲しいでしょ?」
「…い、いえ。そ、そんなに頂いても俺、大部屋ですし…っ…。靴もあの…」
マサのやつ、可哀想に。試着室に入るの忘れて、ぷるぷる首を横に振ってる。
すると母さんは意味ありげに俺に視線を流し。マサに向かって、俺が聞いたこともないような優しい声を出す。
「あらまあ。マサちゃん、そんな事考えなくていいのよ?考えるのは龍哉がやりますからね?……後の二人も遠慮は無用ですよ」
「「「…はい」」」
「それじゃあメンズカジュアルと靴の担当を呼んで?」
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