勘弁してほしい。
今は対応するHPが限りなくゼロに近い。
「『おまかせ』になります。どうぞ、お召し上がりください」
大将の一言で食事会はスタートする。
「旨ぁい、悠希、この白身のやつ、旨すぎる」
「本当だ、美味しいですね」
「…さすがは龍哉の親父さん、舌肥えてんなー」
「…今日は有難うございます」
「いえいえ。桐生様にはいつもご贔屓にして戴いてますから。喜んで旨い鮨、握らせて頂きます。皆様、おまかせを一通り召し上がって頂きましたら、その後はお好きなものをご注文下さい。その為あらかじめシャリは少なめで小振りにしていますので」
「はーい」
だから、雅義。
お前はおまけだろ?今回。
…お前のそのさりげなく装おった無邪気さに助けられてはいるが。
「…それにしても、随分思いきったね?黒橋くん、その髪」
「…皆様、随分私のこれにご関心があるようで」
見やった目の端で捉えた、己のうなじを軽く撫でる指先。
「気分転換に過ぎませんよ。元々、惰性で伸ばしていたんです。切るタイミングが今だと思ったから切ったまで」
「ふぅん…」
黒橋のほうを向いているせいで表情は見えないが、文親の声音は納得しているそれではない。
「深くは聞かないほうがよさそうだね、今は」
「…ええ。そうして頂けると有り難いです…今は」
文親の眼を見て答える黒橋の眼には一点の曇りもなかった。いっそ潔すぎるほどに。
「すいません、おまかせ食べ終わったんで、スミイカ二貫下さい」
「俺は甘エビ二貫」
「…コハダ二貫。後、親父から聞いたんですが、白ウニありますか?」
「ご用意してございますよ。皆様、お楽しみいただけておりますようで祝着に存じます。本日のおまかせは桐生隆正様のご紹介ということで隆正様のお好みのものを特別に出させて頂きましたが、次回皆様方がご予約して下さる際には本日のこれからのご注文も参考に皆様のお好みの《おまかせ》を出させていただく事となりますので。白ウニは二貫でよろしいですか?」
「はい」
「龍哉、僕も白ウニ!」
「雅義…お前の脳みそに『遠慮』の二文字は無いのか?」
「無い!」
はっきりきっぱり言い切るな。
「龍哉、俺達も白ウニ、いい?」
聞こえてくる文親の涼しい声には反発は起きないが。
「…どうぞ、幾つでも」
「ねえ、龍哉」
「なんですか、雅義くん」
「…きも。へこんでんねぇ。…本当に珍しい」
早速来たコハダと白ウニの皿を俺の前に置き、自分の白ウニの皿も確保しながら雅義は呆れたように言う。
「魂抜けた顔して。愛しの恋人がおんなじ空間にいての仲直り兼ねての食事会だってのに。…妬かれんぞ?」
「ああ、わかってる」
「…喧嘩?」
「正確には…違う。自己嫌悪」
「珍しい」
男同士が小声でボソボソと。
俺だって嫌だよ。
「謝れば?」
「…簡単に言うなよ…。出来りゃそうしてるよ」
「え、どういう事?」
「その前段階でシャットアウト」
俺は自分の胸の前で小さなX印を指で作る。
「そりゃまた重症…一難去ってまた一難」
せっかくの鮨だ。俺はコハダを口に入れながらちらりと黒橋に視線を流す。
鮨は、美味い。
さすがだ。
「龍哉、白ウニ、めっちゃ美味い!」
「…どんどん、食べろ」
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