二本の黒い薔薇が届いた。それは午前中。
そして午後に届いたのは、赤い薔薇の周りをぐるりと黄色い薔薇が囲んだ花束。
【coda di gatto】に届けられたその匿名の《ギフト》は、すぐに早奈英さんから電話で俺に報告され、俺はすぐに対応を黒橋に指示した。
「『西』にフラワーギフトだ」
「さて、どの花をどのくらい?」
「赤に白斑の薔薇。本数は十七本。匿名でもアイツには分かるし、受け取る、きっと」
「かしこまりました」
あれから数日たった。
まだ叔父貴は屋敷に居てくれていて、だいぶ下の者とも交流しているようだ。とくにマサがなつき始めていて、微笑ましい。黒橋の態度も穏やかになっていた、その矢先。
気持ち悪いもんを送られて気分は台無しだ。
「黒薔薇を二本。『この世界に二人だけ(薔薇の本数)、貴方はあくまでも私のもの(黒薔薇自体の花言葉)』、花束のほうの花言葉は『貴方がどんなに不実でも』、か。…相も変わらず病んでんなあ、アイツ。誰がお前のもんだよ、俺は組の物でもあるけど、プライベートは文親さんのもんなんです、ぷんぷん(`Δ´)」
「若、瞬間の怒りが強すぎて子供みたいになってますよ」
「まあ、アイツにも前に薔薇枝だけ十五本(貴方の不快さが私を悩ませる)送ったからな。花で返してきたんだろーが」
「でもその返答がまた花で。しかも貴方のほうが過激でしょ。十七本って本数の花言葉は『絶望的な愛』、赤に白斑は『戦争、争い』。完全に
「……アイツは怒るより先に喜ぶな、きっと。想像もしたくないが」
花に頬ずりする姿が目に浮かぶ。
「まあ、いい。荷物がとどきゃ、【挨拶】は終わるからな。…おい、ところであっちはどうだった」
俺は話題を変える。
すると黒橋は珍しくニヤリと笑う。
「成功しましたよ」
「本当か!」
「いい加減イヤになったのかも知れませんね?」
「お前より二つ下だったか?彼は?」
「二十九だそうです。貴方みたいに普段はやんちゃで奔放でも、こちらが本気で脅しの
溜め息一つ。黒橋は俺をみる。
「氷見清嵩…大した【カード】が手に入ったものですよ」
「黒橋、さりげにめっちゃ観察してたもんな。席で脅してた時。言葉苛めに気合いが入ってたから、おっ?って思ったもん。気づいてたのは俺だけだけど」
「…鋭すぎますよ」
「だってさ、お前、右の瞼が二回動いたんだもん」
「…は?」
「あーいうのって不随意運動(本人が意識せず反射的に動く事)だろうから。目に留めたのは俺だけだよ」
「……あの状況下で、ですか?」
示威行動中のblue fairyの店内で。飛び入りの恋人を相手にし、囮にされた弟に気を揉みながら、自分と氷見を冷静に観察していたのか、と目で問われる。
「あの状況下で、だよ。
「まったく、貴方ってひとは…」
「なんか本当に気持ちが動くときとか注視するときとか、ひくひく動くの。本人も周りも、気がついてなかったみたいだから。言うのは初めてだよ」
お前に会ってから。
そういうと何故か黒橋の
「親父付きだった時は知らねえけど。四年前からなら熟知だぜ?…因みに俺は、初めて会ったときの事もまだ覚えてる」
「……」
「早くついちまってよ。なんか、ぼーっと立ってたら黙ってたらどっかのモデルかっつうぐらい綺麗な癖に眼が笑ってない兄ちゃんが出てきてよ。中坊のガキにクソ丁寧な敬語使いやがるから、つい、並の中学生のふりして良い子ぶりっ子しちまった。で、聞くだけ聞いたら親父や爺さんが来る前にさっさと引っ込みやんの」
「…よく覚えてますね。私も覚えてますよ。見かけは中学生だったのに瞳の眼力が全然並の人間とは違う、末恐ろしい十四の少年をね」
「目付きの悪いガキだっただけだよ、ずっとそう言われてた」
「違いますよ。貴方の眼は闘う眼だった。周りはそれが見抜けなかっただけだ。だから見抜いた奴等は皆、貴方から離れられなくなる」
「そんな事言われても、…俺は文親さんしか見えてないぜ」
「…恋だの愛だのはお二人でご存分になさって下さい。私はそれ以外の話をしています。確かに私は貴方に【惚れて】ますが、それが切れろ離れろという繋がりでは無いことくらいは貴方は承知だ。…今ここで貴方が死ねと言えば部屋にとって返して貴方にあの時頂いた
黒橋は音もなく俺の至近距離まで近づいて、すっ、と顔を寄せる。
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