松下の叔父貴に続く大幹部として、前に一緒に飯を食った津島の叔父貴(麻紗美ちゃんのパパだな)と後数人の舎弟、上級幹部、その下に中堅幹部諸々が続く。
だから、松下の叔父貴の行動、発言は注目の的。執行部に名を連ねる舎弟頭が若頭の為に自ら主導的に動く、その影響力は、実は計り知れない。
「半分くらいは分かってやってるだろ?若?」
「…一言もありませんよ、松下の叔父貴」
「そのくらいは織り込み済みだろ?それでいいんだよ。駒がどんなに大きかろうが、動かさなきゃあ、ただの木片だ。如何に俊敏に札を張れるか、それが大事なんだから」
「…そう、言ってくれると気持ちが多少軽くなります。叔父貴。俺はまだまだガキなんですかねえ」
「いやいや。並の二十代とは比べもんになんねえくらいには若は大人だよ。逆に時々は、もたもたして貰いたいもんだ。一足飛びに成長されちまうと寂しいもんだからよ」
「そんなもんですか?自分じゃ分からないけど」
「まあ、坊の場合、もたもたしてみろなんて注文のほうが難儀か。事を一手起こそうとする時にゃ、頭の中で千手先を読んでるようなとこがあるからな」
時々この人は鋭すぎて怖くなる。
さすが不動明王の二つ名は
松下の叔父貴を自由に操る親父の、極道としての力量を思い知らされる。
「さて、そろそろ休憩はおわりかな?今度はまた最初からやり直しだ。また
「お互いに(笑)。手なり足なり痛くなったら交代しますんで遠慮なく言って下さい。酒のお代わりもいつでもね」
「了解」
未だ血臭の濃く漂う室内で和やかにかわされる俺と叔父貴、極道二人の会話。
相手の組員や幹部達が焦り、制止も効かず、下層の構成員であればあるほどパニックになって、【こちら側】の網に引っかかるのを待っては捕まえ、ボロ雑巾のようにして。
勿論、気持ちの良い“仕事”じゃない。
だが、文親の気持ちを半ば踏みにじるような真似をしてまで始めた自分の“計画”。
放り出すわけにはいかない。放り出してはいけないのだ。
「さて、再開するか。今度の“鳥”はいつまで持つかな?」
で。
「な~、黒橋~。つまんない~」
「何がですか?」
「人が一生懸命、松下の叔父貴と頑張ってるのに~。今お前の報告書見たら殆ど場所特定終了じゃんか~」
その日の夜。
ここのところ忙しくしていた黒橋がようやく屋敷に戻って来た。
「…あれは貴方の『趣味』と、松下さんの若への溢れ出る優しさが詰まった嫌がらせでしょ?」
「…淳騎、冷たい」
「嫌がらせ、大いに結構。阪口ごとき
「淳騎くん、口悪いよ」
「貴方は根性が悪いでしょ」
あのさ~、物事にはこう、言い方ってもんが…。
「言っときますが、オブラートなんざくるむ必要すら感じません、冷血上等です」
言い切る横顔はいつにも増して
「半端な優しさは身に毒ですよ?慰めて貰いたいですか?龍哉坊っちゃん?」
「…いい。だから……坊っちゃんは止めろ」
何に当てこすって、“慰めてやろうか”などと言うのか知れている。俺の側近は自分が真に手を伸ばさなければならない痛み以外にはスパルタだ。
寄り添っているからこそ、突き放してくる。
先に進まねば癒えぬ痛みなら前進しろ、と。
「……結局、三人のうち、二人突っつき回して居所の収穫は無しだったもんな~」
「おや」
「松下の叔父貴は三人目も続行する気満々だったんだけど、さすがに叔父貴呼んどいて突貫作業は気が引けたから、もう一人は明日にして、黒橋が戻って来たら三人で飲もうって話になって、今、奥の間で休んでもらってる。暫くは居て貰うことにしたし」
「……」
「“俺を自由に使え”って言われちまったからさ。甘える事にした」
「…そうですか」
「まあ、暫くは若いもんが落ち着かねえだろうが。何せ客人が松下の叔父貴じゃあな」
だから、叔父貴の世話は宮瀬と新庄に任せた。
俺が雅義の家に黒橋に無断で行ったあの時に、黒橋が親父から『借りて』来た、親父の側近衆の中でも特に優秀な若手の二人。
二人に任せたと言うと。
「賢明なご判断です。うちの下っ端を抜擢した所で龍哉さんが恨みを買うだけですし。餅は餅屋と言いますからね。扱いを分かっている人間が対応した方が人間関係も物事も上手く進みます」
…ったく。その言葉を叔父貴の前で言ってみやがれ、と内心吠えたところで。涼しい顔をされるだけだ。
「ところで、一度、自室へ戻ってもいいですかね?着替えたいんですが。あまり松下さんをお待たせしてもいけないでしょう?」
「悪かった」
溜め息を一つついて部屋を出ていく黒橋。
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