数分もたたずに、部屋にそっと入ってくる黒橋。今日は調査主体で動きたいという本人の意向で敢えて同席していなかったのに。
「本当に損な性分ですね、貴方は」
「…来たのか」
「今」
責めるでもない静かな口調がその口元から
「裏口から出られるお二人の表情を見れば貴方の台詞なんていくらも浮かびます」
「…淳騎」
「上手い言い方はあったでしょうに。偽悪ぶるのは悪い癖ですよ」
「俺は悪い奴だよ」
「…そうですね」
自嘲めいた俺の呟きに平然と言葉を返しる。
「否定しねぇなぁ、お前は全く」
「…そんな貴方だから親子の盃を交わしたんですよ、俺は」
「……後悔はしねぇ。文親さんの反応も俺が彼を傷つけちまうことも、織り込み済みだ」
「でも、それと貴方の胸の中が血を流すのは別の話だ」
「…勘弁しろ。舌の根も乾かねぇうちに後悔しそうだ」
「篠崎さんには俺から情報を分かるだけ、言えるだけ、入れときました。後は彼がなんとかしてくれるでしょう、清瀧の若に関しては」
「…お前は良い補佐だよ、淳騎」
「帰りましょうか。…明日から、きっと
俺の肩をそっと押して立ち上がらせながら、呟く黒橋の横顔には静かな怒りが満ちている。
確かに、明日からの日々が今までのそれとは違うものになるだろう予感が、俺の胸にも満ちていた──。
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