雅義の口調は
「いや、俺のは調査じゃなくて、ただの動物のカンだから。情報力【東】随一の常磐の裏付けは必要だったよ」
「そりゃ、嬉しい限り。だけど龍哉、お前、ちょっとなんとかしたほうがいいよ。文親先輩がメデューサ化する前に」
「…龍哉、どういう事か、説明は?」
言われて隣を確認すると。
げ、文親さん、下向いたままで声がワントーン低くなっている。
これはヤバい。
「まず、怪しいなと思い出したのは、妙に阪口と鬼頭の両方の組の出方の腰が退け過ぎてるって所。俺と雅義を殺り逃がして普通なら焦るし、俺達だってあいつらに示威行動やり返してんだから、普通ならもっと突っかかってくるはずだ。幾ら鬼頭組が神龍の
「…で」
「まあちょっと待って。文親さん。雅義、説明しとくわ。俺には縁を切った弟妹がいるんだが、その弟のほうに阪口がコナかけて俺に揺さぶりかけようとしやがった。まあ、実際には揺さぶりにも何もならなかったんだが、前にケリつける為に阪口のキャバクラ行ったってのはこの話だ」
「…そうなんだ」
雅義は表情を変えずに、先を促してくれる。
「それに、やつらが俺とお前にちょっかい出してくる意図が妙に読めねえのがキナ臭かったからな」
「それは俺も思った」
「服の上から
「で?」
「俺は知ってる。操り人形動かすのが大好きな悪趣味な外道を一人…。勿論、今はあいつは【西】の人間だ。作らなきゃ“機会”なんて無い。あんまりにも阪口や鬼頭のがダルいからついつい深読みしちまって、連想したら面白くって」
「…そんで、シミュレーションを頭の中で完全にやって、表面はおくびにも出さず、涼しい顔してやがんのが腹立つんだよな~。龍哉は。同じ極道としてはかなり、
「…アレが“出た”って話は聞いてない」
「そりゃ、文親さんはアイツが大嫌いだもん。坊っちゃん大事の篠崎さんがもしも嗅ぎ付けてたとしても、ひた隠しにするね。っていうか常磐がようやく手に入れたぐらいの情報だから、幾ら清瀧のネットワークでも、まだかもよ」
「…お前は随分“早い”な」
不機嫌さが丸分かりの掠れた低い声。
先輩や第三者がいる場で文親がこの声を出すのはかなり珍しい。
察しの通り、因幡一冬という名は俺達の耳に心地よいものではなく、奴とは少なからず因縁もある。一学年下の“後輩”。
「まあね」
敢えて理由を言わずに俺は文親のほうを向き、彼にだけ通じる笑みを浮かべる。彼の瞳が俺の姿を受け止めて細められるのをうっとりと眺める。
「おーい、そこのお二人さん、公然イチャイチャは目に見えないどこかでやりましょう?俺は慣れてるけど、恋愛人生の九割五分ツンデレじゃなくてツンツンされてる可哀想な年上がいることもお忘れなく」
おどける雅義。目線を流すのはもちろん三條先輩にだ。
「…忘れとけ。今ならイチャイチャの中にお前も入れてやるぞ。今日はいい子にしてたからな」
「へ?」
「…いいよ」
「どういう事?」
俺はちょいちょいと人差し指先を動かし、雅義を挟んで三人頭を寄せる形になる。
そして、一瞬後。
「ひゃあーっ!」
両頬を押さえて雅義が真っ赤になったその理由は。
勿論、俺と文親が両側から雅義の頬にキスしたからだ。
「USBメモリの礼だ」
「三條先輩にやり返してくれたお礼」
「あ…あ……?」
まだ雅義はまともな思考が戻らないようだ。
「言っとくが、“これ以上”はないぞ? …馬の前に人参ぶら下げるようで悪いが」
「これくらいならまたしてあげれば、龍哉?浮気だなんて思わないから?」
雅義を挟んで俺と文親は視線を絡めたまま言葉を続ける。
「動力源は必要だよ」
「文親さんが嫉妬しないなら、あと一回ぐらいはな」
「大丈夫。あと一回ぐらいはね」
「……っ!…精一杯、お二人の為に爆走させて頂きますっ!」
俺、いや俺達か。
西荻先輩達とは逆の意味で連係取れてんな。
雅義のいたいけな恋心(?)すら利用する性悪さよ。
まあ、一冬の事をこれ以上ここで文親に突っ込んでこさせない為に、俺が仕掛けて、察した年上の恋人が乗ってくれたお陰なんだろうが。
「そういや、明日付けで【西】と、阪口と鬼頭に宅配届くぜ?」
「へ?」
「…薔薇の花束。ただし、花の部分取って、枝だけ束ねたやつ。本数は十五本」
すると、背後から忍び笑い。
笑っているのは、ホスト組。
後の俺以外の三人は首を傾げている。
「『貴方の不快さが私を悩ませる』か。粋だね」
「しかも十五本ってことは『お断り』だしね」
くすくすと笑う西荻先輩と後の二人。
「…さすがに打てば響きますね?お三方?」
「まあね、この商売やってれば。でも龍哉の場合は商売って訳じゃなく知識欲と嫌がらせの為に覚えてるっぽいよね」
「…先輩。それじゃ、まるで、俺が酷い奴みたいですよ?」
「おや、酷い奴じゃないみたいな言い
楽しそうな先輩の声が耳に届く。
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