怖い(言ったらどの口で、とシバかれるだろうが)。

いつも従って来てる組員達とは段違いのコワモテオーラ。…まあ、仕方ない。

穏やかに終わったからいいものの、こじれりゃ血が流れる大騒ぎだって想定してこっちは動いてるから。

極力目立たない範囲で精鋭を集めるのは側近の采配だ。


「篠崎、可愛いお姉さんがびっくりしてるでしょ。怖い顔のばっかり集めて」

「すいません、若」


いやいやいや、そこ、篠崎さん謝んなくていいところな気が果てしなくするんだけど。

だって溺愛してっからなあ。『若』を。

周りなんか気にしてねえよ、きっと。


コワモテの兄さん達も頭を下げている。


「文親さん、やめてあげて?篠崎さん、ごめんね、大事な文親さんを俺の事情に巻き込んで」

「龍哉」

「神龍の若、ウチの若が決められた事ですから。お気遣いなく。…大丈夫ですよ」


篠崎さんは相変わらずの底の知れない穏やかさで笑う。

なんか俺、この笑顔見るたびに背中がゾクゾクするんだよな。例えるなら、ティラノザウルスとトカゲ?みたいな。…きっとこれ言ったらまた文親と黒橋に笑われるから、絶対言う気無いけど。篠崎さんもさ、文親がまともな時はまともだからさ。…少なくとも今は。

敬うべき歳上……だろうとは思うぜ。


「それでは、若、帰りましょう、と言いたいところですが、麻乃さんの事で早奈英さんにも会わないといけませんし。…篠崎さん、よろしいですか?」

「既に手配済みですので、こちらは問題なく」

「それはそれは。ではお願いします」

「…お任せ下さい」


そして。

何だか預かり知れないところで側近同士が打ち合わせしてて。文親を横目で見るといつの間にか笑ってるし。

どうやらこれから俺は。


「いつもの所、行くよ?龍哉?…朝までコースで済めば、いいけど」


まあ、なんて素敵な拉致監禁♪

…ってうそぶいてみても。

夜の空気の中で妖艶に微笑みかけてくる超絶美形な恋人に逆らえる訳なんか、有るわけなかった。




いつものホテルの、スイートルームに着いて。

主寝室の扉を後ろ手で荒く閉めたあと。

噛みつくようなキスでお互いを求め合う。


「…っっ…!」


角度を変えてお互いの唇を貪りながら、俺は文親の、文親は俺の服を、脱がせ合う。


「ちっ…くしょう…っ、こんな時に限って…っ、飾りボタンとか…っ、袖口のカフリンクスとかっ…邪魔なんだよっ…!」


普段なら全然平気なのに。こんな不器用じゃ、ないのに。


「焦ってんなあ?…こっちは簡単だけど。仕方ないだろう?威勢を示しに行くのに下手な格好は出来ないよ?お前達とはまた違う“威勢”を示しに行ったんだから」

「……っ…、カフス、外したぜ?何処へ置けばいい?」

「サイドテーブルの上。適当でいいよ」


なくなったら後で探すから、適当に投げれば?と文親は耳元に囁いてくる。

って、あからさまにこれ、薔薇の形してて、真ん中にめっちゃ高そうな宝石いしついたヤツなんだけど、本人が言うなら、…いいか。


「わかった」


部屋の隅にポイっとそれを放り投げて。

俺と同じく上半身裸になった文親をベッドに押し倒す。

そして、また、キスから始める。


「…っふ…っ…ぁっ…」


舌を深く差し込んで、強引に絡めて。応えてくる文親の舌を甘く吸い上げる。


「…んっ…」



少し苦しそうに、文親が眼を細める。

それが俺の嗜虐心を煽る。


「文親さん、苦しい…?」


わざと顎を指で上向かせて、息苦しい状態にしながら尋ねると。


「…くる、…しっ…いっ…」


一度閉じた唇を開いて、すぐに文親は俺に答える。


「苦しい…けどっ…。大…丈夫…だから…っ」

「文親さん…」

「…今…一番…苦しいのは、お前の…っ、ココ…っだろ?」


俺の背中に廻していた指をそのまま俺の左胸に滑らせて、とんとん、と文親は突っつく。

それだけで伝わる…心。

どんな美辞麗句で慰められるよりも、その仕種と短い言葉で。俺の心がしずまってゆく。


「…文親さん」


指でゆっくりと唇をなぞって。

頬に、瞼に、口づけを繰り返し。

重ねた胸の鼓動を確かめ合いながら、もう一度深く、唇をあわせる。


「…っ…ふっ……」


洩れた吐息が痺れるように甘い。

胸の片隅に未だくすぶる微かな苦さを打ち消すように。


「ねぇ…忘れて?…龍哉。…今は俺の事だけ…考えて?」

「…考えてるよ」

「嘘つき…」

「…っっ!」


不意に。

肩口を襲う鋭い痛み。

半身を起こした文親が俺の左肩に噛みついたのだ。


「痛っ!何、噛んでんの!文親さん!」

しつけ、だよ」

「…躾?」

「獣は言葉を持たないから子供を叱る時にはこうするの」

「…俺はいつから文親さんの子供になりましたっけ?」


強がりめいた呟きに文親は取り合おうともしない。


「屁理屈言うな。…お前みたいな子供なんか持ってたまるか」

「……っ」


一瞬、胸に走る、痛み。


「ほら、また余計な事考えてる」


囁かれた次の瞬間、耳朶に軽く歯を立てられる。


「…っ!…こら、文親…っ」

「そうやって…すぐ焦る、すぐ隠す。…胸の中の『傷』が痛いのに、止血もしないで笑ってる。…そんなやつ、子供に持ってみろ?俺なら、いとしすぎて手なんか離せるもんか」

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