あーあ。
こいつがこんな風に笑うと結構ヤバイんだよな。
現に。座卓を挟んだ目前で、拘束した女の横にしゃがみ込んだ雅義の表情は完全にスイッチが入ってしまったソレだ。
俺はちょっと名残惜しかったが箸をおいて胸元からスマホを取り出し、黒橋にかける。
「若、何かありましたか」
「よお、黒橋。悪いんだが、山科さんに声かけてちょっと来てくんね?
「…すぐに参ります」
山科、というのは雅義の腹心だ。
「おい、雅義、その小鳥ちゃんを脅かすな。ひきつけ起こしそうになってるぜ。せっかく、美味い豚の角煮食い始めたのに
「え?美味しいの?」
「お前も早く食え」
何もなかったかのようにまた卓に置いてあった箸を動かし、雅義に話しかける俺をまるで化け物でもみるかのように女が見てくる。
電話をかけた数分後。
黒橋達が部屋に入って来た。
その時には。
俺たちは中断された食事を始めていて。
そんな俺達に黒橋と山科、両名がほっとしているのが分かる。
俺と雅義が会う時、一応側近を待機させても、大概それは当然、“待機”で終わる。部屋に来い、は何か有ったという合図だ。他の組の若頭がどうしてるかは知らないが、俺と雅義の場合は二人とも自分に降りかかった火の粉は可能なかぎりは自分で払う、という主義だから。
それを呑み込んだそれぞれの補佐たちは俺達の好きなようにさせてくれている。
「可愛い小鳥ちゃんだろ?」
「…迷い込んだにしては狂暴そうな『小鳥』ですが」
黒橋が冷たい視線を女に流す。
そして横からもう一人。
「まあ、ご無事で何よりです。…神龍の坊ん、お久しぶりです。…申し訳ありません、この事は
二メートル近い身体を縮めるようにして山科が口を開く。
「いいよ、しなくて。そんな事したらあんたの可愛い坊んが叱られるぜ?」
俺は目の前で素直に俺が旨いと言った角煮にがっついている雅義を指差す。
「美味い店知ったからさ、来れなくなるのツラいわけ」
「…分かりました。有難うございます」
「じゃ、龍哉さん、また後で。おい、こいつをつれていけ」
「はいっ」
いつの間にか黒橋と山科の後ろに控えていた両方の組員が女の身体を畳から引き起こし、部屋から連れ出して行く。
「ごめんな、ケチついちゃったな」
二人きりになると、さっきのヤバめのスイッチはまた、通常モードしかも結構テンション低め、に切り替わる。
「いやぁ、別に。こういうのは面白いから、俺は好きよ? …おい、雅義、お造り(刺身)も美味いよ。食べな」
「…龍哉。お前のそういう所、本当に“
「いや、ただ単に食欲が勝っただけ。だって、小鳥を捕まえるのは一人で十分だろうが?」
そう言うと。
雅義は何故か箸を置いてしまう。
そして卓の向こうから、俺のほうへ回り込んで来て俺の肩を掴むと、はーっとため息を一つ吐き、隣にへたり込む。
「どうした?」
「お前さ、それ、その信頼感、めっちゃ嬉しいけどさ、それが罪作りだって、絶対意識してないだろ? なあ?」
「は?」
急に何言い出すんだ?こいつ。
「そー言う発言、無意識に垂れ流すから俺みたいな片思い連中が諦めきれないどころか、増える一方なんだよ。…お前が先輩しか見えてないのは分かってる。だけどさ、わざとえげつねぇ話して振ってくれたその後で、お前がいるから俺が動かなくても良かったよ的な発言は
「…そうか?」
「そうなの」
よく解らないが。
「ん~とさ、紫藤先輩はさ、例えて言えば高級な温室咲きの薔薇っていう感じなわけ。手ぇ出せなくて当然、見るだけでも満足ってな感じ。でも龍哉を例えていうと、言っちゃ悪いけど…ウツボカズラなんだよな。前から思ってて怖くて言えなかったけど」
「ウツボ、カズ…ラ?えっと…あの、それって…食虫…植物じゃなかったっけ」
俺が遥か昔に受けた理科の授業の記憶によるなら。
「そう」
人をなんちゅうモノに例えるんじゃ。
ちょっと不貞腐れてやると。
「甘い匂いで惹き寄せて、虫をメロメロにして、袋に誘い込んで溶かしちゃう」
「俺が?」
そのイメージって俺にとっちゃ、文親さんぽいんだが。
だが雅義は言う。
「龍哉の場合は甘い匂い、はその男気なんだよ。俺達の、
「…」
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