俺は腰の動きを激しくして、文親の身体を抱き込むように引き付け、より奥まで突いてやる。


「やっ…いや…あああっ…」

「嫌じゃないだろ、……嘘つき(笑)」

「馬鹿ぁ……っ…意地、悪っ…あっ…あっ、ん……龍哉ぁ……」


俺の律動に合わせて【動いて】いた文親の『なか』がキュウッと俺を締め付けてくる。

その文親の“声”と、腰を駆け登ってくる快感に。


「…っ!」

「ああああっ…」


いとも簡単に陥落。

マジか。

童貞でもあるまいし。

一回昇らせとこうか?などと余裕かましといて、最後で昇らされるって。

週二ペースだからそれほど飢えてもいないはずなのに。

荒く息をいている文親の横にゴロンと横になってから、


「やっぱ、文親さん、凄ぇわ」


思わず言ってしまう。


「…なにが…?」

「最後で自分ペースに持ってくとこがさ」

「…誰かさんの【意地悪】が悪いんだよ。俺は知らない」


かろうじて、腕に引っかかっていたシャツを引き抜くように脱いで、ぶっきらぼうに文親は言う。


「身体が冷える。床にお前が投げた上掛け、寄越せ」

「あ…はーい」


邪魔だから、さっさとはいで投げてたんだっけ。

意識してなかった。

俺は床の上の上掛けを先に文親にかけてから、自分も横に入る。

勿論、今度は全裸になって。


「おい…なにやってる」

「え~っ、後一回やるだろうから準備?」

「やめろ、エロガキ」


腰が痛い、と冷たい視線が投げられる。


「…今日は泊まれるわけじゃないんだろ?」

「まあ、ね。文親さんもだろ?」

「ああ」


泊まりたいのはやまやまだが、お互いの立場を考えると、そう勝手も出来ない。俺は組の若い奴を連れてきているし、文親は若い奴に加えて若頭補佐も一緒だ。

泊まれるのは、多くて月一回がいいところ。


天下の清瀧組を背負う若頭と、爺様と本家の組自体はそこそこ大きいが、まだまだ若輩者の見習い(?)若頭との恋は多難だ。


「…でもまあ、仕方ないな」


時計を見ると、午後三時。

文親はベッドの横のサイドテーブルに置いてあったスマホで電話をかける。


「…あ、篠崎?、あと二時間待ってろ。ああ、分かった。…え?おい、龍哉、篠崎が代われって」


俺はスマホを受け取る。

耳をつけると、聞こえてくる、相も変わらず、渋いいい声。


「はい、代わりました。…いや、すみません、え?…分かりました。…はい、はい、じゃあ、後で」

「篠崎、なんだって?」

「……」

「?」

「あんまり、うちの若頭を苛めないでくださいねって」

「!」

「…どっかにカメラ仕込まれてんのかなぁ、っていうかあの人、勘良すぎ」

「…篠崎、恥ずかしい事を…」

「まあまあ、怒んないで。若頭可愛さだから。あと、俺に、あんまり自分に敬語使ってくれるなって言われたけど。使っちゃうんだな、どうしても」


だって年上だもん。

俺が幾ら見た目喧嘩上等、オラオラに見えたって、所詮はガキだ。文親が四歳の頃から側仕えしてる篠崎補佐にため口きけるか。ゆくゆくは代紋背負うお方がそれでは示しがつきませんよ、と本人に言われても。


「お前はそういう所、ビビりだからなあ」

「言うね、文親さん」


傍若無人に見えるのに、そうじゃないよな?と文親は笑う。


「結構義理がたいし、情も厚い」

「…狡いな」


俺は苦笑する。

本人、無意識に殺し文句を言うから。

愛しくって、困る。

まあ、篠崎補佐をさん付けするのには、別に【思惑おもわく】も、【理由】もあるけどね。それは告げてやる必要はない。



「…んっ…」


引き寄せて、口づける。

まだ身体の奥底にさっきまでの熱があるせいか、口づけは甘く、長いものになる。


「…そろそろ、休憩、終了しようか。先輩、頑張ろうね♪」


唇を離してそう誘うと、文親は引き込まれそうな笑顔を浮かべた。


「…馬鹿」






で、二時間後。

先に奥の部屋を出ると、リビングに当たる前室でマサは眠りこけていた。

テーブルの上には恐る恐る頼んだのだろう、ルームサービスの皿が乗っている。

察するに、ミートソーススパゲッティとオレンジジュース、だろう。


「…こいつ、この間もそれじゃなかったか?」


もっと高いもん頼みゃ良いのに。


「おい」

「…」

「おい、マサ、帰るぞ」


くーくー寝込んでるとこ悪いが、俺はマサの耳元に口を近づけて囁いてやる。


「おーい、マサ!」


すると、ビクンっと跳ねるようにしてマサは飛び起きる。


「あっ!す、すみません、俺…寝て…っ」


椅子からあわてて立ち上がり、直立不動で謝ってくるマサに俺は苦笑する。


「いや、延長したのは俺だからな、別にいい」

「若頭補佐には連絡しときました」

「なんか言ってたか?」

「…気をつけて、帰って来いと」


含みのある言い方だなぁ、黒橋。


「…帰るか」

「はいっ」

「…マサ、毎度同じもん食わねぇで、もっと良い物食っていいんだぞ?万札やった意味ねぇだろが」

「とんでもない!だってホテルの食い物って喫茶店の三倍位するから…」


マサの言葉に俺は苦笑する。


「つくづく、貧乏性だなぁ」

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