第89話

繁華街から知ってる街を通り、ようやく家についた。




「…………ただいま」



少し遠慮がちに扉を開ければ、勢いよく抱きついてくる人影。



それは当然竜だった。




「…………ただいま」




もう一度言うが、竜は何も言わない。いつもならおかえりって笑って言ってくれるのに。




「……心配、した」




数分経ってようやく口を開いたと思ったらおかえりではなくそんな言葉だった。




「……心配かけて、ごめん。これからは気を付ける」



「怪我はない?誰かに何かされたとかは?」



「なにも。ちょっと遠く行ってみようかなって思ったら道に迷った」



「遅くなるなら連絡して」



「…………ん」




こくりと頷くと、ようやく私から身体を離した。



悲痛に顔を歪める竜に申し訳なくなってくる。



「……本当にごめん」



再度謝罪すると、頭に竜の手の温もりを感じた。



「これからは気を付けてね」





まだ心配そうではあるけど、いつもと同じ太陽のような笑顔に戻って安心した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る