第72話

「話?」




「うん。あんまり時間は取らないからさ」




「……別に、なんの予定もないからいいけど」





こいつが何故私に話しかけてくるのかがわからない。特にこれといって接点はないし、廊下ですれ違うこともなかった。




少し不思議に思いつつもその男について行った。








「あ、自己紹介まだだったね。俺は八木千里。よろしくね」




そう言ってにっこり微笑む千里。




だけどその瞳には陰りがある。




私はこの瞳を幾度となく見てきた。





「…………よろしく」





千里の目を見ずに私も心にもない言葉を吐き出した。

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