ごめんなさい。天界の姫の私は呪いの王、両面宿儺を愛してしまって世界が滅亡してしまいます。

二本柳亜美

第1話

「俺に従え。」

最終決戦、世界に呪いの子たちが放たれ魑魅魍魎ちみもうりょうが溢れていた

多くの人間は叫び苦しみ死んだ。

私、天界の姫「マリア」は、呪いの王、両面宿儺りょうめんすくなを倒す!・・・はずだった。

倒さなきゃいけない相手なのに、その支配的で強大な力にうっとりとしてしまう私がいた。


悪行も極めれば天才、そのいで立ちに心奪われてしまう。


彼の鋭い視線が横に流れ、私を見下ろした。

呪いの重圧が、私と選ばれし天界の天使たちに押しかる。


「くっ・・・なんという呪いの圧!!」

「姫、ここは天界の幸せなる指輪ので力を弱め、封印を・・・っ」


私の力は幼いときから偉大と言われ、身に着けている天界の指輪の力があれば呪いの王など、消すことができたはず。

天使たちは、もう自分たちの力では勝てないと、私に最後の祈りを託していた。

私もここで負けじと力強い言葉を投げかけなければいけない。

しかし、私は、両面宿儺の放つ気に心の奥底にある渇望が目覚めてしまったのだ


両面宿儺は、地面を炎で覆い尽くし、夜空に舞い上がり、月を背にして言った。

「アリア、今日も、おまえは大勢、殺しまくったな。」

私は、人間は殺してはいない、殺したとすれば呪いの王がよみがえらせた呪いの子、妖怪たちだ。

「やめなさい、そういう言い方、私は人間を助けるために・・・」

両面宿儺は見下しながら、美しい顔でにやりと笑う。

「みな、殺したのは事実。たのしそうだった、アリア。おまえにはそういう素質がある。」

「やめて、一生懸命戦っただけよ!」

両面宿儺の言葉を否定する。


後ろにいる天使たちも、瀕死ながら両面宿儺を睨みつけた。


「惨い殺し方だった。」

過去を思い出してニヤリと微笑むように、力強く、甘い声で言った。


「どうだ?俺の女にならないか?」

「・・・!?なっなるわけないでしょう!」と口では否定したが、

私は感じてしまった、自身の欲望を。


「嫌そうには見えないが?」

「な、なにを!!私は天界の姫、あなたを倒す使命があるの。」

単なる依存心ではなく、強いものに支配されたいという欲求が芽生えていた。

必死に隠そうとしたが、

両面宿儺から出でる、強さに服従したいという気持ちを

見透かされてしまっていた。

「ははっ」

両面宿儺はアリアを無様に笑った。

「今、倒してやるんだから!」

天界のお父様、お母さまから譲り受けた幸せなる指輪の力を使って、両面宿儺を倒そうとした。


その時・・・。

「動くな。動いたら殺す。」

気づけば、両面宿儺は私のすぐ目の前にいた。

「・・・ッ」

首に鋭利な両面宿儺の爪が食い込んで血が流れる

「姫ッ」

天界の私を大事にしてくれていた者たちが私を心配する声がした。


「動いたら、まわりにいるこいつらも、俺は殺せる。アリアよ、おまえは、わかっているだろう、この俺とおまえたちの力差が。」

「・・・なにが、目的なの?呪いの王、両面宿儺。」


私が問うと、こう答えた

「気が強い女は嫌いじゃない。」

ゆっくりとした低い声で両面宿儺が耳元でささやく。

その甘美な声に私の心臓がドクンと鳴る。

「生き物と言うものは自分が持ってないものを欲しがるものだ。

そう、おまえもそう思っているだろう?」

「・・・!わ、私は」

そう両面宿儺に首を絞められたま持ち上げられているが、

顔を赤くなるのがわかった。

「ふふ、はははっ、気分がいい、そうか、そうか。」

頭では否定しているが、心臓の鼓動がなり、体が熱くなる。


両面宿儺は体を寄せ、顔を近づけて誰にも聞こえないよう

小声で甘くささやいた。


「大丈夫、悪いようにはしない、俺を信じろ。」

「・・!?」


両面宿儺は私の力の源、幸せなる力の指輪をするりと外した。

「あっ・・!それはダメ!」そう口では言ったものの、

身動き一つできないほど、支配力に魅了され動けなかった。


両面宿儺はニヤニヤとしながら、私を見つめて言った。

「俺に従え、

今のおまえには何もできまい。

ただ・・・

媚びを売って甘えてくれば、

この天使たちを助けてやっても良い」

「・・・ッ・・・何を言って!?」

両面宿儺が幸せなる指輪を頭上高く上げると、一人の天使が苦しんで死んだ。

「や、やめて!!」

「なぁ?どうする?天使アリアよ」


私には果たすべき使命がある。この世の幸せのために。

みんなを、助けるために。

倒さなきゃいけない。しかし、そんな力はアリアにはもうなかった。

幸せなる指輪の力を使っても倒せるかどうかわかる相手ではない。


「・・・私、なんでもする、だからっ!!」

何もできない自分に涙が流れでる。

両面宿儺は高らかに笑った

「待っていた、その言葉を。」

両面宿儺は頬につたう涙をべろりと舐めとった

「ははっ、その泣き顔、良い。」

見下しながら満足げに言い放つと私の思考とは逆に頬は赤くなる。

死んだ天使のことが頭から消えてなくなりそうだった。


天使たちは、首を掴まれ血を流す私を助けようとするものの、

両面宿儺の呪いの力に抵抗できずに苦しむ声をあげた。



「ははは、指輪は俺のものだ。そして、このアリアも・・・」

両面宿儺に力ずくに私を抱き寄せ強引に口づけした。

「・・・俺のものだ・・・!」



心には、屈したくないという気持ちがあった。

自分の力で立ち続けること、天界の姫であることを誇り、

強く生きて幸せになることを誓っていた。

しかし、両面宿儺の男らしい腕に掴まれていると

その固い決意が揺らいだ。


彼に見下され、

瞳に見つめられると、

私のなかにある防壁が

崩れていく。

惨い行いとは裏腹に、

甘くささやく言葉と彼の手は優しく

私を包み込むようだ。

悪に負けたくない。

と思う一方で、

彼の声に消されていく。


彼は呪っていた、世界を。

私は彼を理解してしまった、

それを受け入れてしまった。

両面宿儺が手をあげ、

呪いの力を使うと

あたり一面が壊れていく、

人間の作った建物が壊れていった。

すべて自然に還っていく・・・。

天使たちは私を見て、

悔しそうな顔をし退避した。


手が震え、

不安そうにする私を見た両面宿儺は

腕の中に引き寄せ手を握りしめた。


「怖いか?」

「・・・ええ、こんな光景みたことないもの。」

「俺は生に執着はないが、今はおまえを殺さないようにしないといけないからな。労わってくれよ?俺を。」

そう甘く言葉を吐いて、きつく抱きしめられる。


私はすべての抵抗を諦めた。

身をゆだねることで世界が平和になると信じるしかない。

安らぎと、幸福感が私の中へ押しよせて、

うっとりと満たされていった。


頭の中に、抵抗しなければ!と感じたが、

甘美な感覚に溶け込んだ。

それは女が男の支配を受け入れることで感じることのできる

特別な幸福感。


「ははは。どうだ?俺は、心地がよいだろう?

恍惚とした顔をしているぞ。」


彼は呪いの王、両面宿儺。

私と契りを交わし、

世界は幸せを取り戻した。


半分だけ。


あたり一帯が火の海に変わり、

海が押し寄せ、

山が裂けた。

いけないとわかっていても、

その力の強さが惚れてしまった私がいた。


彼は、焼けた荒れ地の上で私の薬指に指輪をはめた。

光り輝いていた指輪は、赤黒くうねりの炎をあげている。


「アリア、飽きたらおまえを殺して地獄に堕としてしまおうと思ったが、

俺も、恋してしまったようだ。」


私たちは人間じゃない、この関係は永久につづく。

熱く唇を何度も重ねられ歪んだ愛を強く結び合った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ごめんなさい。天界の姫の私は呪いの王、両面宿儺を愛してしまって世界が滅亡してしまいます。 二本柳亜美 @aminatume0777

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ