第64話

「わ、若月君!?」


アタシは必死で彼から離れようとした。


こんなの心臓が持たないよ。



「10年前もこんな風に綺を抱き締めてたら別れる事はなかった?」


若月君の声が近すぎておかしくなりそうだった。


彼の声も薫りも体温も、


アタシの頭を麻痺させるまるで媚薬みたい……。


「今更俺の言う事は信じられない?確かに綺と付き合うようになっても色々告白されたけど他に好きなコがいるって断って……、」



そう言って若月君は途中で止める。


そして大きな溜息をついた。


「あ、あの……?」


彼は小さく笑う。


アタシにはさっぱり笑う事が理解出来なかった。



「綺……思い込みも大概にね。」


若月君はアタシの首筋に触れた。

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