第63話

「綺、どうかした?」


背後から若月君の声が聞こえた。


『綺、その声って若月っ、』


アタシは思わず通話終了のボタンを押してしまった。


「あ、」


しまった、と思ったけれど掛け直す余裕なんてなかった。



「誰から?」


「あ……渓人、」


アタシはケイタイを握りしめたままで彼の方に振り向く事が出来なかった。


「また渓人……仲イイね。」


「そんなんじゃ……、」


「綺は変わらない。今もあの時も俺以外の誰かに逃げる。」


「!?」


アタシの身体が強張る。



それは後ろにいる若月君がアタシを抱き締めたから。

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