第62話

アタシは席を立つと隣のリビングへ向かう。


「もしもし、渓人?こんな時間になに。」


『お前どうしてくれるんだよ!』


電話に出るなり渓人は凄い剣幕だった。


「なに?何がっ……」



『汐莉に綺と付き合ってるのかって疑われたんだよ!どうしてくれんだよ……泣きそうだよ、だからこんな役嫌だったんだ。若月さんにも汐莉にも疑われてさ……』



汐莉さんは渓人の彼女。


「あ……ごめん、アタシ嘘だって言うからっ、」


『お前が出てきたら余計ややこしくなるに決まってるだろ。』


渓人は電話の向こうで溜息をつく。


アタシ自身が若月君から逃げようとした代償は、


取り返しのつかないものだった。

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