第8話

私は携帯を取り出すと、音量を下げてからある動画を再生した。



パトカーの音が浸すら流れるって云う動画を。



音量を少しずつ上げていくと、見ていただけの男たちがサイレンに気づいて仲間たちに知らせた。




「ヤベッ、サツだ……!!」



「逃げるぞ!」



「散れ……!!」




おぉ!


効果覿面こうかてきめん……!!




集団が去って行って、暴行されていた男が一人になると私は動画を止めた。




一人になった男はヨタヨタと歩きながら、コンクリートの柱に寄り掛かり座ている。


私は男に近寄ると、顔を上げたその男とパチリと視線が合った。




え……。



ウソ──




「……フッ。あー、なるほどな。それで直ぐに止んだのか」




この前の人だ……。




うわぁ!


ほんとに会えるなんて思ってもみなかった!!




ね、念の為に声を低くしておこう。





「──今回初めて使った作戦だったが、びっくりするほど上手くいったみたいだ」



「そりゃ、実際のパトカーのサイレン鳴らされたらな。上手く行くだろ」



「お前たち全員、喧嘩に夢中だったもんな。


にしても、大丈夫か? かなり酷そうだが……」



「大丈夫だ。もう少し休めば回復する」



「そしたらお前はバケモノだな」




そんな傷だらけで、一瞬で治る訳ないでしょ。



絆創膏あったかな?


携帯のカバーのポケットを見ると、折りたたまった三枚の絆創膏を見つけた。



補充してから使ってなかったんだ。


良かった。




「ちょっと待ってろ」



「あ……?」




私は近くの自販機から水を買うと、ポケットティッシュに浸して顔の傷周りの汚れを落としていく。

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