第89話
「こんな夜中に帰るとか言わないで。」
千秋君の困惑したような声を聞きながら借りていたTシャツを脱いだ。
すぐ隣に彼がいるのに羞恥心も感じることなくキャミソールの上からブラウスに袖を通した。
それよりも本当に千秋君と私は心が通じあっているのかよく分からなかった。
千秋君はそんな私の姿を見ながらため息をつく。
何か言いたそうだったけどあえて言葉にしないでいた。
「……千秋君、ごめんね。」
「なんで謝るの。何考えてる?」
着替え終わると私は千秋君と視線を合わせる。
「帰るね。」
「ねな……、どうすれば良かった?君の嫌なことはしないって言ったからそれを守ったつもりだけど?」
その気になったのは私。
千秋君は悪くない。
私の思いも守ってくれたのに……。
千秋君を前にするとよく分からない複雑な感情が私の心を乱していく。
「……ねぇ、生殺し、て言葉知ってる?」
千秋君の感情の見えない淡々とした声音にちょっと緊張する。
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