第88話

「あ、正気になったのか。」

千秋君はそう言って私から離れた。


「え?」


私は上がる息を整えるのに必死だった。


千秋君は始めから……そんな気はなかったってこと?


さっきまで熱かった自分の体温が急激に冷めていく感じがした。

私の様子に何か察知したのか千秋君は私の顔を覗き込む。


「……ねな?」


「酷い……千秋君は。」


「何が?」


「私の反応を探ってたの?内心笑ってたんだよね。」


「何言って……、」


「ごめんなさい、私は分からない。こんな時どういう風に振舞ったらいいのか。千秋君みたいに冷静でなんていられないから。」


そう言ってベッドから下りる。そしてサイドテーブルに置いてあった服を手繰り寄せた。


「何してるの?」


「着替えるの。」


「え、ちょっと待って?着替えるって今から帰る気?」


「うん……、千秋君と一緒に過ごす自信がないの。」


私の言葉に千秋君は少し動揺していた。

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