長澤涼子の憂鬱

第60話

仕事も終わり電車に乗る前にテイクアウトしようと近くのカフェに入る。


そこで意外な人物と遭遇する。

周りの視線総集めのその容姿は、


「千秋朔がいる。」

思わず声が出てしまった。

その声に彼は反応する。

「フルネームの呼び捨てとか失礼だと……あれ、そのネームホルダー、」


私は胸元を見る。

あー、また会社のネームホルダーをつけたまま退社してしまった。

急いで首からネームホルダーを外した。


「こんばんは、千秋さん。ねなの同僚の長澤涼子です。」


ねな、と言う言葉に彼は目を見開く。


私はどうしても知りたいことがあった。

店内でコーヒーを飲んでいる千秋朔の前に座る。

「座っていいとは言ってないですよ?」

「ねなのことで聞きたい事があるんです。」


そう言うと彼はため息をついた。そして読んでいた本を閉じる。

ねなの話題に弱いのか。


「あの時なぜ千秋さんの担当を外れたいと言ったのか理由を聞いても教えてくれないんです。本当にねなは貴方に失礼なことをしたんですか?」


千秋朔は直ぐには返答しなかった。


「ねなは、千秋さんが好きなんです。大人になっても。千秋さんはどうなんですか?」


「好きだよ。」


直球の返答が返ってきた。


「だったらあの子に伝えてあげてください!ねなは一度貴方に振られているから前に進めないでいるんです。」


「伝えたつもりだけど、拒絶されたから俺からはどうしようもできない。」


「伝えた……?ねなが拒絶?理解できないんでんすけど、」


「態度で伝えたつもりなんだけど。」

態度……?


「あの千秋さん、」

「押し倒したら俺とはこういうことしたくない、てね。」

そう言って千秋朔は困った表情をした。


嘘、ねなはこの千秋朔から迫られてたってこと!?


何この見た目と違った肉食!!

大人しくて物腰柔らかい!?一体ねなの目はどっち向いてるのよ!!

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