第53話

千秋君のいる商談ルームに入る。


入ってすぐ彼と目が合う。だけど私は挨拶をすると彼から逃げるように反対側のソファに座った。


スーツとか反則。

思わずうっとり見入りそうだった。


「塚原さん、考え直してくれない?」

千秋君が久しぶりに私の事を苗字で呼ぶからちょっと驚く。

確かに部長も主任もいる場所でさすがに呼び捨てはない。

名前で呼ばれることに慣れてしまっていた。


「あと少しでこの仕事も終わるから、最後までこのまま頑張って欲しい。」


あ……、そうだった。


千秋君とこの仕事が終われば……彼とはこの先また仕事をするとは限らない。

これが私と彼にとっての最後かもしれないのに。



忘れていた。

別れがあることを。

そう思うと、胸が締め付けられた。


後悔しか私には残らない。

2度目の本気の恋も千秋君で、そしてまた別れが待っていた。


彼から逃げたら楽になれると自分から離れたのに大事なことを私は忘れていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る