第17話 ここにしかないもの
ベッドで休んでいたユーティアは、ふと目を覚ました。
「気づいたか? ユーティア」
と、心配そうな顔をしたギュスターが駆け寄ってくる。どうやら、あれから自分は泣きつかれて眠ってしまったらしい。
ふいに昼間の出来事が脳裏によみがえり、ユーティアは思わず恋人へ手を伸ばした。
「っ、ギュスター……!」
「ユーティア、もう心配するな。これからはさらに警備を強化して、護衛も二人でつくことに決まった」
優しく手を取ったギュスターがそう言い、ユーティアは思わずきょとんとしてしまう。
「え?」
「そのままの意味だよ。護衛は二人いた方が心強いだろ」
と、ギュスターのうしろからダリウスの声がした。見るとそこにはシルフもいて、メイリアスもいる。
「あっ」
それまで彼らの存在にまったく気づかなかったユーティアは、とっさに手を引いてしまう。しかし、次に言葉にしたのは何とも能天気なものだった。
「え、でもそれじゃあ、これからはギュスターと二人きりになれないの……?」
すると、ダリウスとシルフが同時に呆れたため息をつく。
「残念ながら、それは無理だな。ノーアが言うには、ユーティア自身も油断しないように、いつでも身構えておけってことだ」
と、シルフは言う。
馬鹿な質問をしてしまったと恥ずかしくなり、ユーティアはうつむいた。
するとタイミングよく扉が開き、ノーアが部屋に入ってきた。そのうしろにいた小さな少年もといクランベリー王女が、たたたっとベッドに向かって駆けてくる。
「ユーティア! ごめんね、大丈夫だった? 怪我はない? マーニが悪い奴だなんて、ぼく知らなかったんだ」
と、早口に言いながらギュスターを無理やりどかし、クランベリーはユーティアの手をとった。
「わたしは大丈夫ですから、どうか謝らないでください」
と、ユーティアはクランベリーの手を握り返して微笑んだ。
「よかったぁ。ユーティアが危ない目にあったって聞いたから、すごく心配だったの。でも元気そうで安心したよー」
クランベリーはそう言ってにっこりと微笑む。
「気分は落ち着きましたか?」
と、ノーアがクランベリーの隣から声をかけてきた。
「はい、もう大丈夫です」
「それはよかったです。少し話をしたいのですが、よろしいでしょうか?」
ノーアはクランベリーの様子をうかがう。
「……お仕事の話、だよね。うん、どうぞ」
クランベリーはすぐにユーティアのそばを離れて行った。すかさずメイリアスがクランベリーの相手を引き受ける。
「居合わせた人々への説明はすでに済ませました。ただ眠らされていただけだったようで誰一人として大事には至りませんでしたが、あなたの具合はどうですか?」
ギュスターはただこちらを見ていた。
「……大丈夫、だと思います。頭も痛くないし、特に悪いところはありません」
「それならいいのですが、もし何かあったらすぐに教えてくださいね。それと明日からは私とダリウス、シルフとギュスターの二人ずつで護衛をさせていただきます。ご理解いただけますね?」
群青色の瞳がまっすぐに自分を見据えていた。ユーティアは苦い思いになりながらもうなずいた。
「はい、分かりました」
「ありがとうございます」
ほっとしたようにノーアが息をつき、ユーティアは疑問を口にした。
「ところで、さっきはどうして、すぐにダリウスさんが駆けつけてくれたんですか? 普段は仕事で外に出ていると聞きましたが……」
その問いに反応したのはシルフだった。椅子を立った彼は、軍服の胸についた石を取り外して見せる。
「俺たちには魔宝石があるからな。闇魔法を感知すると、その情報が他の三人に伝わるようになっているんだ」
一見するとただの飾りにしか見えないそれは、薄い緑色に染まっていた。ノーアの胸には赤い石が、ギュスターとダリウスのベルトにはそれぞれ青と黄の石がはまっていた。
「それで、たまたま近くにいたオレが一番に駆けつけたってわけ。ちなみにこの魔宝石はシルフが開発と製造をした、ここにしかないものなんだぜ」
と、ダリウスは誇らしげに言った。
ユーティアが納得すると、シルフはまた口を開いた。
「勝手にいじってしまって申し訳ないんだが、ペンダントの石を魔宝石に変えさせてもらった。これには闇魔法を跳ね返す力があるから、これからは忘れずに毎日身につけてほしい」
と、近くに来るなり花形のペンダントを手渡す。それはヴィアンシュにもらった時とほとんど変化がないように思えたが、よく見ると中心の赤い石の透明度が増していた。
「え、何それ。オレ聞いてないんですけど?」
「どういうことだ、シルフ。許可は取ったのか?」
ダリウスとギュスターが驚いて言うと、シルフは答えた。
「ああ、お前たちには話していないが、ノーアの許可はちゃんと取っている」
「ええ、数日前に許可しました」
と、ノーアも言って、二人は仕方なく口を閉じる。
ユーティアは顔を上げてシルフを見た。
「分かりました、ありがとうございます」
「いや、こっちこそ所有者の許可を取らずに変えてしまってすまない」
と、シルフは言うと、先ほどまで腰を下ろしていた席へ戻った。
やや不満そうにしながらも、ギュスターはユーティアのそばへ寄ると、ペンダントを首につけてくれた。
貴族のお洒落に夢中ですっかり存在を忘れかけていたが、自分を守る道具になってくれて、とてもありがたかった。
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