第13話 闇魔法の勢力
愛するギュスター様へ
ようやくお城での生活に慣れてきました。これもあなたの親切な教えのおかげだと思います。
ノーアさんやダリウスさん、シルフさんにメイリアス、そしてクランベリー王女様も、みんな優しくしてくれて、田舎者のわたしにこんなに親切にしてくれる人たちはそういないように思います。
ところで、お仕事の方はどうですか?
この二週間近く、わたしはずっと遊んでばかりだったので、情報らしい情報もよく知りません。闇魔法の勢力はどうなっているんでしょう?
一番詳しそうなノーアさんに何度かたずねましたが、何も教えてもらえませんでした。それと最近知ったことですが、わたしが神の宿り主であることを予言した方はシルフさんのいとこらしいですね。どんな方なのかは想像もつきませんが、まだ会ったことがないので、許可されるのならぜひお会いしたいと思っています。
正直な話、わたしはあまり情報を持たされていないように思います。このことに何か重大な意味や理由があるのならあきらめますが、やはり知らないままでいるのは嫌です。教えてもらえるギリギリのところまで、情報が欲しいです。
闇魔法の勢力のことだって、わたしはよく知りません。自分を狙っているかもしれない人たちのことを知らないでいるのは、それはそれで危険だと思うのですが、どうでしょうか?
ぜひノーアさんを説得して、わたしにいろんな情報を伝えてください。お願いします。
それでは、二日後にまたお会いしましょう。
イザヴェル城のユーティアより
* * *
飾り気のない白と黒のワンピース、デザインは今流行りのもので丸くふくらんだスカートが可愛らしさを引き立たせる。頭は横の髪をうしろにまとめて黒いリボンの髪飾りで留めていた。
「ミスター・ファールバード、とても可愛らしいと思いません?」
ギュスターはひかえめにふわりと回って見せた彼女の愛らしさに、思わず言葉を失っていた。
「どう? 似合ってるかな?」
と、ユーティアは照れ笑いを浮かべながら彼を見る。
「あ、ああ、可愛いと思う。――じゃなくて! 今朝はノーアから許可が下りて、お前にいろいろ教えてやれることになったんだっ」
ギュスターは顔を赤くさせながら言いなおし、ユーティアへ持ってきた紙の束を渡した。
「あ、手紙読んでくれたのね。ありがとう、ギュスター。で、これは?」
「闇魔法の勢力についてまとめたものだ。ユーティアの身を守るのに使えそうな情報はすべて話すつもりだ」
満足したメイリアスが朝食の準備をしに部屋を出て行き、ギュスターは椅子に腰を下ろした。
「前にも話したと思うが、俺たちの仕事はお前を守ることと、危機を回避するために闇魔法の使い手を一人残らず捕まえることだ。今まではあてになる情報があまり手に入っていなかったんだが、ついこの前、ようやく有力な情報が入ったんだ」
ユーティアは彼の向かいに座りながら、受け取った紙束をぱらぱらとめくって見た。
「奴らはやはりお前を狙っている。その目的は調査中だが、神の宿り主を探している人間がいるのは確かだそうだ。俺たちが動いているのは奴らも知っている様子で、いつ何が起こるか分からない状態になってきている」
「じゃあ、もしかしたら近いうちに何かが?」
「ああ。ノーアは昨日から城の警備を強化して、城内に入る者にも制限をかけ始めた。だからお前も、これからはあまり部屋から出ないようにしてほしい。街へ行くのも、今までより厳しくなるだろう」
ユーティアは紙束を机の上に置く。
「分かりました。他の情報は?」
「それと……実は、最高神がどうしたら目覚めるのか、その方法がまだ分かっていないんだ。闇魔法の勢力が先にその方法を見つけてしまったら、こちらは圧倒的に不利になる」
「記録には残ってないの?」
「ずいぶん前から様々な文献を調べているが、まだ見つかっていない。今まで一度も最高神を復活させた者がいないことから、闇魔法の勢力も俺たち同様にその方法を探すのに苦労しているはずだ。しかし油断はできない」
そう言ってギュスターは小さくため息をこぼした。
「どちらにせよ、俺たちは闇魔法の勢力に捕らわれないよう、お前を守るしかないわけだ」
ユーティアはうつむいた。――自分自身、この状況に危機感を持って生活しなければ。
「ところで、予言者に会いたいと言ってただろ? 彼女の方からも一度お前に会いたいと言っていて、今日の午後から会う約束になった」
と、ギュスターは口調を明るいものにした。
「本当に?」
少し目を丸くしてユーティアが聞き返すと、ギュスターはしっかりとうなずく。
「ああ、本当だ。今日は彼女のいとこであるシルフも同席する。ただ、彼女には少し近寄りがたいところがあるから、それだけは覚悟しておけよ」
「うん、ありがとう」
先ほどまでの嫌な気分が、にわかに晴れていた。
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